&8 お偉いさまと少女の正体

「タク、タク! 起きろって」

「……んぁ、何かあったのか?」

「足音がいくつか聞こえる。さっき出ていった男の人が戻ってきたんじゃないかな」


 音は既に2階へ向けて進んでおり、到着するまで数秒というくらいだ。それを聞いたたくみは椅子から勢いよく起き、迎える姿勢をとる。ハルートも同じく、彼の横に立って待つ。

 そして、この部屋の前に一つ目の足音が到着し、ドアが開けられた。予想通りだが、最初に入ってきたのは呼びに行った初老の男だった。彼は息を上げることなく、速やかに連れてきたものを中に案内する。

 後ろには、女性が複数人立っていた。一人は銀髪の黒い長めのコートに身を包み、残りの3人はアニメ作品でよく見るようなメイド服姿だった。

 男が部屋のドアを内側で持ち、彼女らが入る邪魔にならないようにする。先頭にいた銀髪女性はそんな彼に軽く礼をすると、ベッドで寝ている少女に向けて一直線に歩き始める。続いて入ってきたメイドのような3人も準備を始めるためか、それぞれの仕事を始める。一人が銀髪のサポートをするために少女の方に向かい、一人は来る前に入れてきたのであろう桶のようなものに水を入れ、布も持って少女の方へ。そして、最後の一人が巧とハルートに向けて歩いて来るのだった。彼女は彼らに向き合うと、何一言も言わずに笑顔で、右手を自分が入ってきた方向に差しだす。


「これは、出て行けっていうことなのかな?」

「まぁ、あの子の近くじゃあいろいろ準備が始まっているしな。男の俺らがいるわけにもいかないだろ」


 ドアのところで立っていた男もこちらへというかのように手をドアの外へ向けている。

 2人は特に拒否する理由はなかったので、案内さるがままに部屋から退散することにした。彼らが歩き始めると、先程前に立ていた女性は机近くの窓のカーテンを閉め、ベッド近くの窓を閉めようと始めていた。

 完全な戸締りである。

 こうして少女が寝る部屋から出された巧とハルートは、同じ階の客間のようなところに通された。部屋の中央に横長の机とソファーが置かれており、机の上には既に飲み物と軽く食べるお菓子のようなものが置かれていた。

 そして、奥のソファーに1人、その傍に先程会った3人と同じような服装の女性が立っていた。もう一方の空いたソファーに座るように案内された2人は大人しく座ることにした。その際、それぞれの荷物は近くに置く。

 目の前に座るのは彼らより少し年上であろう若葉わかば色の横髪が長い女性で、座った彼らをじっと見た。その視線は、疑わしく思うものではなく、何かを調べるようなものである。続くように、彼女は口を開き何かを喋り始める。


「Jцb/=?」


 やっぱりだが、話せそうになかった。こうなっては、今では身につき始めた行動をとるしかない。

 首を小さく傾ける。

 それを見た彼女は何かに納得がいったのか、一回頷く。そして、彼女は横に寝かせるよう置いていた30cmほどの厚めの袋を掴み、中からオーケストラなどで指揮者が使う指揮棒のようなものに飾りがついたようなものを取り出す。出した棒は先が巧とハルートに向けられ、何かをつぶやき始める。

 瞬間に彼らの体は光始め、何事かと驚く。彼女がつぶやくのを終えると同時にそれは消え、彼女はもう一度口を開いた。


「話すことはできますか?」


 言葉が理解できる。


「あ、あぁ。何を言っているか理解できる。あんたの方は大丈夫なのか?」

「先程、あなた方には私たちが用いている言葉の知識とそれが話せるように変換される力を使いました。なので、私もあなた方の喋ることを理解できます」

「あの子が使った力と同じような感じですね」


 持っていた棒を袋の中に戻した彼女は、身を正して自己紹介を始める。


「私はニナリンゼ・スカイナーと申します。ノリアント国魔統まとう代表をつとめています。そして、先程まで案内をさせていただいた者は王国執事しつじトルヴァ・イーグレーにございます」


 ニナリンゼの座るソファー後ろに立っていたトルヴァは紹介されると、彼らに向けてお辞儀じぎをする。それに応じるように、ぎこちなく巧とハルートもお辞儀をする。


「この度は王女を助けていただき、ありがとうございました」

「……王女様ですか。まさかそこまですごい子ダったとは」

「あまり驚かれないのですね?」

「まぁ。彼女と出会ってここまで来る間に見た物から、それなりには地位の高い人の娘さんではと考えていました。たダ、王女様だとは」

「服装が作業するときの服みたいだったから、物を造り出す関係者なんて感じに想像してたんだ」


 そう巧が言うと、ニナリンゼは苦笑いをする。


「王女はモノづくりが好きでして、よくここに来てはあなた方も観られた機械を造っています。しかし、まさか本当に完成させるとは思いませんでしたが」

「あのようなものは普通にあるようなものなのですが?」

「機能は違いますが、国関係者で近年、開発が進んでいる状態です。他にはあまり出回ったりすることはありません。このノリアント王国ではモノづくりが主要産業でして、それの応用化中というところでしょうか」


 これを聞いたことで、この世界には機械という概念があることを確かめることができた。

 中世風だったことから本当に物語のような感じかと思っていたハルートだったが、意外とを始めているようだった。

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