いのちがながれる

ひとつ。

ふたつ、みっつ。

汚濁した泥濘が沈殿する川のほとりで、僕たちは命を数える。

それは打ち上げられた魚の数であったり、目に見えない微生物の死骸へと、際限なく増えていった。

放射能の川。すでに死した命の源、それは貪婪に生を貪り喰らいながら暴れつつ、慈しみを帯びたせせらぎは、澱みに溺れる。

それでも僕たちは、この塘を歩いた。

「どうしているかな」

「何が」

「あの子たち」

「どうだろうね」

卑しく水音を立てる黒土は、せわしなく僕の靴へ纏わりつく。

「いつだったか、遊びに行ったよね。僕たち」

「そうだね」

「あの時は、すごく可愛いかったね。やけにはしゃいでた僕は、君の静止を待たずして、彼女に子種を植えた」

「そうだね」

「綺麗に育っているといいけど」

「ずいぶん感傷的だね」

『エミリ・ブロンテ』は僕に抱かれながら、僕の胸にひどく甘えながら、顔を見せようとはしなかった。

「あそこを焼いたとき」

「何だい」

「君は泣かなかったよね」

「うん」

僕たちは、それから何も言わなくなった。

醇乎たる空気の重さに僕は耐えられず、それが僕たちの歩幅を限りなく後ろへ押しやろうと抵抗するのを認めながら、吸いこんだ空気は灰になった。

「もう一億を越える」

「何が」

「彼等の死骸」

それでも3nの魂を弔ってやらなければ、きっともう、僕たちを誰も救ってくれはしないだろう。





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