01.面接
ち、違うんだ……これもすべて貧乏が悪い!
俺の目の前に喫茶アンダーワールドがある。
スマホのナビに従い歩くこと五分、アーケードから一本横道に逸れた場所にそこはあった。五階建てのビルの一階部分を使った意外と広い喫茶店。渋い外観で隠れ家的な店といった感じかな。
カラ~ン♪ コロ~ン♪
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
この店のマスターだろう。年の頃は五十代くらいだろうか? ロマンスグレーの往年の俳優を思わせる方だ。店内を見渡せばまばらに数人のお客がいる。立ったままなのもなんなので、カウンターの席に座ることにした。
「ご注文は?」
「アールグレイで」
コーヒーは苦手だ。紅茶のアールグレイは好きな海外ドラマの艦長さんがよく飲んでいたので、俺も自然と飲むようになったものだ。
マスターは流暢な動作で紅茶を入れていく。喫茶店のマスターというより執事といったほうがあっているかな。
「どうぞ」
目の前に置かれたティーカップとソーサーはスミレ柄が描かれている。マスターの人柄が現れているような品だ。一口飲むと香りが広がり味も申し分ない。
こんなに美味しい紅茶を飲ませる人が、あんなおかしな求人を出すのだろうか?
悩んでいてもしょうがない。背に腹は代えられぬ。お金を稼ぐ必要があるのだ。ここに来た以上、当たって砕けろだ。
「求人の貼紙を見てきました」
「!?」
今まで好好爺みたいな表情をしていたのに、俺の言葉を聞いたとたんに鋭い目付きに変った。
「どこで見ましたかな?」
「表のアーケード通りのシャッターに貼ってありました……」
なにか不味いことでも言ったのだろうか? それとも既に求人を締め切った後だったのだろうか?
「もしかして、もう締め切っていましたか?」
「あっ、いえいえ。求人は常時募集してますよ」
「詳細を聞いてもいいですか?」
「ふむ。ご説明する前にこの募集の条件は読みましたかな?」
「はい」
マスターに条件に関しての今の状況を説明した。ヒーローに憧れるという点に関しては濁して説明したけどね。
「よろしいでしょう。では、ご説明いたしましょう。そもそも、あの求人募集の紙は普通の方には見えません」
ん? なに言ってるのこの人。それじゃあ俺は普通じゃない異常者ってことなのか?
「お間違えのないように。普通ではないということは、特別な力を持っているということです」
ますます、わからなくなった。結局、どんな仕事なのだろう?
「簡単に仕事内容を言えば、
「
「信じておられないようですね」
マスターが言うには古来から
「妖怪、お化けという言葉を聞いたことがあると思います。それらは、
「神、神の眷属といった部類が比較的友好的な種族ですな」
もちろん非友好的な神などもいて、それらは悪神と呼ばれ人間を滅ぼそうとしてるらしいが、友好的な神々が抑えているので現状問題ないそうだ。それは、よかった。世界を救えと言われても困る。
そういった
おれが見た求人広告はその
「そんな秘密を俺なんかに話していいのですか?」
「問題ありません。誰かに話したところで誰も信じませんので」
「なるほど……で、本当なんですか? どこかに隠しカメラがあるとかないですね?」
「ほっほっほ、どうでしょうね。ちなみに、今この店にいる客は全員
「マジですか?」
「マジです」
周りを見渡すと親指を立てた人たちが俺を見ていた。ほ、本当のことなのか?
「先ほども言いましたがこの仕事に就くには特別な力が必要になります。その資格がある者だけに見える貼紙なのです」
異界に行って物を探す簡単なお仕事ですってわけはなく……危険な仕事みたい。人に害意を持つ異界の者たちは当然襲ってくる。それを撃退しながら探索しなくてはならない。でも、どうやって戦うのか?
「
「契約ですか?」
「
普通の物理攻撃も有効ということことか。それで武術経験者なら尚可ということなのだろう。
「命の危険があるということですね」
「そうなります。断っても構いませんよ?」
「命をかけるだけの見返りはあるのでしょうか?」
「それは個人の価値観の問題ですな」
サンプルや貴重な鉱石などを持ち帰るだけでなく、マッピング、異界の者を倒した時に得られるエネルギーを集めるなど、報酬を得られる方法は多いらしい。価値観の問題とは害意ある者を倒すことによりこちらの世界に出て来るのを抑え、この世界を守るという意味合いを持つのでお金より名誉と考える人もいるということだ。
そういった名誉を重んじる人でも倒した時に得られるエネルギーを集めることで、十分な報酬を得られている。ちなみに、倒して得られたエネルギーというものは、とある
俺にはヒーロー願望はない。けど、お金は欲しい。時間も空いてる時でいいと言っている。というより、行くも行かないも自分次第ということだ。取りあえず、会員にだけはなっておこうくらいの考えでいいのかな? 実際にやってみて駄目そうならやめればいいだけだろう。
「やります」
「わかりました。今週の土曜日は空いてますかな?」
「はい。土日は講義がないので問題ありません」
「それでは、朝八時にここに来てください。契約をおこないます」
「すぐにはできないのですか?」
「契約には専門の担当者が必要になりますので」
それならしょうがない。土曜日まで待つとしよう。お代を払おうとしたら面接に来た人からは取れないと言われたので、ご馳走様でしたと言って店をあとにした。
怪しい求人だったけど、今はちょっと興味が湧いている。
この時の俺はちょっとしたバイト気分だったことは否めない。これが非日常への入り口だったなんて思いもよらないでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます