第3話 剣の里(1)
剣の里に着いてまず驚いたのが、その人の多さだ。
深い山奥にある里だと聞いていたので、小さな村が1つ2つあるのだとばかり思っていたのだが、谷間には大きな街が広がっていた。
「ここには国中から剣術修行があつまるのさ」
峠のてっぺんから里を見下ろしたとき、剣士の一人が教えてくれた。
「お館様が里に戻ったとなると、ここもまた人が増える」
小高い丘の上に砦があって、そこが師匠の屋敷だという。屋敷の下に中央の街、城壁や垣根こそなかったが、その四方を取り囲むように田畑といくつもの集落が広がっている。
「これから忙しくなる。お前さんらにも少しは手伝ってもらわなければな」
今日から俺はここで生きていく。
俺たちは何名かずつ各集落に割り振られ、俺たちより前に里に拾われた者たちと生活を共にした。
里での生活は、朝食前の剣の修練に始まり、田畑や森や山での仕事、そして夕食後、寝るまでの間の剣の修練に終わる。規則正しいものだった。
俺は朝まだ暗いころ誰よりも早く床を抜け、朝の素振りに熱中した。朝食後、握り飯を1つ貰って、大人たちの尻にくっついて手伝いをし、そしてまた夜の素振りに熱中した。
長い冬が終わり春になった。
里では週に一度、仕事が半日で終わる日があって、その日は町から剣術の師範や読み書きの先生、陰陽の術者などがやってきた。そこでめいめい思うところのものを学ぶのだが、俺と妹は読み書きと陰陽の術を学んだ。周りの男児はみなこぞって剣術を学んでいたものだから、女衆に混ざって読み書きをやっている俺のことを、軟弱者だと馬鹿にした。けれど俺には剣術ならば師匠に直接手ほどきを受けた素振りがあった。桜が舞い散る中で鬼を切ったあの一太刀が。少しでもあの剣に近づければよかった俺には、町から来る師範の剣術など、どうでもよかったのである。
そんなころ、都からの使者が来た。
また南で大きな戦があるという。
今度は守り戦でなく、南の国に攻め込むのだと。
「みな教えの通り日々の研鑽に励むように」
そういって師匠は兵を引き連れ、南の地へ旅立って行った。
俺は師匠の教え通りに、ただ木刀を振り続けるのだった。
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