万能の神でも生きるのに結構苦労するんだよ?
緋宇 駆斗
妹の教育が難しい
桜咲き、彩りい満ちた通学路を歩く、新入生達。皆、新たな学校へ行くのに戸惑っていたり、クラス替えで緊張していたり、パターンは様々だが、少なからず不安の色を顔に浮かべていた。
その中に、二人ほど雰囲気が違ってる生徒がいた。一人はやや癖っ毛のある黒髪、細身で黒い制服がよく似合っている男子生徒と、桜色の髪をポニーテールに束ね、整った顔立ち、藍色の制服を着ていて、男の方より少し幼く感じる女子生徒がいた。
具体的には緊張するどころか騒がしいのである。
「お兄ちゃん、あんな起こし方しないでっていつも言ってるよね!何でいつもあんな起こし方するのさ!」
「それは完全に柚梨が悪いだろ。」
そう。狩野 真(かりの まこと)は、現在、血の繋がらない妹の姫村 柚梨(ひめむら ゆり)と今朝の起こし方について少々荒っぽい話し合い(ほぼ喧嘩)になっている。
「大体、あれはほぼ俺が被害者だろうが」
と弁護する俺に対し、我がかわいい妹様は、頬を膨らませたまま反論してくる。
「それでも流石にあれはひどいよ!」
なぜ朝っぱらからこんな状況になっているのか思い返すこと一時間と数分前の事。
両親が色々な事情で現在、家を留守にしている。という事で、真は毎朝妹を起こしたり、朝ごはんを作ったり、色々な事をする。
白状をすると、親が居ないのはお年頃の高校生である真にはとても好都合だった。
何せ、親が家に居ないんだぜ?ゲームで夜更かし、門限無し、勉強時間自由(それでもやる)。いいことだらけである。とは言え、親が居なくとも妹が家居るので、そこまで出すぎた真似は出来ない。
それでも、中々自由なこの生活には満足しているのだが、二つほど不満がある。
一つは両親が出掛ける時に言い残した言葉。母さんの方は何も問題は無く、「留守の間、家と柚梨をお願いね」と言ったのだが、問題は親父の方だ。
何とこんな事言いやがったんだ。
「親が両方居ないからって、妹に手ぇ出して捕まらんようにな」
んだとぉ!?このエロバカオヤジ!いくら義理だからって妹に手出す程神経狂って無いわ!大体、あんたがタンスの奥に隠したへそくりとエッチな...じゃなくてお姉さんの画像を母さんに黙っててやったのは誰だと思ってやがる!今すぐここでばらしてやろうか!?と言いたかったのだが一応、口止め料を頂いたので明かす事は出来ない。
それでも無事に済ますつもりは無い。っつう事でこう言ってやった。
「親父こそ、こないだのような事やって、母さんに愛想尽かされんなよ。」
と言い返して、肩を叩き返した。
そう言われた真の効果抜群の逆襲に親父は表情をひきつらせながら俺の肩に乗せたままの手に力を込めて来た。俺も対抗して親父の肩に乗せたままの手に力を入れてやった。
「フフフフ」と俺。
「ハハハハ」と親父。
「「ナハハハハハハハハ!!!」」
「もう!いい加減にしなさい!」
「お兄ちゃん!」
あちゃー。怒ると怖い母さんとかわいい我が妹様がお怒りだ。
「全く、いっつもそうやって本当に仲がいいわね。」
「本当、親子じゃなくて兄弟に思えるよ。」
これもよく言われる。
「まあ、何はともあれ行ってらっしゃい。母さん、エロバカオヤジ。」
二つ目は、妹の寝起きがいつも激し過ぎる事だ。
今朝もこんな事があった。
朝目が覚めてから、朝ごはんの支度を終えても柚梨は部屋から出て来ないので、起こしに行く事にした。
ウチは一軒家だから階段を登って柚梨の部屋に入って起こすのだが、これがかなりハードでな。部屋に入って、枕元で呼び掛けても起きる気配すらない。実際、一度だけワイヤレススピーカーをスマホに繋げて、ホラー映画の絶叫シーンをMAX音量で再生した事もあった。
部屋の外に出ていた真にもハッキリ聞こえた音量なのにも関わらず、まだすやすやと寝息を立てていた。試行錯誤の末に真がたどり着いたのは、布団を容赦なくひっぺがすというマンガ的方法だった。
実にバカバカしい方法なのだが、これ以外に特効薬はない。そして、薬には皆副作用がセットで付いてくる。この場合の対象は、使用者ではなく投与者に降りかかる。
初めて使った時はおよそ四年前。母さんに「柚梨を起こして来なさい」と言われてこの方法を試したのだが、布団を引き合った末に布団が柚梨の手から離れた数秒後、真は起こしに来た事を後悔した。
寝ぼけながらだとはとても思えない威力のビンタが顔面にクリーンヒットしたのだ。その衝撃を受け、鼻血が流れたが、それでも足りず、体ごと吹き飛ばされ、壁に激突し、気絶した。
その日は学校を休んで、お医者さんに診て貰うと
「学校で色々あるのは分かるけど、喧嘩はいけないよ。ましてやこんなにひどい怪我まだ負って。空手部の大将にでもやられたの?」
と言われた。
違うんです...喧嘩じゃないんです...妹を起こそうとしただけなんです...
その日以降一週間程真は首をかしげたまま過ごし、ビンタの跡は湿布を貼る程ひどい物だったのは、また別のお話。
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