ショートストーリー:ジジ活2

 人に教えられるほど成績がいいかと言われたら、微妙なところだけど、簡単な英会話くらいなら大丈夫だと思う。……一応、基本的なところから勉強し直してみよう。


「私は、そうですね、字がきれいになりたいので習字を習いたいです」

「いいっすね! 俺もうまくなりたいっす」


 溝口さんも石川さんも、もう結構な歳なのに、向上力があってすごいなと思う。

 俺なんか、授業中はほぼ寝ているというのに。唯一自慢できるのは、アルバイトを一生懸命頑張っていることくらいだ。



「みなさん、やりたいことがあって素晴らしいですね! ちなみに鈴木さんは何かおありですか?」


 さゆりさんが鈴木のおっさんに話を振った。

 おっさんは“待ってました”といわんばかりのドヤ顔をして、



「ワシは、吹き矢を勉強したいとおもっとる」と言い切った。


 おっさん以外の全員が面食らったような顔をしている。

 予想の斜め上を行くような答えに、誰も言葉が出ないようだった。



「吹き矢って、おっさん、仕事人にでもなるつもりか?」

「そんなわけないだろ。詳しいことはワシもわからんが、スポーツ吹き矢というのがあるらしくてな。身体にもいいらしいぞ」


 へえ、知らなかった。おっさん意外とアンテナ張ってるじゃないか。

 毎日新聞を読んでいるから、どっかに紹介記事でも載っていたのだろうか。



「とりあえず、仕事が落ち着いてきたらインターネットで申し込みたいと思う」

「え、おっさんパソコン使えんの?」

「バカにするな、当たり前だろう。吹き矢もネットサーフィンしていて知ったわい」

「へえ、意外とイマドキなんだな」


 ほぼ毎日顔を合わしているけど、鈴木のおっさんがパソコンを使えるなんて知らなかった。新しい一面を知った気がする。……別に、知りたいわけじゃなかったが。


「スポーツ吹き矢、面白そうだね」

「私もです」


 溝口さんと石川さんも興味津々の様子だ。吹き矢はジジィの心をつかむワードなのだろうか。


「私も、興味あります! 習ってみたいです」

「さ、さゆりさんまで?」


 どうやら、ジジィだけではないらしい。いやいや、こんな可憐な女性にはさすがに似合わないだろう。

 でも、似合わないことをするさゆりさんもきっと可愛いに違いない。


 俺は「さゆりさんが興味あるなら俺も!」と便乗した。


「じゃあ、帰ってパソコンで調べてみるとするかのお」とおっさんがいうので任せることにした。




――それから二週間後、喫茶リリィが臨時定休日の時があった。



 喫茶店を閉めて、さゆりさんと俺、そしてジジィトリオはスポーツ吹き矢の体験会に参加していた。



 ジジイの行動力、半端ない。

 そう感じた出来事だった。


  

  おわり

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