小麦の市民

野方幸作

序章

気が付くと彼は役所のようなところにいた。

「ようなところ」というのは彼にはそこが役所であるという確証がなかったし、そもそも何故そこにいるのかが分からなかった。

周りには何人か人がいるものの、どれも面識はない。

一体何故、そして何のためにここにいるのだろう。


「次、倉間晴彦!」

名前を呼ばれた彼――倉間晴彦は声のした方向にある受付窓口まで歩を進めながら、直前の記憶を振り返る。

今の今まで何をしていた?

もやがかかったような記憶を探りながら、必死に思い出す。

確か俺は・・・・・・

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