第51話 あなたの声で…
久しぶりにお母ちゃんの歌声が聴けた。
その時、ひろちゃんの顔が見え、声も聞けた。
本当は、抱きつきたかった。
迷惑をかけることは承知の上だ。
お父ちゃんの気配がするが、何も言ってこないので、そのままにしていた。
あれから2週間ほど経ち、気分も落ち着いてきた。
お母ちゃんの読んでる本が気になる。
だって、色々と百面相をして読んでるからだ。
「お母ちゃん、何読んでるの?」
「ん、読んでみる?」
と、本を借りてパラパラと捲っていく。
お母ちゃんが、簡単にあらすじを言ってくれた。
「男が男を好きになる本よ」と。
「えっ」
しばらくの間(もしかしてバレテル?)と思い、固まってしまっていた。
すると、とんでもない事を言ってきた。
「それはプレゼントしてあげよう。家に帰ると、献本があるから」
卒業祝いプレゼントね。
笑顔で、そう言ってくるが…。
もしもし?お母様…。
「ああ、そうだ。これと、これもプレゼントしてあげよう。
3冊ともね、私が書いたの。それに書店に行けば売ってるわよ」
買ってくれてもいいのだけどね、プレゼントしてあげよう。
暇つぶしに読んでね♪
と、にこにこ顔でバッグの中から他2冊を取り出して布団の上に置いてくれる。
はは、ははは…。
勇気を出して聞いてみる。
「お母ちゃん、もしかしてお父ちゃんにも…」
「うん、渡したよ。読んでるかどうかは分からないけどね」
なんとなくだけど、お父ちゃんが言い渋ってた言葉の意味が分かってきた。
「飯作ってくれたり掃除してくれるのはありがたいんだけどな。アレさえ無ければ…」のアレって、このことだったのね。
夕食後、時間があったのでお母ちゃんからプレゼントされた本を読んでみる。
ふむふむ。
なるほど。
あ、これ面白いわ。
すると、いきなり声が聞こえた。
「消灯時間は過ぎてます。いつまで起きてるのですか?」
「え、もう?」
顔を上げると、ひろちゃんが居た。
「早寝早起きは三文の徳、って言うでしょ」
「はいはい。でも、もう少しだけ…」
「いいから、早く寝る!」
「お願い、もう少しだけっ… ぷっ!」
枕に頭を押し付けられた。
「で、何見てたんだ?」
「あ、読まれます?」
ひろちゃんは、パラパラと捲ってる。
「それ、私の母が書いた本だそうです」
「へぇ、どんな内容なんだろう」
「男が男を好きになりセックスしてる本ですよ」
「えっ!!」
バサッ!
あ、本を落としたな。
「書店に行けば売ってるみたいですよ」
…………。
「あと少しだけなんだから、最後まで読ませてください。ねっ」
「だ、だめ」
「えー。あと3pなんだけど…」
「だめです」
「それなら、院長先生が読んで聞かせてください」
「え?」
「院長先生の声で、読み聞かせてください。お願いします」
ひろちゃんは本を睨んでいたが、そのうち椅子に座って読み聞かせてくれたのには正直言って、驚いた。
「…………です」
朗読ともなると、想像力が凄く掻き立てられるわ。
「ありがとうございました」
「はやく寝ろよ」
「はい、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ひろちゃんが部屋の電気を消してくれた。
その夜、私はひろちゃんに抱かれてる夢を見ていた。
とても、至福な夢だった。
その後、ひろちゃんがトイレに行ってナニをしていたなんて、まったく以て知らなかった。
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