00.プロローグ
「な、ないね……」
求人情報誌を公園のベンチに置いてうなだれること、先月から何度同じ行動を繰り返しているだろう。
男女雇用機会均等法はあれど、学生社会人雇用機会均等法なんてものはない。是非とも国会で議論してほしいものだ。まあ、今議論されたところで法案化される頃には大学を卒業しているだろうけど。
そんなことより、早くバイトを探して働かねばというのが切実な思いだ。飲みかけのペットボトルのお茶を一気に流し込み、ゴミ籠に投げ入れるが縁に当たってあらぬ方向に飛んで行く……。今の俺の状況を示唆しているかのようだ。
祖母の家から大学は遠いため、祖母の家を売り大学近くの祖母の知り合いの家に下宿中。家を売ったといっても田舎なので二束三文。大学の入学金を支払い授業料分と下宿代を差し引けば、残りは微々たるもの。正直生活は苦しい。
それでも大学一年目はなんとかやり繰りしたけど、もう限界が近い。朝夕は下宿先でご飯が出るけど昼は自腹。一人だけなら安く済むけど、友人などと昼食をとれば見栄もありそうもいかず……。二十歳になったこともあり飲み会への参加も出てくると思われる。懐が厳しくなる一方だ。
そんなわけで、今の状況に至る。
大学のバイト紹介や求人情報を探すけど、必要カリキュラムの講義が変則なのでバイトの時間に合わせられず断念。求人情報には短時間でも可なんて書いてあるが実際に面接に行くと嫌がられ落とされる……じゃあ記載するなよ! って言いたくなってくる。
気を取り直してペットボトルを拾い、再度ゴミ籠に投げ入れ公園を後にした。
街中のアーケードをぶらぶら歩いていると、シャッターの降りた店に貼られた一枚の古い貼紙に目がいく。
『求む! 探究者!
給料 やる気次第の出来高払い
勤務時間 空いてる時間でOK
求める条件 ヒーローに憧れのある方 体力に自信のある方 武術経験者なら尚可
詳細は喫茶アンダーワールドにて
住所 ○○○○△△△△□□□□』
これはなんでしょう? ヒーローに憧れのある方? 幼き時代には一度は通る道。体力に自信のある方? これでも中学、高校はサッカー部だった。武術経験者なら尚可? 祖母は合気道の師範とまではいかなかったけど有段者で、数年だったけど習っていた。転がされていただけともいうが。
だとしても、これは天啓か!?
なんて思うかぁー! どう見ても怪しすぎるだろう! と思いながらも心と体、足は書かれた住所に向かっているのだった……。
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