世界が終わる、創世神話

山茶蛾

プロローグ

 世界が、綻び始めている。多くの人々が日常を享受する場所。人々の思いが錯綜し、世界の持つ”物質”という与えられた情報をそれぞれの事情、思惑によって積み重ね、緻密に編み込んだ形として成し、それらが増産され、情報量が大きくなりすぎてしまった場所――世界の先端を行くような都市――から、それは起こっていた。

情報の負荷に耐えきれず、元の姿を取り戻し始めていたのだ。大きすぎる異変も、小さすぎる変化も包み込み、溶け込ませてしまう日常の中から、崩壊は始まる。

灰色の砂だ、人間が繁栄のために積み重ねてきた物は世界が限界に達することを早め、原初の姿へと還っていく。一度崩れたバランスがその綻びを広げることに、特別な事情などいらなかった。細く長い糸で編まれた世界は、一度糸が切れてしまえば、そのほつれから形を崩壊させていく。

 ――世界はすでに、限界を迎えていた。もっとも、それを察知している人間は、ほとんどいなかったのだが。

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