26, サリーナ・マハリン戦

 状況は思ったよりも悪かった。


 町に着いた時、丁度イルルの兵達がサリーナ・マハリンになだれ込んできたところだった。民は逃げ惑っている。町の中で戦いが起こり、血が飛んでいる。悲鳴や、叫びが聞こえる。


「フェレス……!」


 邸宅の方へ。邸宅の方へ。頭の中はそれだけだった。


「死ね!」

 銀の光が、町を駆ける私にも突きつけられる。


 スラリ、剣を抜くと刃の音が耳元でする。

 あぁ、また。その瞬間に血が騒ぐ。

 そして剣を向けた男の肉を断ち、その銀の光を撥ね退ける。

 武民でもなんでもない人間の剣なんて、私を傷つけるに値しない。


 ひどい光景だった。町が壊されていく。胸が痛んだ。故郷の、バルガンの壊された村の光景を思い出した。きっとこんな風に壊されていったんだ。

 怒りがわいてきた。バルガンは別にこいつらに壊されたわけではない。だけど、この町を壊すイルルの連中に怒りを憶えた。容赦なんかしない。できないし。

 私は剣を振り回し、走りぬけた。だけど、走る最中、理解した。

 この町はもうだめだ、と。


「どけぇ!」


 私の声に振り向いた兵達。

 遅い。今更剣を抜いたって。遅い。ずばっと肉を切る。血を被る。


 邸宅へ続く道の一つ。貴族たちの通り道だったあの道は、まだ敵が少なかった。ここから中に入るしかない。

 ばっと顔を上げると、閉ざされた門と塀がある。高い塀だが、近くに木もある。


「……登れる」


 半ば自己暗示で呟いて、すぐに木に登りだした。

 汗がひどかった。背中をつたっているのが分かる。血まみれの手が枝から滑りそうだった。だけど一直線に、私は走った。

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