或る国にて。

霧乃

赤い制服

 ざっと鋭く風を切り、手にした長剣を振り払う。石畳に、赤い花が散った。剣に付着した血を拭い、私は仲間とともに隊列を組み町に戻る。


 私はこの小さな町で外敵を倒す兵士の仕事をしている。町の平和を守る、とても誇り高い名誉な仕事だ。

 赤を基調とした兵士の制服は、とても華麗で、彼らはとても凛々しかった。

 幼いころはその姿に憧れ、そうして今、その制服に袖を通している。とても誇りに思う。


 この制服に袖を通して、もう何年経ったのだろうか。

 ある時、再び町に仇なす外敵を排除するための司令が下った。今日の空は雲行き怪しく、のちに雨になる。その雨に乗じて奴らはやってくるそうだ。諜報部の仕事振りは素晴らしい。この機を逃すべからず、上官は熱を上げてそう私たちに告げた。私の手にも力がこもる。


 城門を固く閉ざし、配置に着く。門前から続く道の先の森をじっと見つめる。木が風に揺れる音と、同僚の息遣いだけが耳に届いた。

 やがてポツ、ポツ、と静かに雨が降り始める。明るかった空も、あっという間に暗くなった。絶え間ない雨が一斉に降り注いだ。

 皆がじっと息を飲む。

 するとやがて、何者かの姿が現れる。足取りは重く、体格も様々、年齢も様々な、それは十数人程度の人だった。どこから来たのか、皆一様にボロのような服を着ている。その身を雨に晒し、しばらく動かずにいた彼らだったが、やがてひとりの男が進みでた。そして重く口を開く。

 

 どうか助けてほしい


 それが合図だった。上官は静かに手を振り攻撃の開始を示した。私たちは無言で剣を手に取り、整然と決められた隊列を組み、そうして彼らに斬りかかった。

 彼らは私たちに対抗出来るまともな武装もなく、ただなすがままだった。


 雨が降る。そうして上がる。

 濡れた体をそのままに、私は地面に目を下ろした。出来たばかりの水たまりに、虹が架かっていた。そしてそれを貫く自分の姿。赤い制服。返り血がついた顔。その顔からは表情は読み取れなかった。

 これは町を外敵から守る、名誉な仕事なのだ。

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