4-11.残るは一匹
城の人間達が持ち寄った燭台に照らされ、シャンデリアに押しつぶされたパピルスは両目を見開いて天井を睨み付けていた。
身につけていた宝石は四方に散らばって、それらは一様に血で染まっている。
「突然、パピルスが現れたと思ったらシャンデリアが落ちて来たんだ。彼女は危機を察して現れ、僕を庇って死んだのだろう」
パピルスの遺体の横で、ヘンルーダは惜しげもなく涙を流しながら言った。それを見守る城の人間達も、悲しそうな表情を浮かべている。
「彼女はこれまで、僕のために色々働いてくれた。なのに僕は彼女に何も返せなかったよ」
「ヘンルーダ兄様、ご自分を責めるのはおやめ下さい」
寝間着姿にガウンを羽織ったヘルベナが、ヘンルーダを慰める。
ローテムはそれを部屋の隅で眺めながら、小さく欠伸を噛み殺した。
「まさかヘンルーダ兄様が僕を庇うとはね」
「あのね、さっきも教えたけどヘンルーダがお前の名前を覚えないのは悪気があってのことじゃないんだよ」
「それは聞いたけどさ、僕のことなんてどうでもいいって思ってるんだとばかり」
「本当にどうでもいいんだったら、第四王子の存在すら忘れるでしょ」
リリィは他の人間には聞こえないように、小声でローテムに話しかける。
しかしそんな心配をせずとも、皆は死んでしまったパピルスのことしか見ていなかった。
「で、どうやってパピルスを転移させたの?」
「簡単だよ。パピルスにリリィの正体を教えただけ。案の定、慌てて能力を使ってヘンルーダのところ……一本目の剣のある場所に行った」
「そしてシャンデリアを落とした時に、パピルスは二本目の剣がある砂浜に逃げようとした。……普通に避ける可能性もあったんじゃない?」
「パピルスは自分を着飾るのが好きな人魚。シャンデリアの欠片で怪我をする可能性を考えて、安全な砂浜に逃げる手段を取ると思ったの」
だが砂浜にあるはずのもう一本の剣は、既にリリィの手で回収されてシャンデリアの中にあった。空間移動した先に待ち受けていたのは、最早避けることも出来ないほど間近に迫ったシャンデリア。パピルスは恐らく、自分に何が起きたか理解しないまま事切れたに違いなかった。
「でもちょっとパピルスが可哀想かな」
「生きるために牛や豚を殺すのと一緒だよ」
ローテムの言葉をリリィはあっさりと否定する。
「お前が王になり、人間として生きたいのなら中途半端なことはしちゃ駄目だよ。可哀想だの倫理だのは吟遊詩人にでも任せておけばいい」
「人間として? それってどういう意味?」
「人魚にとって、お前たちは牛や豚と一緒ってこと」
リリィは部屋の中にいるマリティウムに視線を向けた。勇ましい雄々しき人魚は、死んだ同胞を嘆くかのように頭を垂れている。
最後に残ったのは、リリィに最も優しくしてくれた人魚だった。
「大好きなマリティウム。お前で最後だよ」
(to be...)
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