第19話

 一ヶ月ほど、何事もなかった。

 朝会社へ行き、帰り、寝て、週末は時々飲みに出かけた。毎日が同じように繰り返され、日常に埋没してゆく。北澤に会う以外は、毎日こんなものだったな、と今さら気付く。

 さらに数日がたった金曜日、北澤から「晩飯を食べよう」と、連絡が入った。


 笑い声が飛び交う、活気ある店内。

 僕達はテーブルをはさんで、石焼ビビンバを食べていた。もやしが焦げる、良い臭い。

「仕事、あいかわらず忙しいの」

 北澤に尋ねる。貿易事務をしていると聞いた。

 彼はキムチを口に放り込み、飲み込んでから言った。

「いや、俺辞めるから」

「え」

「ニュージーランドへ行くんだ」

 図書館でニュージーランドの本を見ていた彼の姿が浮かんだ。

「そ、そんな急に」

「急じゃないよ。ずっと考えてたんだ。向こうで観光ガイドの仕事したいなあって。まずワーキングホリデーで現地に慣れて、バイトしながら仕事探しだな」


 どうして。

 どうしてそんなに簡単に捨てる事ができる。

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