第89話 ついに、子持ちに…

 そしてパースに来て5年経ち、38歳になった8月。

 エミリーが子供を産んだ。

 まさか、彼女が妊娠していたとは思ってもみなかったものだった。

 エミリーは、日本人の父と中国人の母親を持つハーフであり、日本で生まれてナースになりオーストラリアに来たらしい。


 子供が生まれた時、日本からはお母ちゃんがお父ちゃんをお供にしてパースに遊びに来ていた。2人とも驚いていたが、特にお父ちゃんの一言にはムカついた。

 「お前…、ノーマルに戻ったのか?」

 ちょっと、そんなこと言わないでくれる?

 睨んでやったのは、当然だろう。

 私だって、どうしてこんなことになったのか覚えてないんだからな。

 エミリーとは、よく一緒に酒を飲んでるから…。

 もしかして、飲んだ勢いで……。


 当然ながら、私を睨んでくる人がいる。

 そう、博人さんだ。

 …博人さんが怖い。

 そうだろう、恋人である私に子供が出来たのだから。

 よく3人で一緒に酒飲んでるでしょっ。


 そして生まれてきた子供は…。

 日本人の父と日中のハーフの母を持った、ハーフなオーストラリア人だ。

 生まれてくると、すぐにDNA鑑定をしたのは言うまでもない。


 彼は『潤=マイク・福山』と名付けられた。

 お母ちゃんは「マイケルがいい」と言ってたが、冗談じゃない。

 潤は、マイケル・ジャクソンみたいなスターには、ならないからな!


 カズキの顔に目に元気が出てきて、ユタカも嬉しそうに依然よりも頻繁にクリニックの方に顔を出してくるようになった。

 そのうち、カズキは筆談を卒業した。

 良かったよ、声が出せるようになって。


 カズキはアメリカとシンガポールに居た時は消化器科をオペしてたらしく、今はエド・ボスのスペシャル病院の方に出向き、数本ほどバイトをしている。

 そのカズキの仕事ぶりに、エド・ボスはオファーを掛けたらしい。

 それは、スペシャルで働きながらクリニックに通院するという形だ。


 そして、カズキは38歳を迎えた10月末。今度は就労ビザを携え、堂々とパース入りを果たした。

 ユタカはクリニックとGPの方へ。経理及びコンピューター、セキュリティ関連の腕を買われての就労ビザだ。

 まあ、こいつも一応は医師免許持ってるから、しようと思えばできるよな。

 GPドクターなら出来る。


 ユタカは興味津々で「卒業して、こっちに来たの?」と聞いてくるが、私は簡単に答えた。「福岡で5年やった」と。

 そしたら溜息つきながら呟いていた。

 「分かんなかった…。卒業してから5年間は福岡に戻ってたのに」と。


 まあ、卒業して4ヶ月は入院してたからな。

 それに、あの病院はユタカの家とは反対方向にあったから、会う機会は無かっただろうな。私の家とユタカの家も、離れてるからな。

 それに、ここに来る前はシンガポールで3年やった。

 でも、敢えて話さなかったのだ。

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