&25 魔統の歴史とトルヴァの歴史

「始めに、前提ぜんてい条件から押さえていこうか。どのような者が魔統まとう力を使用できるかということだ」


 ウィンドウに8つの帯上の図が縦方向に長さ違いで表示される。帯グラフであることが横軸や縦軸の目盛りで判断ができ……あれ?


「僕たちでも文字が読めるようになっている?」

「はい。私が2人に初めて会ったときに掛けた会話を翻訳する魔統『スピリード』の元となったものです。効果としては現在体感している通り、異国言語を読めるようになるものです。あくまで、その言語の知識を持つ者が掛けなければ効果は出ません」

「便利なもんだな。わざわざ覚える必要がないってことか」

「いえ。私もそうですが、複数覚えることで、魔統使用者を複数抱える必要が無くなるんですよ」


 ニナリンゼは少し遠慮気味に言う。確かに、複数扱える優柔な人材を抱えていた方がいろいろと助かるからなぁ。

 どのくらい覚えているのかと聞くとこの大陸といくつかの島、所謂いわゆる、日本に相当する範囲に存在する言語は覚えているそうだ。数にして4言語。この世界では、元の世界と違って未だ国が細分化されているのだろう。

 ケティ―やリーネも近隣の言語は少しながら理解をしているそうだ。これは、男の威厳として勉強をした方が良いのかな?

 タクの方を見てみると、もの凄く嫌そうな顔をしていた。勉強嫌いだもんね。


「さて、話を戻すが……このグラフは現在のノリアント王国内での魔統を扱える人の数を年代別に出しているものだ。それぞれ10歳間隔になっている」


 グラフは0歳からいくらかの長さを保ちつつ40歳前まで続いた。しかし、その先はおかしなことになっている。


「おいおい、なんか途中で結果データが途切れていないか?」

「40歳以降の年代はこの後出てくるとかじゃ?」


 元の世界でのプレゼン用スライドではたまにそのようなことをやる人がいた。注目してほしいデータ部分だけ後出しするような形。

 僕はそうじゃないのかなと思ったが、違ったようだ。


「このデータは、これで全てだ。間違っているわけではなく、40歳以降では存在していないことを表す。これは国内の魔統医師連盟に加盟している診療所で40年という長い間調査された結果のまとめで毎年提出されている資料となる」

「つまり……40歳という歳を境に魔統を使えかどうかが分かれているということに?」

「なんだよ、そりゃ!? 突然湧いてきたみたいじゃないか」

「そう。タクミ君の言う通り、突然現れ始めた」

「「……は?」」


 ケティ―の言葉に理解ができない。タクが言った通りっていうと、突然湧いてきた。ということは、いま40歳の人達から下の人が魔統力を突然持ったっていうこと?

 いや、違うか。今ウィンドウに出ているデータは40年前から収集されているものだから、彼らが生まれて来た時からということになるのか。


「魔統力を有する者の存在が確認されたのは、40年前の春頃。今はこの国の騎士最高顧問をしているフルーカっていう人がいるんだが、その人が産んだ子のニーカーがそうだった。生まれてから数日経ったある日、ニーカーが父親と遊んでいた時、父親の方に差し出した両手が突然光り出したんだ。その時はただ光っただけだったが、突然のことに、知らせを聞いた城内は騒然となったそうだ」

「……まぁ、突然わが子の手が光り出したら驚くよね」

「俺だったら、自分の子供が覚醒する時でも迎えたのかと現在逃避するだろうよ」


 自分たちが普通の人間なのに、生まれてきた子が知らない力を使えるなんて、間違えば一種のホラーでもあるよね。


「当時、ニーカーの出産を行った医師が彼の診察を行っていたが、そんなことを見たり聞いたりしたのは初めてだと言った。結果、それが何なのかを理解することが誰もできなく、使える本人もまだ喋れない歳。彼の経過を見守るとともに、国内でそのような事例がこれまでに無かったかを調べるしか対処できることが無かったというところから始まる。この時、調査班が結成されたんだが、後にこれが魔統医師連盟になる」


 そして、その後始まった調査によって、国内でいくつか同じような事例を持つ子が存在していることが確認された。特定できた理由として、普通の子じゃないと周囲の人に思われ、気味が悪いと蔑まれたりしていたそうで、家族によってはその子を孤児院に置いていったところもあるそうだ。

 その報告を聞いて、当時国王を務めていた現在隠居生活を送っているアスハルト先王が率先そっせんして彼らの面倒を見ることを決め、それとともに調査が進められたそうだ。国民思いの人だからできることだと感心する。

 そして、ニーカー少年が6歳になった当たりで、手の光を自分の意志で発動できるようになったことを確認し、どのような条件でどんなことができるかを確かめることが始まった。これには、同年代の同じ症状が出た子たちにも行われ、この城近くにある現在は商館となっているところで勉強や作法等を教えながらの調査になったそうだ。


「そして、1回目の国内調査が行われた後、各地の診療所へ通達が出されると、その後に生まれてくる者たちにも同じ症状が見られることが分かった。そして、どのようなことが起こるのかも」

「それが、いまリーネ達が使える魔統ということなンダね」

「私が生まれたときは、既に魔統という言葉も定着している時代だったのですが、当時の人たちにとっては差別が生まれて、苦しい時期だったと聞いています」


 リーネは机の上に置いていた両手に力を入れていた。表情も小さく影を落としていた。


「ただ、その後生まれてくる者全員が同じ症状を持って生まれてくるようになり、特に健康への心配もなさそうだという見解が広まったことで、現在に至るという訳だ。国としても、毎回行われた調査の結果を全面的に公開することで理解を促し、研究も進めることとなる。この研究では、その力で他に何ができるのか、そして、どこからそのような力が出てくるのかという内容で、私たちが魔統を使うために必須の天然魔統の発見はこの過程で分かったものなんだ。……以上が、魔統力保持者に関する前提条件の説明っと」


 ケティ―はそこまで言うと、ふうと息を整えつつ席に戻って紅茶に手を伸ばした。一通り喋り終えたようだ。


「結果として、突然魔統力が使え始めた理由は分かっているのか?」

「んいや、天然魔統の発生源もよくわからないままでね。現在も調査中なんだが、時間が掛かるもんだというのが現在の見解だ」


 ケティ―はそう言い終わるとトルヴァにお礼を言って、休んでもらうように促す。リーネからもそのように言われ、彼は浅く礼をして「ありがとうございます」と言って、メイドに指示した後に部屋を後にした。あの人もよく働く人だよね。

 トルヴァが出て行ってから少しのティータイムで静かになった時、タクが「あっ」と言って何かに気が付いたそうだった。


「リーネ。質問なんだが、なんでトルヴァさんは魔統が使えるんだ? 見た感じ60に見えるんだが、突然使えるなんてことが起こっているのか?」


 そう言えばそうだ。トルヴァは見た感じ年老いていて、性格もそれを思わせるほどだ。

 タクからの質問を聞いたリーネは……いや、それ以外の僕とタク以外の全員が含み笑いを始める。あ、ケティ―が大きく笑いだした。


「や、やっぱりそう思いますよね。ね、私の言ったとおりでしょ、ニナリンゼ」


 そう言いながらも、笑いが収まらないようだった。


「ど、どういうこと?」

「いえ、この夕食前にニナリンゼと魔統について話す内容を簡単に話していたんですが、その時にトルヴァの話になるんじゃって言っていたんですよ。私も昔から顔を合わせていなかったら、同じ疑問を抱いてしまいますよ。あれでも、トルヴァは今年で36なんです」

「……え? いやいや、それはないだろ!」

「それが本当なんですよ。陛下が小さな時、トルヴァのことを『ジージ』なんて呼んでいましてね」

「あの時の彼の表情といったら、とても面白かったよ。私の楽しい思い出アルバム10本の中に入るほどだね」


 ニナリンゼが言ったことに続いてケティ―が付け足していく。この場にトルヴァさんが居なくてよかった。ケティ―の言うその顔を見てみたい感じはするが……というか、思い出アルバムってどんな内容なんだよと突っ込みそうになってしまった。

 結果としてトルヴァは、実は36歳だったのだと認識を改めることとなった。


「さて、私からの説明は一回ここまでだ。続きはニナリンゼから頼む。内容は、魔統力の個人差についてかな」

「それって、改まって説明を始めることなんですか? そのままケティ―さんが話せば良いのでは?」

「うーん。それだと面白さが無いんだよね。そうだな……じゃあ、実践も交えてやって」

「やってって、簡単に言ってくれますね。まぁ、やりますが」


 よいしょと小さく言って立ったニナリンゼは自分の指揮棒を持って僕たちの方を見る。


「では、簡単に説明していきましょうか」

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