319.結納
仕事関係の話は終わりにし、社長室に移り天水専務というより沙羅の大叔父として相談にのってもらう。
「沙羅と正式に結婚をしたいと考えています。ですが、お互いまだ学生なので、卒業までは婚約と考えています。ただ、私には親兄弟、祖父母がいません。どうしたらいいのでしょうか?」
「本来であれば、両家顔合わせや結納が必要になってくるが、十六夜くんの場合は仕方がないだろう。兄もそこまで厳格には考えていないと思う。結納の品として魔剣の一本でも持っていけばいいのではないか?」
魔剣かぁ。確かに価値はあると思うけどどうなんだろう? それに魔剣なら沙羅が一級品の氷結の魔剣を持っている。それに結納品として渡しても天水祖父、天水父は使わないと思う。
使うとしたら忠道さんか紗耶香さんになるだろう。それって、なんか違くない?
そこで考えた。俺の持っている武器で価値のある物はなんだと。そう、月読様の所でもらった日本刀があるじゃないか。九字村正は幽斎師匠に売ったからないけど、
鑑定証も何も無いけど、その辺は天水祖父がどうにかするだろう。本物なのは間違いないからね。
翌日、会社用に買ったスーツを着て天水家を訪問。
今日は加奈ちゃんには悪いが小太郎を連れて来た。小太郎がいれば場が和む。特に天水祖父は小太郎にメロメロだからね。
大事な話があるので時間をもらえるように、沙羅からお願いしてもらっていた。
いつもの座敷に行くと忠道さんと沙也加さん以外が揃っていた。マーブルは天水祖母にモフモフされているな。
いつものように座卓の所には座らず、座敷の端に沙羅と一緒に正座しする。小太朗は俺の緊張など気にせず天水一家にご挨拶。
「大事な話があるということだが、どんな話だね?」
小太朗を抱っこしたニコニコ顔の天水祖父が聞いてきた。
今の俺の心臓はバクバク状態。声を出そうとしたが声が出ない。
そんな俺の手の上に沙羅が手を載せてくる。隣の沙羅を見ると頷いた。
「本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。ご報告というか、御承認いただきたく本日は参りました」
「承認とは?」
「先日、フランスに行った際に沙羅と結婚の約束をしました。ですが、まだ学生でありますので、お互いに卒業をするまでは婚約という形を取りたいと思います」
天水祖父は表情を変えず、天宮父は少しムッとした表情になり、天水祖母、天水母はあらまあって顔だな。
本来なら沙羅の父親である天水父に言うべきことなのだろうけど、天水家の家長は天水祖父。
「私には家族と呼べるものがすでにいません。近しい親戚もおりませんので、結納といったこともできません。ですが、けじめとして結納の品は用意しました。お納めください」
そう言って、錦の袋に入った一振りの刀を前に出す。
天水父が前に来てそれを取り天水祖父に渡し、天水祖父は床脇の地袋の上に置かれた箱から懐紙を取り出して袋から刀を取り出す。鞘から抜いて、目釘と柄を外し銘を確認。
「
天水父の唾を呑む音が聞こえる。
「二代目兼定です。銃砲刀剣類登録証や鑑定書はありませんが本物です。とあるお方から下賜された物です。結納品として使うことの承諾もいただいています」
新選組の鬼の副長土方歳三の愛刀は十一代兼定作。買うとしたら六百万円くらいする。二代兼定になるとその倍以上してもおかしくないらしい。
「とあるお方か……」
さすがに、月読様とは思いもしないだろうね。いつか、それを知る時が来るかもしれないけど、沙羅の家族だとしても今は教える気はない。
教えても、心の負担にしかならないと思うから。
特に国防を預かる自衛隊の天水祖父、父は
正直、頼られても困る。俺は月読様の加護とはいえ、まだ仮免なのだ。直接的な介入はしてくれないと思う。まあ、うさぎ師匠を送って助けてもらったことはあるけど、あれはイレギュラーだ。
「十六夜くんと沙羅の結婚のことは考えていた。婚約の件は異存はない。直道はどうだ?」
「忠道と紗耶香、そして沙羅も相手が見つかりホッとしている反面、親離れしていく我が子に寂しさを感じますね。十六夜くん、沙羅は忠道、紗耶香と違って少しズレたところがある。沙羅をよろしく頼むよ」
「はい」
「ズレてないもん!」
ちなみに、天水父の名が直道ね。俺もつい最近知った。
「あらあら、これはお赤飯案件ですね。お母様」
「この前の旅行で、沙羅ちゃんも女になったのね。お祝いをしないと! 咲さん!」
「ちょ、ちょっとー!」
顔を真っ赤にして叫ぶ沙羅。
そこで、違うと言えない真面目なところが沙羅らしいね。
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