魔女見習いのアンラッキーデイ
ビト
召喚事故は保険適用外
深夜、雪の積もった公園を少年が歩いていた。
しゃりしゃり、と。無音の公園に足音が響く。ダウンコートをきっちりと着こなして歩くその姿はどこか大人びていた。
「流石に冷えるね。こんな時間に全く……勘弁して欲しいな」
低い声。缶コーヒーで両手を温めながら公園の奥へと。ただでさえ人のいない場所の、絶対に人の来ないところ。
「さて、さっきからうるさいんだよ」
手を伸ばす。何もない雪景色に。否、その手は何かを掴んでいた。まるで少女のような、細く小さい手を。
「ああもううるさいな!!」
引っ張る。強く強く。一気に。すると、釣りのように大物が釣れた。
「君が?」
現われたのは三角帽子にローブの少女。暗い中でもよく分かる燃えるような赤毛。年は10代前半に見える。
「ほわっ!? 何々なんなの召喚成功やったやったあたしやっぱ天さ「うるせえ!!」ぎゃふんっ!!?」
いきなり騒ぎ出した少女の尻が蹴り飛ばされる。雪山に頭から突っ込んだ少女が雪の中でぎゃあぎゃあ騒ぐ。
「……何があったのか説明してくれないかな?」
少年が呆れた顔で言う。
「お前が召喚された悪魔ね! さぁあたしを最強の魔女に「あ?」すみませんでした」
ひと睨みする少年。月明りで照らされた顔つきが妙に厳つい。というか怖い。
「いや、というかただの人間? 悪魔じゃないの?」
「俺は人間だ。名前は唯人=ヘラー。理光宮高校の2年生だ」
頭を抱える少女。
「えぇ~失敗~?」
少年の睨みつける。少女は委縮した。
「お前、名前は?」
「ルル=ベリー。将来を約束された天才魔女見習いよ!」
魔女。その言葉に唯人は眉をひそめる。
「魔女ってあれだよね。悪魔と契約して云々っていう」
「そうよ!」
「魔女狩りに引き渡すね」
「やめて!!!!」
ずずっと缶コーヒーをすする。若干ぬるくなってしまった。
「てか寒っ!? ここどこよ中枢世界じゃないわね! 一体どんな下等世「君、召喚に失敗したんだよね。俺、ただのとばっちりだよね」
唯人が凄む。ルルがビビる。雪が止んだ。
「あれー……? 何がおきたのかなー?」
とぼけるルルの尻を再び蹴り飛ばす。
「がああ!!」
そのまま雪山に頭から突っ込む。そして、びしょびしょのローブを引きずりながら這い出てくる。その相手をするのが疲れたのか唯人は帰りだした。
「待って待ってこのまま終わらないで頼むから!!」
その足に引っ付いてルルが泣きつく。召喚事故を起こした彼女には帰る手段がなかった。
「頭を冷やせ。魔女狩りを呼ぶぞ」
「ごべんざざい」
雪に頭を押し付けられる。
「あのね、俺も無関係なのに巻き込まれて迷惑してるの。騒がれても近所迷惑だからさ、何とかして帰ってよ」
冷たくなった缶コーヒーを飲み干す。
「召喚に全部力使っちゃったからしばらくは魔女術も魔術も使えないのよ! どちらにしても家出中だし……」
あわあわするルルに唯人はため息をつく。歩き出す唯人にまたもや泣きつく。蹴り飛ばす。泣きつく。唯人は頭を抱えた。
「召喚事故なんておかしいわよ。
唯人は足を止める。ルルの首根っこを掴みながらあからさまに嫌そうな顔。
「……分かった。帰る方法を見つけるまでの間だぞ。良かったな、冬休みの間で」
♪
唯人宅。
「何か所帯じみた部屋ねー」
すっかり泣き止んだルルが部屋を物色する。暖房が効いた部屋でほっこり顔だ。
「やめい!」
「ぎゃふんっ」
尻を蹴り飛ばされて転がるルル。
「さっきからやめてよね! 女の子のおしりを足蹴にするってどういうことよ!」
「あ?」
「すいませんでした。おとなしくしてます」
怖い。顔が怖い。震えてへたり込んだルルを唯人は一瞥する。
「俺はもう寝る。君に叩き起こされたせいで眠いんだよ」
深夜に召喚の呼び声が聞こえたのが全ての始まりだった。学生で、なおかつ休みも規則正しい生活を心がけている唯人からしたらとんだ大迷惑だった。
「あ、あの……私はどこで寝たら?」
「その辺で寝てろ」
一人ベッドに潜り込み、ルルにはブランケット一枚投げ渡す。ひどい話だ。
「あの、あたし女の子……ホントに寝やがった!!」
速攻で寝息が聞こえてくる。寝た。寝やがった。しかもストーブも切りやがった。ルルはブランケットに包まりながら身を震わす。
濡れたローブと三角帽子ははその辺に干しておくとして。濡れた服はどうしようか。寝ているとはいえ、こんな得体の知れない男の前で裸になるなど論外だ。
「ああ、あたしの栄光の魔女ロードがー。お師匠様、家出なんてしてごめんなさい! だから助けにきてー!!「うるせぇ寝ろ!!」ひぃっ!!?」
寒さと恐怖。魔女見習いルルは身を震わせる。
(とにかくこのままじゃ風邪引くわ。お風呂は流石にあるわよね!)
物音を立てないように部屋を物色する。
(一週間もすれば多分魔力は回復する。それまで何とか生き残るのよー!)
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