第8話 怒らないって、神!
同年代の女子と一つ屋根の下でドキドキ湯上がりハプニング!……はなかった翌日。
クローゼットから寝袋を引っ張り出して台所で寝た僕は、起きてそのまま朝食を作り始めた。
サクラがいるし日課のジョギングはお預けだ。
さすがに某猫型ロボットみたいに押入れ(ここではクローゼットだけど)で寝ると言う選択肢はなかった。寝るには狭いしね。
無論、一緒に六畳一間で眠る度胸も。
今日は月曜日だから僕には学校がある。
朝も昼も夜もやっぱりシンプルな食事だけど、サクラは文句の一つも言わない。
これが三日と続いたらいくら彼女でもステーキの一枚や二枚出してと訴えるかもしれない。安い細切れ肉でカレーならできるけど、それ以上はなあ……。
バイトだって高校生だと時給も安いし、贅沢は禁物だった。
僕の貯金は主に家賃と緊急事態用に使うと決めているから、食費はバイト代から出している。
やっぱり豪勢な食事はできない。
「おはようサクラ、起きた? 朝食できたんだけ――」
台所との引き戸を開けた僕はそのまま固まった。
その先は、楽園だった。
楽園が、僕の目を
うっ、感じた事のないこの神々しい光は……!?
――何を隠そうこれが女子の生着替えの威力だあっ!!
そう脳内で煩悩の僕が答えを出した。
そうか、これが世に言うラッキースケベ!?
サクラの白肌が僕の目を貫いている。
昨日のお祈りシーンとは全然別物の輝きだった。
って言うかあれは何だったんだろう?
まさか部屋の明かりに浮かび上がったハウスダストだったんだろうか。
……掃除機かけないと。
「あ、あの?」
絶句していたサクラが先に我に返って探るようにした。
上だけが下着姿だったのをきちんと服で隠しながら。
「ごごごごごごめむっ!!」
無様に噛みつつ僕もハッとして回れ右。
バッチリ網膜に焼き付いた今となってはもう遅いけれど。
「み、見といて何だけど、こう言う事があるからやっぱり男の部屋に泊まり込むってのは止めた方がい――」
「いいえ! 諸々を覚悟していますから平気です! それに私を見捨てなかったあなたになら、全てを捧げても構いません! おあ、我が神!」
「いやいやいやっ飛躍し過ぎだから! それに何が神だよ。見捨てなかったって言うけど、約束通り三日で見捨てるっていうか出てってもらうから、三日で!」
「それでもあなたは大恩人です!! 行き倒れる所だったのを今こうして生きているのはあなたのおかげなのです!」
[いやいやいやいや、僕以外にも面倒見てくれる人は絶対いたよ。たまたま、こればかりは巡り合わせだって。警察が嫌なら教会辺り訪ねて相談してみたら? ここよりもっといい方法が見つかるかもよ? 君クリスチャンだよね?]
「――――教会は、駄目です。行けません」
「そうなの?」
「そうです。そもそも教会が一番足が付く可能性が高いのです」
「……」
一体彼女は何から逃げてるんだろう?
僕は色々と問い質したい衝動に駆られたけれど、無粋な詮索はしないと決めているので頭を振って思考を切り替える。
それに故意じゃないとは言え普通ならビンタや張り手ものの僕を責める様子もないって、この子はどれだけいい子なんだよ! サクラこそ女神じゃないの?
「あ、朝ごはんできたから……と思ったんだけど、全部着替えたら呼んで。あとホントごめん!」
「もう大丈夫ですよ。話しているうちに着替えちゃいましたから」
「えっ早っ」
言葉通り着替えを終えていたようですぐ後ろにサクラが寄って来て、背後から覗き込むようにして僕の顔を見上げて来た。
普通に並んでも僕の肩を少し超すくらいまでしかないから、そうするともっと頭が下方に位置する。
……美少女の上目遣いって何でこんなにくるんだろう。
大半の世の男たちの例に漏れずドキリとしてちょっと赤らみつつ、僕は朝食の配膳に取りかかるのだった。
炊飯器を気に入った彼女にごはんやみそ汁を分けてもらう間に、僕は僕で手早くラップでおにぎりを握って、卵焼きとかの簡単なおかずを弁当箱に詰めて弁当を完成させる。
狭いローテーブルに二人で向かい合うと、彼女はやっぱり感激の眼差しで僕を見つめ食前食後のお祈りをした。
「じゃあ僕は学校だから、留守番よろしくね」
「はい」
当然と言えば当然の措置だ。
学校に連れて行くわけにはいかないし、僕も休むつもりはない。成績に繋がる小テストがある。
「誰か来ても居留守使うんだよ?」
「ええ。わかってます」
僕が念を押すと、サクラは「本当に大丈夫ですよ」とくすりと微笑んだ。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「え? あ、うん……行って来ます」
にこにことして玄関で見送ってくれるサクラ。
何か照れたよ。
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