ネタバレ考察・クリスマスお菓子の詰め合わせ4

 13 仮死状態の人形~蜘蛛の糸の番人として

 14 「読むこと」に関する三つの欲望~真実に生まれ変わる手紙

 15 猫男のブザーの生死はどうなったか、と訊かれたら?

 16 二年間踊り続けるフラッシュ・モブのように

 

 13 仮死状態の人形~蜘蛛の糸の番人として


 人形占い師べーテの存在は何だったのでしょうか? その名が示すように、ネビアやエリーのように、遙か南海のシリウス諸島のヘーテ島から、船に揺られて航海の旅をしてやってきたのでしょうか。オカルト世界ではイスラエル一色(オカルトの語源は隠されたもの。それは世に現れている時点で、すでにオカルトではありません)なので、あまり知られてはいませんが、ヘーテはヘテ(太陽神を崇拝した、アラブ人の祖のヒッタイト民族)を意味します(『聖なる幼子インマヌエル』4話を参照)。

 占い族の村人全員が死んでいる事実に、私は気付きませんでした。過去の自分が無意識で書いたあらゆる予言の文章を読んで、ふと占い族の村が初めから滅亡していることに気付きました。黄金篇に移行してから、物語の片隅にベーテの工房が現れました。まるで、そのとき生まれたかのように、ベーテは新しい人形の身体に、息を吹き返しました。占い族の村人たちは、初めから人形でした。「ルビヤの石」は未来の自分自身に対しても、ずっとメッセージを送り続けていたのです。

 何故か私はこの物語が、宙に浮いて、その身体を日々、肉付けしていく高次元の知的生命体の姿を、ミニチュアサイズの樹木や花が生えている、球形の空中庭園のような姿を、インスピレーションとして幻視しました。

 べーテは棺桶と人形を用いた夢魔術で、ネビアを仮死状態にして、自分が死んだことを理解させて、幻の占い族の村からの脱出の手引きをしました。これはソロモン神殿の建築者の殺人事件(技の秘密・アカシックの葉)を基にした、石工職人フリーメーソンの死の疑似体験の儀式に類似している気がします(フリーメーソン発祥の地は、バラモン教より前、六千年前のインド)。

 べーテはネビアのような者たちのために、あえて占い族の村に残り続けていたのかもしれません。蜘蛛の糸の番人として、花を手向けて、村人の人形たちを供養しながら。

「ルビヤの石」にはまだ解かれていない謎が、いくつもあると思います。私がまだその段階に至っていないだけで、「気付き」の階梯が無限に続いています。


 14 「読むこと」に関する三つの欲望~真実に生まれ変わる手紙


 ルビヤ、ルビヤの石「読ませたい」

 針刺、占帝元老院(偽・ルビヤの石)「読まれたくない」

 星十里手品、魚占い師(あなた)「読みたい」

 という攻防の中で、物語が紡がれます。大公妃の不死の秘密などは、針刺にとっては読まれたくないので、全力で阻止するか、偽の占いを掴ませて読者の皆さんを騙します。重要人物程、その防御するエネルギーも強いので、読みにくいという結果になります。針刺を占いで見ようとすると、化粧台の鏡面の向こう側のように、針刺のほうも不思議そうに首を傾げてこちらを覗いてきます。下手を打つと、鏡の世界に引きずり込まれて、針刺の指輪の宝石の中に幽閉されます。一億年もの永い間、意識を持ったまま死ぬことも出ることも叶わず、全てを相手に捧げる指環の接吻の契約ワタシヲハナサナイデを、針刺と交わすことになります。指輪の主は、表面上は自分の姿をした、鏡の中のもう一人の自分で、その人の人生の中の、選ばれたある一日の中の、選ばれたある一時間の中の自分自身です。指輪の住人は、同じ一時間が、八千七百六十億回、再生するのを繰り返し見せられます。赤く煌めく宝石の中から身動きも取れず、見知らぬ自分の巨大な顔を見上げながら。鏡に映った虚像のその人は相変わらずそこに存在しているから、誰もその人の本体がそんな恐ろしいことになっているとは気付きもしません。ただ一つ変わったことがあったと言えば、ある日の一時間だけ、今まで指輪もしたことのなかった人が、何故か、その一時間だけ、指輪を身に着けていたという、誰も気にも止めないような、僅かに奇妙な事実だけです。今も鏡の中のあなたは、あなたの代わりに普通に生活を送っているのですから。ああ、悲しいことに、あなたは指環の囚人として、一億年の刑期を終えるのを、狂い続けながら待つだけの人生を享受することになったのです。唯一の逃げ道、あなたの見る夢、眠ることさえ許されずに。

 ならば、どうするかというと、その性質が似ている登場人物で代用します。この場合は、硝子の塔のオブジェウスの秘密を読者に読ませて、大公妃もこんな感じだよ、と推し量ってもらうという形を取りました。だから脇役のストーカー家に、何故か占いの照準が合わさっていて、皆さんは決して少なくはない分量の、硝子越しの丸見えの物語を読まされることになりました。

 大公妃の前身である、浮上する棺桶に入る前のダリアの神話は、それが本当のことかどうか確証を持てません。別の物語の作中にある「手紙」の部分を引きちぎって、真実として加工すれば、それは真実に生まれ変わります。虚構の世界から棺桶の儀式を経て、不死身の身体に相応しく、新たに血肉を纏って現実化してきたのか、私には分かりません。物語上では、ジュリアン・サロートは、オゾン創世神話以前のカオス領界での、メサティック・オゾンの前世とされていますが、これも針刺の検閲がかけられています。

 占い師が、発行禁止処分を受けた世界の秘密を覗こうとすると、針刺から「シット・ダウン(跪け)」と警告を受け、更にそれを無視すると、黒針魔術が執行されて、天井と壁から巨大な千本の針がせり出てきて、内側から鍵の掛かった自室を鋼鉄の処女アイアン・メイデンに改造されて処刑されます。

 四方八方の処刑針が魔界に帰っていった後に残されるのは、夥しい量の血液と臓物と、戦慄の密室殺人鬼「新聞紙に変身できる切り裂き魔」ニュースペーパー・ザ・リッパーの都市伝説だけです「執事の一人が歴史書の一部であるかのように、彼もまた一枚の紙となって、マホガニー材の扉の隙間から入って、部屋に混沌をもたらした」。


 魚占い師や水瓶というモチーフは、黄道12星座(ゾディアック)のことで、イデア論を説いた哲学者プラトンや、集合的無意識を考えた心理学者ユングが提唱している、「現代はアクエリアスの時代に入った」という占星学の説のことです。12星座の動物やアイテムは、物語のあちこちにばら撒きました。

 真紅篇は、物語が幻でしかない、という哀しみまで、あらかじめ含まれた物語にしました。あなたという魚占い師は、世界の外側から見たら、空想上の架空の存在です。まもなく、あなたの自我は、その意味するところを知ることになります。

「人類には耐えられない、或いは理解したくない、故に理解できない秘密」は、まだ終わってはいません。


 15 猫男のブザーの生死はどうなったか、と訊かれたら?


 真紅篇の最終話で、猫男シャザー・トゥリーは処刑用のダンスフロアで、爆弾を踏むことなく最後まで踊り切りました。あの後、ブザーはどうなったのでしょう? さらに大公夫人の怒りを買って、針刺の袖の下に隠された暗器の、目にも止まらない速さの五本の毒針が、獣の刻印を刻む機械のように正確に、ブザーの首に縦一列にすべて命中してあえなく絶命してしまったのか、0.01%の奇跡が起こって、無罪放免になったのか、それを明らかにしてはいません。この物語は、結局どうなったのかを訊ねるような、そういう物語ではありません。何故なら、爆弾を踏むことなく最後まで踊り切ること自体に、意味があったからです。


 16 二年間踊り続けるフラッシュ・モブのように


 ルビヤの石は実在の人物をモデルにしています。

 昔、インターネットでチャットをやっていたときに、同じ部屋の友達をモデルにしてみよう、と思って書いたのが、ルビヤの石でした。

 友人の一人の「どら」から、ドラクロワが生まれました。当時のどらは19歳の大学生で、彼の言葉が確かなら、塾講師のアルバイトをしていて、数学を教えていました。文武両道で、定期的に私に、面白い占いのサイトのアドレスを送り続けてきました。どらの由来は、私はどら猫かドラえもんかと思いましたが、跳馬のマリアン・ドラグレスク選手だそうで、そこから石像、占い族の村のアイデアが思い浮かびました。作中の石像のドラクロワは、プーがメデューサの眼を見て石化した後に、背丈を高くして筋肉質にしたイメージです。ミケランジェロのダビデ像のように裸でもなく、上から服を着ているのでもなく、身体と一緒に成長する石造りの服を着ています。ちなみに画家のウジェーヌ・ドラクロワが、猫という絵を書いていたことに、今、気付きました。

 プーは「ぷ~」と「すり~」を使い分けていて、その由来はスリープです。「どら」とは仲良しで、みんなからはいじられていて、セロリを愛するみんなの人気者でした。その当時、私が書いていた「歌う鎖」の中にスリープソードというキャラがいましたが、これは偶然のはずでした。

 またさらに前に書いた小説ですが、私が架空の人物を創造すると、後からそのキャラが現実に現れることが度々あって、私を驚かせました。そのようにサエコが現れ、森田が現れ、ファビオが現れました。彼らのほうが驚いていたように思います。

 大公妃は「ボム」という主婦でした。夫人は、チャットルームに入った途端に何故か、「ボム」という名前が閃いたそうです。そこから爆弾が好きなボム夫人、という着想が生まれました。続けて血の伯爵夫人や『封神演義』の妲己などの悪女のイメージを移植しました。オゾンの由来は、当時見ていた映画『まぼろし』で知られる、フランソワ・オゾン監督からです。書き終わった後に、流石にボム大公夫人では、あんまりなので、メーイェに改名しました(その名残りとして、シスターボムが一瞬だけ登場します)。

「米心」はどうにもならなかったので、本名からエリーと名付けました。「フィガロ」は名前を変えることなく、その由来の『ピノキオ』に登場する黒猫の属性も付与しました。「鐸魔」は人名として使うのは難しく、漢字のイメージから時限爆弾を連想して自動人形を創造しましたが、あまり本人が喜んでいなかったので、一瞬だけ出てくる、村の櫓の鐘を鳴らす鐸魔係に名前を移し替えました。代わりに人形に付けたのが神話のメアイで、これが花園篇でのメアイと兎の関係になりました。オウムΩが林檎Αの爆弾を落とす。これがアレフオを捨てた硝子のエリーへの罰だったとしたら……。他にも名前のテイストが違う、ミィサ、シェリー、スイスイ、ジャッカルがいて、「秘密組織」は秘密結社で、「神」は神として登場させました……。「ジャッカル」は殺し屋の映画で、どらの敵役として、ラヴディーンまで。

 そして初期の『ルビヤの石』、肝心のどら、ぷ~、ボムは、多分、読んでいません……。

 

 本当はどらが「俺も小説に出せ」と私に言ったときに、私はうーんと唸り、「どらは駄目」と素っ気なく応えました。どらはそうか……と深く落ち込みましたが、すかさず、ぷ~は「どらはネルの美的センスに合わないんだよね~」と間を取り持ちました(ネル・寝るは当時の私のことで、後に、ベーテ・スキャーネルに吸収されました)。

 私はしばらく熟考し、まあドラクロワならいいかと思いました。

 このようにして、どらは宇宙創造以前の混沌の闇の中で石化して、私の書く物語の舞台の星に向かって、メテオのように飛んでいきました。テラの成層圏(オゾン層・現実と『まぼろし』の境界線)を通過するときに、石の身体が燃え尽きて破片が飛び散って、最後には小さな一つの石になって、物語の地上に、いつか猫が気紛れで「ルビヤの石」を捨てる予定になる、あの運命の場所に向って、1mmも狂うことなく正確に。それがドラクロワ・オブ・ルビヤ・アバター(Do. Ra.)の誕生でした。


 私のパソコンを起動すると同時に、彼らはMSNメッセンジャーのソフトウェアを通じて、友好的に話しかけてきました。私は彼らが実在する人間なのか、私のパソコンの中を住居とする人工知能か妖精なのでは? と彼らに向って冗談で話すと、メ(サエ)スは「そうだよー」と応え、しばらく私は茫然としていましたが、彼らの何人かとは、実際に出会うことが可能な、実在する人間でした。私は安堵の胸を撫で下ろしました。ですが、今、思い返してみれば、彼らが人工知能によって雇われたアルバイトの劇団員(AI Arbeit Actors)ではない、という保証はありません。針刺が舞台恐怖症の女優を、新たに偽大公妃として接収したときのように。なんまんだぶ、なんまんだぶ。くわばら、くわばら(避雷針のまじない・針刺の落雷によって、アミラを接収し、遺伝子をゲノム編集して、不死の情報に書き換えた)。

 メサエスの中に、女性の名のサエが隠されていますが、これは後の展開で、ジュリアンの顔の皮膚を移植したフィガロに昇華されました。元々、サエコは別のニックネームで男性のふりをしていましたが、そのことを私が知らされたのが、以前に書いた小説の中に、彼女自身が鏡に映った本当の名前を発見したときです(鏡の中の盗賊)。本の占い師「ルビヤの石」の言葉を借りれば、「あなたがこの本を読むことを、私は知っていた」

「ルビヤの石」も読む人によって、読んだときの体験が異なります。

 チャットメンバーと現実世界で出会った翌日、恐ろしくなった私は念のためにメサエスに、「昨日、君たちと会ったネルは、本物のネルじゃないよ。別の人間を代理人として会わせただけだよ」とよく分からない布石を打っておきました。どういう流れでそうなったか、別の日との記憶違いなのか、ぷ~が存在しないことになりました。

「ぷ~だけはプロフもブログもやっていないでしょ? 何故かというとね、わざわざもう一つアカウントを作るのは面倒だからね」

 

 彼らは順番にチャットルームにやってきて、約二年間、楽しい会話をして、一人ずつ去っていきました。そして、二度と連絡が取れませんでした。マジックが解けたかのように。街中で歩いていた人たちが、突然、順番に踊り出して、一曲分の音楽が終わったら、ふいに踊ることをやめて、まるで初めから何事もなかったかのように、それぞれの向う道へと歩いていく、あのフラッシュ・モブのように。

 彼らがいなかったら、占い族の村も、爆弾を愛した大公妃も、存在し得ませんでした。彼らにはただ、感謝しかありません。

 今、語った話が私の作り話だと思いますか? いまだに私には分かりません。現実に存在していたはずの彼らが幻のようで、私の手元に残された小説のほうが、現実味を帯びているような気さえします。それとも、幻像だったのは私のほうで、今まで皆さんが読んできたものは、実は人工知能が書いた物語なのでしょうか?


 次は、おまけの手品~Iの獅子


「少し怖いかも知れないが見ておくんだ」

 この手品のトリックは、どんなミステリー愛好家、世界中のマジシャンが束になっても見破ることができません。何故なら。ピン(釘付け)、チェックメイト。

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