恋愛事情
@kuronekoya
恋愛事情
気がついたのは、何年前のことだったろう?
クリスマスイブの夜、彼女のためにカウンター端の2席が予約席になっていること。
常連というほど通いつめてはいないけれど、顔なじみになる程度にはよく行く焼き鳥屋。カウンター席と小上がりがひとつあるだけのこじんまりとした店だ。
「またな、リコちゃん」
秋も深まったある夜、そう言って常連のくまさんが送り出したが、いつもは店主や馴染みの客たちと陽気に話していく彼女が今日はひとり静かに飲んでいて。常連客たちも誰も話しかけることはなく。
「なんで今日は誰もあの
「ん? 本屋のリコちゃんのことかい?」
「本屋さんなんですか? 彼女」
「桐生さんですね。駅前のカクヨム堂の店員さんだと聞いていますよ。ご贔屓いただいてもう十年ほどになりますかねぇ」
寡黙な店主が珍しく口を挟んだ。
「腰だか膝だか悪くして、今は事務仕事しててほとんどレジには立ってないって聞いたな」
「ええ、6,7年前になりますかね?」
「その頃からだよな、クリスマスにカウンター席の端っこを予約席にするようになったのは」
「ああ、そのこともお尋ねしたかったんですよ。去年はひとりでいましたけど、その前は毎年同じくらいの歳の男性が一緒でしたよね」
「そういえば、兄ちゃんはひとりの時しか会ったことないか。たまにあのあんちゃんと来るんだよ、あんちゃんがフラれた時にヤケ酒に付き合いに、な」
今夜のくまさんはいつもより饒舌だ。
「って、クリスマスイブに会うのにつきあってる訳じゃないんですか!?」
「そう聞いてるな、大学の同期だってさ」
「プライベートなお話は、今度ご本人と一緒になった時に聞いてくださいな。
たぶん桐生さんは話してくれると思いますけど、私たちが勝手にお知らせするのはちょっと違うと思うので」
「それもそうだな」
その点については僕も同意だ。
「そうですね、そうします。それにしてもみなさん、どうして桐生さんに話しかけたりやめておいたり、ってタイミングが判るんですか?」
「ああそれは簡単だ」
「端に座った時は話したくない。そうでなければみなさんとお話したい時、みたいですよ」
なるほど、たしかに簡単だ。
「だいたいは、嫌なことがあって
「わかりました。僕はあまり
それでその日は僕も勘定を済ませて店を出た。
後ろから、くまさんの「またな、兄ちゃん」という声が聞こえたから、片手を上げて挨拶して。
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