07.小太郎
下宿先に帰る前にホームセンターに寄った。ちび猫又のエサやその他の必要な物を買うためだ。
まだ、下宿先の大家さんから了承ももらってないうちからとも思うが、このちび猫又と別れるつもりはない。最悪の場合、別の住む場所を探すつもりだ。
ホームセンターに着きカートにちび猫又を乗せ、ペットショップコーナーへと向かう。キャットフードコーナーの前で唖然とする。こんなにあるの?
ちび猫又にどれがいいと聞くが、コテンと首を傾げるだけ。そりゃそうだ。今まで月読様の所にいたのだから、キャットフードなんて知らないのは当たり前だ。
さすがに、素人の俺では何を選んでいいかわからない。それ以前にこのちび猫又、キャットフードを食べるのか?
取りあえず、店員さんを呼んで話を聞く。店員さんおすすめのキャットフードの話を聞いて、試しに試食できないかと聞くと裏から何種類かのドライタイプのキャットフードを持って来てくれた。言ってみるもんだな。
ちび猫又の前に一粒ずつおいてみる。ちび猫又はキャットフードの匂いをスンスンと嗅いだ後、カリカリと食べ始めた。どうやら問題ないようだ。全部食べた後もう一度一粒ずつ並べて、どれがいいとちび猫に聞く。店員さんはそんな俺たちを微笑ましく眺めている。
「にゃ~」
真ん中のキャットフードの前でこちらを見上げて鳴いてから、またカリカリと食べ始めた。じゃあ、それにしようか。ほかにも店員さんおすすめの猫用品を揃えてお会計。今日、もらった万札が飛んで行った……。
荷物とちび猫又を抱えて家路を急ぐ。下宿が見えてくると、ちょうど門の前で大家さんと小学三年生の孫の加奈ちゃんが話をしている姿があった。
「お兄ちゃん、おかえり~。あっ、猫ちゃん!」
加奈ちゃんがちび猫又に気づき、俺の腕のなかのちび猫又をのぞき込む。
「可愛い~。お兄ちゃん、この子飼うの?」
俺はちび猫又を加奈ちゃんに抱かせてやりながら。大家さんにお願いする。以前、お世話になった方からこの子猫を託された。託された以上は俺が責任を持って育てたいので、部屋で飼わせてほしいと。
「ねぇ、おばあちゃん。いいよね? 加奈も子猫ちゃんと遊びたい!」
なんて素晴らしい援護射撃! 大家さん、孫の加奈ちゃんを目に入れても痛くないほど可愛がっている。これは落ちたな。ニヤリ。
大家さん、悩むこともなく承諾。ちび猫又を飼う条件として、加奈ちゃんと遊ばせることになったのはお約束。
「お兄ちゃん、この子のお名前は?」
そういえばまだ決めてなかった。名前を付けてあげるのも契約ないようにあった。どうしようか? 俺にネーミングセンスってあったっけ?
「ないなら、加奈が付けてあげる。うーん、小太郎!」
「にゃ~」
えっ、いいの? 名前は俺が付けるんじゃないの? まあ、ちび猫又が喜んでいるようだからいいのか?
加奈ちゃん、ちび猫又……もとい、小太郎を掲げてクルクルと回ってはしゃいでいる。子どもと動物は絵になる。なんとも微笑ましい。
ちなみに余談だが、加奈ちゃん命名の小太郎は、某テレビ局の今年の大河ドラマの主人公風魔小太郎から頂いたそうだ。強くなりそうな期待のできる名前だ。俺が付けていたら、タマ辺りがいいとこじゃないだろうか?
その日の夜は加奈ちゃんと買ってきた猫用シャンプーで小太郎を洗ってやった。とてもおとなしく。桶に張った湯船でまったりとしていた。加奈ちゃんは今度一緒に入ろうねとなでなでしていた。もちろん、俺じゃなく小太郎ね。YES! ロリータNO! タッチ。だがしかし、俺はロリコンじゃない。フリじゃないからな!
次の日、昨日とほぼ変わらない服装で喫茶アンダーワールドに向かうと、どこぞの冒険家の服装の葛城さんがいた。
「さあ、準備はできてるわ。いざ、アンダーワールドへ!」
マスターからお弁当と水筒を渡され、葛城さんとゲート前へと行く。葛城さんがどこからかリュックを持って来て、軍手と一緒に渡してきた。これにお弁当を入れろということだな。それにしては大きなリュックだ。
葛城さんが小さな機器を操作して一つのゲートを開ける。
「向こうに行く前に大事な物を渡しておくわね」
そう言って渡してきた物は先ほど葛城さんがゲートを開けるのに使っていた機器だ。
「これが昨日説明したCデバイスね」
Confirmation Device CDとも呼ぶ。探究者としての百の秘密アイテムの一つ。冗談です。でも、ハイテク機器なのは確か。
こちらの世界と向こうの世界を繋ぐゲートを開ける機能が付いている。このCDを使うとゲートを開けるだけでなく、誰が何時に異界に行ったかが記録に残る。何か緊急事態があればこちらの世界に緊急を知らせることもできる。残念ながら、通話はできないらしい。聞けば向こうの世界にこのCD用の無線基地局があるそうだ。
CDの用途はもう一つあり資源の判断に使われる。この機能に関しては実際に向こうにいってから、再度説明を受けることになっている。
そして渡されたもう一つが魂石。直径五cmほどの平円形のどこにでもあるような石。灰色で表面に花の模様がある。異界に現れる
これも向こうで実際に再度説明してもらうことになっている。
「心の準備はいいかしら?」
まったく準備はしていなかったが、取りあえず頷いてみせる。
「じゃあ、私の後についてゲートを潜ってね」
葛城さんが鏡面のような入り口に何の迷いもなく入って行く。不思議な絵図らだ。鏡面のような入り口からは向こう側が見えない。じゃあ、自分の姿が写っているかといえば写っていない。
手を伸ばして触ろうとするが感触がない。そのまま歩いて入り口を抜ければ、そこは遺跡のような場所。
「ようこそ。アンダーワールドへ!」
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