2.いじめっ子といじめられっ子~ダンディおじさんと少女2~

――午前中でアルバイトを切り上げた俺は、気持ちが沈んだまま高校に向かった。


 喧嘩した友達も来ていたけど、それぞれ別のクラスメイトと行動を共にした。

結局、その友達とは一言も話をせず、目さえ合わさずに、登校日は終了した。こんな気持ちになるんだったらやっぱりサボればよかったと行った後で後悔した。


 その日の夕方、俺は再び喫茶リリィにやってきた。店に入ると、お客さんは鈴木のおっさんと溝口さんの二人だけで、石川さんの姿はなかった。いつもきまって三人でやってくるのに、珍しいこともあるもんだ。


「溝口さん、石川さんはどうしたんすか?」

「トラブルがあったとかで、後から行くって言ってたよ」

「へえ……」


 溝口さんのお店は老舗の和菓子屋。饅頭やどら焼き、ようかん、みたらし団子などが売られている。ちなみに季節のおすすめは水まんじゅうで、中身はこしあん、抹茶あん、フルーツあんがあるらしい。いつも賑わっていて、商店街でも一、二を争う人気店らしいけど、どんなトラブルがあったのだろう。

 和菓子屋のトラブルって想像つかない。


 まあ、遅れてやってくるようだし、何があったのかは誰かが尋ねるだろう。休憩室に学校用カバンを置き、制服の上から深緑のエプロンを身に着けて店内に戻った。ちょうどそのタイミングで、来客を知らせるドアベルが鳴った。


 姿を見せたのは石川さんと……まだ小学生くらいの女の子の二人だった。女の子の髪は長くて、パーマをかけているのかややウェーブがかっている。目がくりっとしていてお人形のようで、白いワンピースとサンダルがよく似合っている。

 おそらく男子にモテるであろう、女の子らしくてとても可愛い子だ。


「いらっしゃいませ!……って、あら? そちらのお嬢様は、親戚の方でしょうか?」

「いえ、違います。たまたま店の前を歩いていたので、声をかけて連れてきました」

「えっ? それって……」


“誘拐じゃないですか”と叫びそうになったけど、女の子が涙をぬぐっていることに気づいたのでやめた。泣いている子供を放っておけなくて、声をかけてここまで連れてきたのかと推測する。


「可愛いお客さんは大歓迎ですよ。よろしければこちらに座ってください。石川さんもどうぞ」


 さゆりさんは、石川さんと女の子にカウンター席をすすめた。

 

「お嬢さん、座れますか?」


 石川さんが尋ねると、女の子はこくりと頷き、背伸びをして椅子に座った。カウンターの椅子は背が高めで、たしかに子供には座りにくいかもしれない。さすがは紳士な石川さん、細かいところに目が届く。子供とはいえ、女性としてきちんとエスコートしているのも素晴らしい。


「私はエスプレッソをお願いします。お嬢さんは何にしますか? 好きなものを頼んでいいですよ」

「…………」


 メニュー表にぽつぽつと落ちる少女の涙。ひっくひっくと、小刻みに背中が揺れている。とても、何か注文できる状態ではなさそうだ。


「そうだ、可愛いお客様にぴったりの飲み物がありますよ」


 空気を変えようと、さゆりさんはあえて明るく振る舞っているように見えた。何かを閃いたときのさゆりさんはいきいきとしていて可愛い。いたずらっ子の子供のように見えるのは俺だけだろうか?


 さゆりさんが冷蔵庫から取り出し、女の子の前に置いたのは、なんでこんなものがあるんだろうと以前から疑問に思っていたものだった。


 

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