7.「戦わないわよ!? 使うところ間違ってるからね!?」
食事が終わり、そろそろ出ようかと言うときにセリカが変なことを言い出した。
「ジンさんてー、どこに住んでいるんですー? 長屋って言ってましたけどー。」
「んーなんでだ?」
「実は身元確認のために、カレンにお願いして調べてもらったんですが、長屋に住んでるのが確認できなかったんですー。」
「そんなことしてたの?」
『はい、セリカ様の指示で。短時間の調査でしたので、見つけきれませんでした。』
「もう今更疑ってないですがー、どこに住んでるのか気になってー。」
「そうだな・・・口で説明しづらいが・・・帰りに見てくか? 茶ぐらいだそう。」
「おー、って、こんな時間にお邪魔したら家の方にご迷惑が・・・。」
「独り者だ、なんに気兼ねすることもない。」
「ツカサさんも良いですよね?」
「良いわよ。」
(フフフ、お膳立て第一弾成功ですー。)
店を出てジンの先導で家に向かった。
「ここだ。」
確かに長屋のほうに向かったが、通り抜けその先にあった門構えのしっかりした一軒家だった。
「ちょっと、これ、豪邸って言うんじゃない?」
「そうですねー。予想をはるかに上回りましたー。」
『調査の際、素通りしたところです・・・。』
ツカサ、セリカ、カレンが感想を漏らす。
「親の代の遺産だよ、ま、上がんな。」
と言い門を開け入っていく。
「おじゃましまーす。」
ジンに続き門をくぐり、玄関と思われる引き戸をくぐると・・・、洋風の普通の家だった。
「あれぇー? 和風じゃないですー。」
「あぁ、親がな、洋風好きだったんでな。周りの景観も考えると、外見は和風にせざるを得なかったんだが、中身は洋風が良いと言ってな。こうなっているわけだ。」
ジンは三人を居間に案内し、ソファーを勧めた。
「くつろいでてくれや。茶の用意でもしてくらぁ。」
『ジン様、お手伝いいたします。』
カレンはジンについて出て行った。
「カレンってば、本気みたいねぇ。」
「ですねー。」
着いていったカレンを見ながらツカサとセリカが言葉を交わす。その後は特に話すこともなく静かに待っていた。
・・・のはツカサだけだった。
(カレン、緊急指令ですー!)
(『はい、何なりと。』)
(この一軒家、ジンさんのほかに人がいないようだし、今夜からココを拠点にしますー。と言うわけでここからが重要指令です! ジンさんを口説いて皆がここに居られるように頼んでくださいー。)
(『畏まりました。最悪力づくでも。』)
(それはダメですー。せいぜい色仕掛けにしてくださいー。)
(『・・・畏まりました。頑張ります。』)
(お願いねー。お膳立て第二弾はカレン次第です。まぁ多分大丈夫とは思うけど。さて、あとはツカサさんですがー。)
カレンに指示したセリカは、ツカサに話しかける。
「結局、黒幕はわかりませんでしたねー。」
「そうね、殿と呼ばれている領主なのかしら? それともほかに・・・?」
「カレンたち四人に調べてもらうとしても、直ぐに何か見つかるかはわかりませんしねー。」
「時間がかかるかもしれないわねぇ。」
ツカサは頬に手を当て考え込み始める。
「いつ何が起こるかわかりませんー。幸いここはジンさんだけがお住いのようですし、部屋もたくさんありそうですー。カレンを一人置いてっちゃいましょうか?」
「えっ、ジンのところに? カレンを?」
「連絡付け易くなりますしー。カレンも本気みたいですしー。」
「いや、でも・・・。」
「あ、ツカサさんもですよねー。じゃぁ、こうしましょう、皆でここに住まわせてもらっちゃいましょう!」
「えっ、ちょっ、何を言って・・・。」
その時ジンとお茶を持ったカレンが部屋に戻ってきた。
「なんだ、カレンから聞いたが、旅費が厳しいのか? 家に住んでもいいぜ?」
「えっ? 良いの? じゃなくて、カレン、何話してるのよ?」
「わーい、じゃぁ、さっそく宿を引き払ってきますねー。」
「ちょっと、セリカ!?」
セリカは言うが否や部屋から駆け出して行った。
「本当に良かったの?」
「あぁ、部屋は余ってる。好きなところを使うと良い。」
「ごめんなさいね。」
「そう言えば風呂好きなんだったか? 風呂もあるぜ? 順番に入ってくると良い。」
「あ、ありがとう・・・。待って、家主が最初に入るべきよ。ここに居るから終わったら呼んで。」
「・・・まぁいいか、わかった。じゃあな。」
ジンは風呂に入りに行った。
「協力者の家とはいえ、思わぬ拠点が手に入ったわねぇ。」
『ツカサ様・・・。』
カレンが氷のような表情を落とした顔でツカサに話しかけてきた。
(・・・私もああいう顔をしているのね・・・。)
と考えつつも、大事な話があるであろう事に気がついたツカサは応えた。
「なに? 何かあったの?」
『今夜中に・・・。』
「今夜中に?」
『ジン様に抱かれて下さい。そうしないと私に回ってこないのです。』
「それ、真面目な顔して言う事!? そ、そんな事する訳ないじゃない! そりゃぁ好みではあるけど、そー言うことは時間をかけてお互いの気持ちを確認しあってゆっくりと進めて行くものであって・・・。」
段々と小さくなる声でブツブツと繰り返していた。
『早くして頂けないのなら、私から行きます。』
「!? それはダメよ!」
『では待つのは今夜だけです。ご武運を!』
「戦わないわよ!? 使うところ間違ってるからね!?」
ジンが風呂から上がり、ツカサが入っていった頃、セリカが戻ってきた。実際はツカサが風呂に入るのを表で待ち構えていたのだ。
「ジンさんただいまーです。」
「おう。」
「そういえば使わせていただく部屋はどこでも良いんですかー?」
「そこの並びの一番手前の部屋は俺のだから、それ以外なら良いぞ。」
「じゃぁ、適当に決めちゃいましょう。ジンさんの隣の部屋から順にツカサさん、カレン、私、と言うことで。」
「おう。ツカサが上がったらセリカもカレンも風呂入れよ。」
『ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。』
「はーい、ありがとーございまーす。」
(お膳立て第三弾成功! 後はとどめだけ。フフフ・・・。)
全員が風呂から上がり、暫く居間で歓談していたが、そろそろ寝ることになった。
「俺はこれから晩酌の時間だ。ゆっくり寝てくれ。」
「ありがとう、おやすみなさい。」
『お休みなさいませ。』
「おやすみなさいですー。」
と順に部屋に消えていく。が、一番奥のセリカは部屋に入らずに、忍び居間で今に戻ってきた。
「ん? どうした忘れものか?」
「はい、忘れものです。ジンさんに言葉を伝え忘れました。」
セリカは一呼吸置くと、一気に話し始めた。
「ツカサさんは強い
でも本当は、誰かに頼りたいと思っているはずです。見守ってほしい、包み込んでほしいと思っているはずです。それは私やカレンじゃダメなんです。
まだ知り合ったばかりで、勘でしかありませんが、ジンさんは頼りになりそうな人だと思ってます。
もし心にお決めになった人がいないなら、その余地があるのなら、・・・お願いです。どうかツカサさんのところ、行ってあげてください。」
感極まり涙目になりながら力説したセリカが袖で涙を拭いていると、立ち上がったジンは笑みを浮かべながらセリカの頭をポンポンとたたき、
「ツカサのことが好きなんだな。・・・あれは本気だったのか。ま、悪い様にはせん。今日のところは寝ておきな。」
セリカの背を押し、部屋に行くよう言うのだった。
(あーほんとに泣いちゃった。でも、とどめも完了。矢は放たれた! 後はカレンに連絡して監視体制を整えねば!!!)
コンコン、とツカサの部屋がノックされた。
「はい?」
ツカサは扉まで行き開けるとジンが立っていた。
「何、どうかした?」
「期待されているようだったんでな、夜這いに来た。」
「っ!!!」
「おっと。」
急激に顔を赤くし、扉を閉めようとするツカサだったが、ジンもさるもの、それ以上扉が閉まらないように足を差し込んでいた。
「ツカサ、俺を見ろ。俺は初めて会った時からお前に目を奪われていた。あの蕎麦屋だ。嘘を言っているように見えるか?」
ツカサは、えっ?と言う顔でジンを見上げる。
「お前がもし俺のことを憎からず思ってくれているのなら開けてくれ。そうじゃなきゃ素直に引き下がろう。」
たっぷり三十秒ぐらい見つめ合った後、
「・・・カレンを連れてきてないでしょうね。お風呂には入ったから、だから・・・言われた通りにはしたわよ・・・。」
語尾になるほど小さくなる声で言い、部屋の扉が一度大きく開き閉まると、廊下には誰もいなくなっていた。
廊下の角でその様子を見ていた四つの瞳があった。
「見ましたかー、カレンさん! ツカサさんがあんな可愛くなっちゃいましたわよ!?」
『ツカサ様は元々そういう方なのです。それはもう、愛おしそうな瞳でジン様を見てらっしゃいました。今も。』
「今も!?」
『はい、私はツカサ様、セリカ様の目で見ているものを覗けます。ですので、今ツカサ様が見ているものも見えるのです。
今はジン様の熱い胸板をご覧になっているようです。
あ、ジン様の手で顔を上げられたようです。ジン様の顔がアップになり、ツカサ様がジン様の頭に両手をお回しになり、目を閉じられました。』
「キャー!!! それからそれから!?」
『長い口づけのままベッドに押し倒され・・・。』
二人はセリカの部屋に場所を移し、暫くの間実況が続いていた。
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