第74話 銃撃戦
早くも3年目に入り契約が切れるまで3ヶ月を切った5月始め、オファーを掛けて頂いた。オファー先は、オーストラリアの病院だった。
えっ、オーストラリアッ!!
「『ラリア』の方なの?スイスとかベルギーの方ではなくて、南極の方?」
うーん…、と悩んでしまった。
契約が切れるまで残り3ヶ月で、今後の事も考えないといけない時期だった。
オファーは嬉しいが、オーストラリアかあ。
どうしようかな、と思いながら私の足は自然とフィルのフラットの近くにある中華店に向かった。
そう、ニックでもジョンでもなく、フィルのところなんだよね。
会えるかな、という軽い気持ちで行ったんだ。
結果的に、会えなかったけどね。
あのキャンディー事件(?)を機に、フィルと仲良くなった。
なんか、昔の自分を見てるみたいで親近感があるの。
連絡先なんて知らない。
フラット先を知ったのは、ついこの間だ。
ヘルプ先の病院から帰宅途中、たまたまランチに入った店にフィルが居た。
データの移行をしてると、あっちから声を掛けてきた。
「暇そうだな」と。
「オペが終わったんでランチに入っただけだ。食べたら帰る」
食事が運ばれてきた。
フィルは、中華のセットを。
私は、中華ラーメンと唐揚げを。
ラーメンだけでも結構な量なのに、セットって…、どんだけ入るんだ?
思わず聞いていた。
「もしかして、それ…、全部、食べるのか?」
「ん。そうだけど?」
「量多すぎじゃないか」
「何か食べたいという意味か?」やらんぞ、と付け加えてくれるが。
いや、欲しくて言ったわけではない。
その細い身体のどこに、そんなにも入るんだろうと、不思議に思っただけの言葉だった。
食後、どこかに連れて行かれた。
私は帰ると言ったが、病院に戻るんだよ。
この連中は、人を拉致るのが好きなのか。
連れて行かれた先は、フィルのフラットだった。
フラットにしては殺風景だなと思ってると、そこはコンピュータールームだったらしく、スキャンしたくてウズウズしてたんだと言われた。
なにそれ、何をスキャンするんだろうと思ってたら、とんでもない事を言ってくれた。
「頭の良い人間をスキャンして、どのような仕組みをしてるのか。それを知りたくてね」
「私は、自分の頭が良いとは思ってないよ。他を当たってくれ」
「待て!良し悪しを決めるのは、私だ。
アンソニーも頭は良いが、アイツの下で働こうという気はなくてね」
スキャンはさせてくれたが、どうしてもアンソニーの事は好きになれないんだ。
「スキャンして、何が分かるんだ?」
聞くと説明してくれたが、私にはチンプンカンプンだ。
これ、サトルとかユタカだったら分かるかもな。
どういうつもりなのか分からないが、私に愚痴とも取れるようなことを言ってくる。
「アンソニーは人の上に立つ器ではない。俺は、あいつの下で働くつもりはない。だから、もしあいつがドンを継ぐことになったら、私は辞める」
それに、あいつは感情的になりやすいし、気分にむらがある。
「辞めてどうするつもりなんだ?」
「自分の好きな事をする。このコンピューターで世界を知りたい」
それは、自分の夢を追いかける1人の若者の姿だった。
そんな簡単に辞められることは出来ないだろうと思うのだけどな。
「1週間後の、この時間に来てくれ」と言われ、いよいよ明日の昼過ぎに行くんだけど、どんな結果が出たのだろう。
なんて思ってた矢先の出来事だった。
ちょうど、その日は夜勤明けなので、昼過ぎに行くには十分に時間がある。
そう思いスタッフの通用口を出ると、何やら騒がしい音がする。
私より先に出た筈のジョシュアは、いきなり私の前に現れ倒れこんだ。
ビックリした私は音のする方に目をやると、銃撃戦が繰り広げられていた。
思わず、ジョシュアに駆け寄る。
バババババッ!
という音がやけにはっきりと聞こえ、そのまま意識が飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます