第12話 ライバルたちの能力


 赤石を倒した俺は、イズミ村の領土をロイホ村に接収し、広大な領土を治める大首領となった。


 イズミ村は作物こそ育たない土地が多いものの、広大な牧草地帯を持っており、多くの羊を飼っている。他にも豚や牛など、畜産業も他の村々より進んでおり、イズミ村を接収したロイホ村の暮らしはより豊かなものになるだろう。


 さらに領土だけでなく、人を奪えたことも大きい成果だ。この時代、戦争で敗北すると、奴隷に堕ちるのが宿命だった。イズミ村の連中は村所有の奴隷となり、多くの者は農夫として、腕に自信があるものは戦士として働かせている。


 だがここで気を付けないといけないことは、奴隷に堕としたとしても、待遇を酷いものにしないことである。実はこの時代、戦争で死ぬ人間より、奴隷に裏切られて殺される人間の方が多かったとまで云われており、特に大規模農園での農夫奴隷の反乱などは度々行われ、その度に多くの死者を出したと云う記録が残っている(これはつまり奴隷を酷使する主人が多くいたという証明でもあった)。


「飯、持ってこい、飯」


 で、必要最低限の文化的生活を保障してやったイズミ村の元首領、赤石はと云えば、首領だった頃と変わらない偉そうな態度で、ローズに飯の支度をさせていた。


「キモオ……じゃなかった。新庄君、ちょっと待ってね。すぐに飯の用意をさせるから。とっとしろ、ブス!」


 いや、俺に対する態度だけは変化があった。露骨に俺に対して媚びを売るようになったのだ。それも当然と云えば当然で、赤石の待遇をどうするかは俺の胸三寸で決まるのだから、多少なりとも印象を良くしておこうと考えたのだろう。


「ご飯、お持ちしましたよ」

「俺たちの分まで用意してもらってすまんな」


 ローズは俺だけでなく、アルトリアや可憐の分の食事までテーブルの上に並べてくれる。

用意された料理はパンとスープ、そして近くで採れた野菜を使ったサラダだけだった。肉や魚は一切ない。


「随分と貧相な食事ね。私の口に入れるに相応しくないわ」


 可憐が用意され食事を拒否する。こいつも奴隷のはずなのに、首領の俺より偉そうである。


「これでも随分とマシなんだぞ」


 この時代の奴隷の標準的な生活は、パンかスープを一日一度食べるだけ。住居も馬小屋と変わらないものを与えられるのが普通だった。


 だが俺は日に三食の食事を用意し、さらにはパンとスープだけでなくサラダまで追加している。加えて住居も自由市民と同じように、粘性の高い土と草を組み合わせた住居を用意したのだ。どれほど慈悲深いことか。


「これでも新庄君には感謝してるんだぜ。もっと酷い目に遭わされると思っていたからな」

「一応クラスメイトだったからな。多少は優しくしてやるさ」


 赤石は女神から与えられた能力があるし、まだまだ利用価値がある。恩を売っておいて損はない。


「で、新庄君。今日は何のようで来たんだい?」

「蛇島や山田さんについて聞きたいことがあってな」


 蛇島に成り代わって、デンマークの王となるためには、敵の情報を知る必要があった。


「聞きたいことがあれば、なんでも聞いてよ。何でも教えるよ」

「なら聞くが、二人の能力はなんなんだ?」


 女神から与えられた能力が分かれば、倒すための戦略を立てやすくなる。


「蛇島は分からない。けれどデンマークの王になれたくらいなんだ。強力な能力なんだと思うよ」

「俺もそう思う」


 少なくとも触れたモノをコーラとポテチに変える能力よりは強力なはずだ。


「山田さんの能力は有名だから知っているよ。触れたモノをドラゴンに変える能力だ」

「やはりか」


 龍を呼び出す魔女と云う異名から予想は付いていた。それにしてもコーラとポテチと比べると、龍を生み出す能力は凄く魅力的だ。俺もその能力が良かった。


「山田さんの能力はリストの中でも最強クラスだったからね。あんな能力に勝てる奴なんていないよ」

「だが蛇島はそんな山田さんと拮抗してるんだよな」


 同程度の能力だと想定して挑んだ方がよさそうだ。


「次に敵の兵力について聞きたい。兵士は何人いるんだ?」

「山田さんは三万人の兵がいるらしいね。蛇島は一万人と云われているけど、本当のところは誰も知らない」

「絶望的な数字だな」


 一万人のヴァイキングと戦わないといけないのか。自分で決めたこととは云え、めんどくさいな。


「蛇島の一万人が攻めてくればひとたまりもないな」

「新城君、それはないと思うよ」

「どうしてだ?」

「山田さんと蛇島の力は拮抗しているからね。イングランドに兵力を集中しないといけないし、他にも日々の糧を得るために略奪に割く人員も必要だ。全軍がこちらを襲うことはないよ」


 赤石が口にした通り、蛇島は俺への個人的恨みで、刺客を送ってきている。云ってしまえば、近くにいるから殺しとくか、と云うつまみ食い感覚なのだ。同様のことが山田さんにもいえる。二人にとって見れば、俺の存在は鬱陶しいハエのようなものなのだ。


「それに蛇島はもう一つ敵を抱えている」

「前国王派の人間か?」

「良く分かったね。その通りだよ」


 蛇島がデンマークの国王をしているということは、前国王は彼に王座を奪われたということだ。


 この時代のデンマーク王はゴズフレズという男だったはずだ。彼は部下から慕われる良い王だったと書物で読んだことがある。そんな王を追い出したのだ。恨んでいる人間は大勢いるはずなのだ。


「王族に生き残りはいないのか?」

「男子は全員死んだと聞いているよ。ただ娘だけは生き延びて、今も逃げているらしいよ」

「居場所は分からないのか?」

「俺が知っているはずないだろ。そもそもどうして新庄君は娘の居場所を知りたいのさ」

「その娘を蛇島討伐の旗頭にしたいのさ」


 王族を味方に付けることができれば、戦争の正当性を主張することができる。そうなれば多くの兵士を味方につけることができるだけでなく、蛇島の味方からも離反者を生むことができ、戦力を削ることも可能だ。


「新城君の考えは分かったけど、どうやって娘を探すのさ」

「金の力を使う」

「金? 人を使って探すのかい?」

「いいや。商業都市レリックに行く。あの街なら情報すらも金で買うことができる」


 商業都市レリックとは現代のデンマークとドイツの国境付近に存在した街で、ヨーロッパではロンドンの次に発展していた大都市だ。


 レリックはバルド海に面しているおかげで、海運の要所となっており、さまざまな人やモノが集まってきた。人やモノが集まると、自然に情報も集まってくる。金で情報を売る情報屋も存在すると聞いたことがあった。


「さらにレリックで金を稼げるだけ稼ぎ、武器を手に入れ、傭兵を雇う。少しでも蛇島との戦力差を埋めるためにな」

「なるほどね」


 赤石はウンウンと頷き、食卓に並べられたパンにかぶりついた。俺も手元のスープを飲んでみる。ローズの料理の腕がいいのか、素材の割に味は良かった。


「旦那様、レリックに行くに当たって、一つ懸念があります」

「なんだ?」

「ロイホ村の守りです。正直ロイホ村は旦那様がいるからまとまっています。もしデンマーク王が兵を送り込んできたとき、旦那様がいないと、村を滅ぼされるかもしれません」

「その点については俺も考えていた。そして守りを強化する方法も考えてある」

「さすがは旦那様、妙案をお持ちなのですね」

「まぁ、見てろ。この村を難攻不落の城に変えてやる」

「城ですか……」


 アルトリアが首を傾げるのを横目に、俺は不敵に笑う。蛇島は知るだろう。コーラの本当の恐ろしさを。

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