第3話『素材の苦味はそのままに』

◇◆◇◆◇◆◇◆


嵯峨「いいじゃん。彼氏くらい作っとこうぜ。思い出作り大切じゃん」


湯島「そーそー」


奈緒子「や、やだ! ……だから恋愛とか嫌なのよ! 」


ナレ『無理矢理腕を掴まれ、バシッと叩いた。』


ヴァーバラ『あらら……。』


湯島「……! いい気になりやがって……! 」


ナレ『腕を振り上げ、ビクッと身構える。』


ヴァーバラ『……と、その腕に待ったが掛かった! いいタイミングじゃないか! 』


拓人「……いい気になってるのは、てめぇらだろが! 」


ナレ『息切れをしながらも睨み付ける。』


ヴァーバラ『いいねぇ、ヒーローじゃないか。』


嵯峨「な、なんだよ! そこまでいきり立つことじゃねぇだろ……」


湯島「ほんっと、ムキになんなよ。興醒め~行こうぜ」


ヴァーバラ『ま、日常は友だちだから喧嘩には発展しないか。拳で語るなんてノンフィクションに期待しちゃならない。友情は友情で大切にせねば、な。』


拓人「奈緒子、大丈夫か? 何かされなかったか? 」


ヴァーバラ『おや? 心配顔の少年と違ってお嬢さん、睨んでいるね。』


奈緒子「……助けてなんて言ってない。なんで拓斗来たのよ? マリーとデートはどうしたのよ? 」


ヴァーバラ『様子がおかしいな。嫉妬、のようにも取れるが……。』


拓人「助けるのは頼まれてするもんじゃないだろ? マリーには悪いけど、奈緒子が心配だったから……」


奈緒子「私を助けて拓斗の何の得になるっていうのよ! 」


拓人「損得の問題じゃねぇだろ?! 」


ヴァーバラ『おやおや、こちらの喧嘩が始まってしまったね。中々円満には進まないようだ……。

これは想定外。だが、これ以上の"干渉" は……痕跡が残ってしまう。』


◇◆◇◆◇◆◇◆


ヴァーバラ「……さて、マリー」


ナレ『一度本から目を離し、マリーに振り返る。』


マリー「なぁにぃ? ヴァーバラ」


ナレ『一緒に見ていたはずのマリー。いつもと変わらずにヴァーバラを見つめる。』


ヴァーバラ「フィクションは流れが読みやすい。しかし、ノンフィクションはわからないからこその醍醐味がある」


マリー「……今の状況に混乱してるぅ? 」


ナレ『遠回しな主の言葉に直球で返す使い魔。』


ヴァーバラ「……うむ」


マリー「大丈夫だよ、ヴァーバラ☆ 二人は"幼馴染み"じゃない~♪ 奈緒子チャンの怒りは自信のなさから来るもの。宮藤くんがぁいくらストレートで言ってもぉ、数を当て続けなきゃ響かないかなぁ。だけどぉ、宮藤くんはぁもう後に引けないのぉ。でも、奈緒子チャンは頭がいいからぁ、ね? 」


ナレ『可愛く片目を瞑ってみせる。』


ヴァーバラ「……少年の頑張りによる、時間の問題ということかい? 」


マリー「うん☆ 数十分から数時間てとこかなぁ♪ 暫くはぁ、堂々巡りぃ☆ 喧嘩しないカップルよりぃ、喧嘩するカップルの方がぁ、お互いを~理解できると思うなぁ☆ 」


ナレ『いつもの怪しい笑みが復活する。』


ヴァーバラ「……ふふ、人間とは実に面白い存在だ。テンプレートを期待したが、逆も然り。我々には時間がある。"痴話喧嘩"とやらを堪能しようではないか」


◇◆◇◆◇◆◇◆


奈緒子「あんたっていっつもそう! 迷惑なの! わかる?! 私なんか構わなくたっていつも可愛い女の子がいるじゃない! 何? 憐れみのつもり?! 」


拓人「何で心配しちゃいけねぇんだよ?! 俺何かしたかよ?! 」


マリー『はいはぁい♪ ヴァーバラじゃわかりにくいのでぇ、マリーが解説しちゃうよ~。

自分に自信がない女の子ってぇ、意外と付け焼き刃で達観しやすいんだよねぇ。奈緒子チャンは尚更かなぁ? 元々奥手な女の子ってぇ、身近な人を好きになりやすいだけどぉ、モテ男じゃ無理もないよねぇ。……でもねぇ? きっと奈緒子チャンはぁ、うふふ。』


奈緒子「知らないわよ! もう止めて! 」


ナレ『頭を抱えてうずくまる。』


拓人「……他の女がどうと関係ねぇ! 俺は! おまえが好きなんだよ! 」


マリー『きゃー! 今からマリーの大好きターンだよ! がんばれぇ! 宮藤くーん!』


奈緒子「な……。そ、それは幼馴染みだから、でしょ! 高校生にもなって子どもっぽいことやめてよね! 恥ずかしい! 」


ナレ『勢いで立ち上がる。』


拓人「女より男がガキっぽいのはわかる! だけど、俺は本気でおまえが好きなんだよ! ずっとおまえだけが好きなんだよ! 」


奈緒子「な……に言ってるの? バカじゃないの。私なんか地味だし、愛想ないし……」


ナレ『気弱になり、顔を反らしながら壁に下がる奈緒子の肩を優しく、しかししっかり掴む。』


拓人「……んなこと知ってる。ちびんときからずっと一緒にいるんだから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る