第12話

「北澤君! 友達連れてきたの! 」

振り返るしわくちゃの顔、顔、顔。生徒はおじさん、おばさん、おばあさん。いや圧倒的におばあさんが多い。

声をかけてきた、その中では若い男性が先生らしい。

「いや、こいつは一回体験してみたいってだけで。参加してもいいですよね? 」

「いいよぉ。若い人が来てくれるのは歓迎だよ」

 北澤達の会話も僕の耳には入らない。総勢三十名ほどの会員の、ほとんどがおばあさん。

 非日常を体験したいとは思ったけれど、これは別次元だ。別の世界だ。


 太極拳が始まると、僕は恐る恐るおばあさん達の輪の中に入った。先頭にいる先生の真似を必死でする。ゆっくりとした動きなのに、三十分もすると背中から汗が吹き出る。太ももがガクガクする。北澤を見ると、先生のすぐ後ろの自称指定席で、涼しい顔をしていた。

 約一時間半後、教室は終わった。生徒達は座ってお茶を飲んだりおしゃべりしたりで帰ろうともしない。

「こっち、こっち! 」

 北澤が五、六人のおばあさん達と座っていた。行くと、彼女達は人の良い笑顔を僕に向けて飴やチョコレートをくれる。皆、健康や運動や食べ物の話で盛り上がっている。彼女達の屈託ない笑い声 が、心地良かった。


 帰りのバスで、北澤が笑った。

「面白かったろ」

僕もおかしくなって、笑った。

「うん、すっごく面白かった」


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