第26話 福山博人Side

 メールが来た。

 宛名を見ると「福山友明」とある。

 メールボックスを開き見ると、服を返したいという内容だった。

 スケジュール帳を見ると、二日後の夕方以降なら大丈夫なので、そう返信した。

 17時過ぎに、病院の通用口でと付け加えた。


 当日、少し遅れたが来てるかなと思い早足で通用口へ行く。

 あれ…、姿が見えない。まだなのかな。

 少し経つと視線を感じたので、その方を見る。

 見ると、そこに居た。

 なにかボケっとしてるし、全くこいつは…。

 「なにボケっとしてるんだ?」と言ったら、返ってきた言葉に驚いた。

 「格好良いなと、見蕩れてた…」

 私は、思わずニヤついていた。

 照れもあったが…。


 ヤバイ、可愛いなこいつ。

 来てくれたんだ食事ぐらいと思って食事をしようと誘うと、少し考えてる節が見受けられた。

 そこで、服のことを思いだしマンションに帰らないと渡せないし、着替えもしたいから帰ると言うと、意外な言葉を聞いた。

 「……夕食作らせてもらいます。良いでしょうか?」

 え、作ってくれるって言った?

 そういえば、『Home』でバイトしてたよな。

 カクテルとか飲み物は作ってるのを見たことあるが、食べ物…。でも、「材料さえあれば」と言ってくるので、少し期待した。


 なので、リクエストをしたら即答されてしまった。

 「そういった手の込んだ物は、時間かかるので今夜は無理です」って。

 たしかに、フランス料理は手の込んだ物だろうな。

 だけど、すぐに和食という言葉に応じてしまった。

 寿司と言えば、白米は?と聞いてくるが、一番肝心な米が無いと話にならない。

 パスタは?と畳み掛けるように聞いてくるが、考え込むとメニューを言ってくる。


 その内容に驚いた。

 

 アンティには、バーニャカウダ。プリモには、ミートソース。

 セコンドには、サーモンとキャベツのグリル。ドルチェには、アイス。


 バーニャ?バーニャが作れるのかと思うと、嬉しくなった。

(でも、バーニャが失敗したら、ドレッシングにしよう)

 サーモンのグリル?

(肉もいいな)

 ドルチェにアイス♪

(アイスはアラカルトで決まりだな)等と勝手に思って楽しくなってきた。


 買い物から戻ってくるとすぐにキッチンに入った友明に対し、私はシャワーを浴びた。

 そして、そのメニューに合いそうなワインをピックするためワインクーラーに入って行った。



 バーニャの味は、文句なかった。

 アンチョビとオニオンがいい具合にしっくりとしていて、そんなにも油っこくなく少しレモン風味の効いたアッサリ系のバーニャだった。

 バーニャを付けて食べる野菜の旨みが一層引き立ち、美味しい。

 失敗したらと思い、一応ドレッシングも出したのだけど必要無かった。

 そのドレッシングを睨みつけながら「このバーニャが美味しくなかったら、ドレッシングで食べてくださいね」と言ってきただけの事はある。


 ミートソースはトマトを潰して作ったらしく、酸味も効かせてワインも加えていた。濃厚な感じのするソースだ。


 サーモンだけでなく、牛フィレの塊も一緒に食べることに合意して買い物し終えた。

 友明を説得するのは簡単ではなかったが、この一言で決まった。

 「金は、もちろん私が出すよ。だから、牛も買うんだ!」

 その言葉に対して、彼の言葉は至極シンプルだった。

 「その言葉は、先に言ってください。それならフィレを買いますね」

 今までの説得にかけた時間は、なんだったんだ…。

 それらを、ミディアムに焼いたせいかパクパクと口の中に入っていく。

 焼き加減も良いし、ソースも美味い。


 そして、ドルチェの番だ。

 皿にアイスを置いて、皿を一枚の絵画みたいな感じに飾り付けてくれる。

 うーん、さいっこー♪


 食後の紅茶は、彼が淹れてくれる。

 さすがだな、カクテルだけでなく彼の作るものは美味い。


 それに、朗らかになってきてる?

 もしかしてと思い、彼に聞いた。

 「寝て帰るか?」


 それに対しての返事はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る