路地裏の姫君
カゲトモ
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日曜の昼下がり。仕込みを一通り終わらせた俺は、勝手口を少しだけ開けて一息吐いていた。
いつもならミケが来るかもしれないからと、扉に鍵をかけるのだが、今日は特別。だって朝一に雨が降ったから。
朝一に雨が降った時だけ訪れる、秘密のひととき。
「あ」
結構な時間、扉の隙間を眺めていたがやっとその時が来た。
にゃぁん。
「やっと来たな」
勝手口を静かに開けてその場にしゃがみ込む。俺の目の前にいるのは、毛並みが艶やかな黒猫。赤いリボンを首に巻いている美人さんだ。
猫は猫でも猫違い。オネェな偽猫なんて比べ物にもならない。
「いらっしゃい」
用意していたお菓子を差し出す。煮干しなんてベタなもんじゃない。ちゅるちゅる舐められる例のアレだ。俺の手から食べてくれるか分からないが、ちょっとでいいから食べて欲しい。
にやぁ。
「お、興味はあるな?」
視線が凄い。この子は何処かで買われれている猫だから、もしからしたらこのお菓子も食べたことがあるのかもしれない。
どうだ? 食べてくれるか?
「ほら、食べていいんだぞ」
ずいっと差し出すと、小さな鼻がひくひくと動く。それからゆっくりと一歩近づいてペロリと小さな舌で舐めとった。
「お」
おおおおおお、きたぁああああ。
猫ちゃんはぺろぺろと一生懸命俺の手からお菓子を食べてくれた。綺麗な瞳に映るのはお菓子だけかもしれない。でも俺はそれだけでも幸せだっっ!! ありがとう、このお菓子を作ってくれた会社よ!
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