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 ――チャポン……


「ふぅ……」


 目を閉じて湯船の中で息を吐く。


 今日は、8月30日(木)だ――。


 あれから僕は、レイコ、イリーナ、カオリ、サユリ、ミナ、アズサ、サクラコ、ユリ、ショウコ、スミレ、アザミ、マドカ、イズミ、アヤメとまぐわった。

 その後、彼女たちと代わる代わるマットプレイをした。人数が少なかったため、意外と早く終わり時間が余ってしまったからだ。

 そのまま、朝まで寝てしまおうか迷ったが、久しぶりに懐かしい顔ぶれが集まったことだし、寝てしまうのは勿体ないと思ったのだ。


 レイコたちとマットプレイをするのは久しぶりだが、以前のマットプレイとは全くの別物と感じた。

 何故なら僕のマットプレイに対する認識が大きく変わってしまったからだろう。


 きっかけは、カチューシャの言葉だった。

 マットプレイは、使い魔たちが僕と肌を合わせるスキンシップやマッサージの類だと思っていたのだが、現実には使い魔たちが僕の体を使って性欲を発散しているということを知ってしまったのだ。

 使い魔たちが裸体を僕の体に擦りつけてオナニーしていると知ったら、とても平静では居られない。


 僕は、フェリアに貞操を護ってもらってはいたが、いつものように【戦闘モード】を起動して平静さを保つことはせずに欲望に身を任せた。

 後で聞いたところ、この変化は使い魔たちに大好評だったが、僕は、このままでは駄目人間になりそうだと自己嫌悪に陥った。

 元の世界の基準で考えると、現時点でも既に駄目人間だろう。成り行きとはいえ、多くの女性たちを侍らせているのだ。

 ドライアードやニンフたちのような存在だけなら、まだ言い訳することもできたかもしれないが、ここに居る15名は人間だ。

 彼女たちは、刻印を刻んだ刻印体なので、今でも人間と言えるのかどうか分からないが、それでも元は人間だったのだ。フェリアは、ハーフエルフで僕が出会うずっと以前から刻印体だったようだし、レイコのパーティメンバーも既に刻印体の冒険者だったが、少なくとも元村人たちは僕の目の前で【エルフの刻印】が刻まれたので、普通の人間だったのは間違いない。


「……んっ……ぬしさまぁ……こんな……放置されると……ゾクゾクいたします……」

「こ、これ……この感覚でござる……はぁ……あるじどのぉ……」


 僕は、レイコとイリーナの言葉を聞いて目を開ける――。


 僕の正面にはアザミが立っていた。

 片手を腰に当てて、モデルのようなポーズを取っている。

 視線を上げると彼女と目が合った。


「ああんっ、ご主人さまぁ……」


 アザミは、両手を頭の後ろで組んで、足を開いて少し身体を仰け反らせた。

 僕は、彼女の裸体から目を逸らす。


「そんなぁ……見てくださいよ……」

「隠してよ……」

「今さらですよ……あんなに……ハァハァハァハァハァ……」

「…………」


 この『キャンプルーム』の浴場で使い魔たちとマットプレイをしていたら、午前6時になったので、僕は洗い場から湯船の中央付近に移動して、湯船に腰を下ろして目を閉じてお湯を堪能していた。

 使い魔たちが僕の周りを取り囲む気配を感じたが、いつものように座るようには命じなかった。放っておいたらどうするか試してみようと思ったのだ。

 それから、10分以上経過したが、使い魔たちは湯船に腰を下ろさずに立ったままで待機している。


 フェリアは、いつものように僕のすぐ後ろではなく、少し離れた位置で待機しているようだ。

 レイコたちに遠慮しているのかもしれない。


「レイコ、どうして座らないの?」

「主様のお許しがあるまで座ることなどできませぬ」

「別に座るくらい許可は要らないと思うけど……」

「主様、別に我々は座らずとも苦痛ではございませぬ。むしろ、この状態のほうが……はぁあっ……」

「そうでござる……ハァハァハァハァハァ……」


 二人の様子を見るとそれぞれが同じように両手を頭の後ろで組んで、身体を少し仰け反らせて震えていた。


「ご主人様、ありがとうございます」


 背後というよりも頭の上あたりからサクラコの声が聞こえた。

 僕は、体を後ろに仰け反らせて上を見る。


「あんっ!」


 後頭部がサクラコの身体に当たった。

 両肩にも彼女の脚が当たる感触がある。


 彼女は僕のすぐ後ろに立っていたようだ。


「……座って」


 ――ザバーッ!


 使い魔たちが湯船の中で一斉に腰を下ろした。


 ――ムニュ……


 後ろからサクラコに抱き寄せられた。

 背中に二つの大きな柔らかい塊を押しつけられ、僕はドギマギしてしまう。


「ご主人様……本当にありがとうございました」

「礼を言う必要はないよ……僕も……その……気持ち良かったし……」

「そのことだけではございませんわ」

「…………?」


 僕がサクラコの言葉の意味を理解しかねていると、彼女は言葉を続けた。


わたしたちは、ご主人様に命を助けられ、刻印と生きる希望まで頂きました。この御恩は返し切れるものではございません」

「気にしないで……僕にもメリットがあるわけだし……」

「とても釣り合いませんわ」


 ――ザバッ……


「そうです、ご主人様。あたしたちをもっと滅茶苦茶にして、ご主人様の欲望を満たしてくださいよ」


 正面からアザミが抱き着いてくる。


「わっ……ちょっと……」

「何を慌てておられるのだ……」


 左側からレイコがそう言って僕の腕を取ってピッタリと身体を寄せた。


「拙者も……失礼いたす……」


 それを見たイリーナが右側からレイコと同じように身体を寄せて来る。


「あっ、ずるいですわ」

「お姉さんもまぜて!」

「あたしも……」

「お母さん、私も……」

「「ご主人様……」」


 僕は周囲からにじり寄ってくる使い魔たちにぎゅうぎゅうと押される。


「落ち着いて!」

「「――――!?」」


 僕が少し大きな声で注意したら、使い魔たちはピタリと動きを止めた。

 今の言葉を命令と感じたのかもしれない。


 僕は、左を向いてレイコを見る。

 彼女もこちらを見ていたが、左腕に抱き着いているため真正面から顔を合わせた状態ではない。

 しかし、距離は息が掛かりそうなほど近かった。


「レイコ、その……満足できた……? 僕なんかが相手じゃ無理かな……?」


 日頃、娼婦の仕事で女性経験が豊富な男性を相手にしているレイコたちから見れば、僕との行為など児戯に等しかったのではないだろうか。


「何を言っておられるのだ。主様とのまぐわいは最高でしたぞ」

「でも、僕には女性経験がないし……最後までシてないのに……」

「そのようなことは関係ありませぬ。他の男から受ける愛撫と主様から受ける愛撫では全く違います。その上、あの精の味……」


 レイコがトロンとした表情をする。

 普段はキリッとしているため、そのギャップが凄く色っぽい。


「そうでござる。それがし、恥ずかしながら、これまで一番美味しいと感じた精は、オークの大型種のものでござった……」

「くっ……認めたくないがな……」


 レイコが悔しそうに同意した。

 おそらく、オークの大型種は、普通の冒険者よりもレベルが高いためだろう。

 つまり、オークはモンスターだが、外見以外は刻印体の人間とそう変わらないということだ。

 ドライアードやニンフ、雪女も刻印体の女性とあまり変わらないのでおかしくはない。


「ですが、主殿の精は、そんな忌まわしい記憶を吹き飛ばしてくれたでござるよ。早く他のところにも注いで欲しいでござる」

「イリーナ、それを決めるのは主様だ。我々は、奴隷なのだからな」

「奴隷じゃなくて使い魔ね」


 もう、このセリフを言うのは何度目だろうと思いつつ訂正する。


「ハッ! 奴隷使い魔です」

「…………」


 僕が沈黙すると正面から抱き着いているアザミが両手で僕の頭を挟んで、ゆっくりと正面へ向けた。


「ご主人様、あたしの相手もしてくださいよぉ」

「えっと……どう? 『エドの街』の生活には慣れた?」

「あまり外には出ませんから、『エドの街』に慣れたということはありませんね」

「休みの日には、何してるの?」

「館の地下や自分の部屋でご主人様のことを考えてます」

「え? 何で?」

「ご主人様のことを考えながら慰めてるんです……もう、言わせないでくださいよぉ……ご主人様のことを考えながらするとぉ……何度でもイケちゃうからぁ……」


 アザミは、うっとりとした表情でそう言った後に思い出したように続ける。


「マドカたちと一緒にすることもありますよ」

「たち……?」


 アザミがマドカと仲が良いのは知っていたが、他には誰と仲が良いのだろうと聞いてみる。


「カオリさんやミナやトモエさんです。同じ班ですから」

「ぽっ……」

「ちょっと、何言ってるのよアザミさん!?」


 この場に居るカオリとミナが反応した。

 そう言えば、彼女たちは僕が最初に同じグループにしたメンバーだ。

 当時に比べると娼婦の数が何倍にも増えているので、最初に僕が決めたグループは再編されていてもおかしくはないのだが、今でも同じグループなのだろうか。


「今も同じグループなの?」

「ええ、そうです。ただ、人数は増えましたよ。アカリ、ナオコ、リノ、アミの4人が加わって、今では8人です」

「その人たちとは、一緒に過ごさないの?」

「そうですね。一緒に居るときもありますが、あたしたちはご主人様の奴隷にしていただいたのが早かったので、館では古株です……」


 アザミは、『夢魔の館』を『館』と呼ぶ。娼婦の間では、省略してそう呼ぶ者が多いのかもしれない。


「あのたちは、あたしたちといつも一緒だと肩が凝るでしょうから」


 つまり、アザミたちは『夢魔の館』では幹部的な扱いということだろうか。


『偉い人と一緒に居るのは緊張するということかな?』


 高校生の僕には、今一つピンと来ない感覚だが、何となく理解できた。


「『エドの街』にある色んな店にも行ったりしないの?」

「はい。たまにユミコさんのお店に行くくらいです」

「遠慮する必要はないよ?」

「ありがとうございます。ご主人様は、いい人ですね。それに可愛い……」


 僕は、アザミに抱きしめられる。

 今日は、いつものように体育座りではなく、胡座をかいた状態で湯船につかっていたので、かなりマズい体勢だ。


「あんっ、ご主人様のモノが……」

「ご、ごめん……」

「ふふっ、どうして謝る必要があるのですか……良かったらお慰めしますよ?」

「いや、もう時間がないから……」

「主様、よろしいではございませんか」

「そうでござるよ」

「そうですわ。ご主人様」

「でも……」


 ――ザバッ!


 レイコとイリーナが頷き合った後、僕の腕を抱えて湯船の中で立ち上がった。

 僕も一緒に無理矢理立たされてしまう。


「わっ……フェリア!」


 フェリアに助けを求める。


 ――ザバッ!


 少し離れた位置でフェリアが湯船から立ち上がる音が聞こえた。


 ――ザバーッ!


 他の使い魔たちも一斉に立ち上がった。


「ご主人様。わたくしが貞操をお護りいたしますから、彼女たちの求めに応えてあげてください。7時前になったらお知らせします」


 フェリアがそう言った。

 使い魔寄りの発言だ。


「分かったよ……」


 僕は、諦めて使い魔たちに身を任せた――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガチャ


 朝の7時過ぎに僕は一人で『キャンプルーム』から『ロッジ』へと戻った。

 レイコたちは、『密談部屋5』を通じて『夢魔の館』へ帰して、フェリアも全身鎧に換装してから帰還させた。


「お帰りなさいませ。主殿」

「あっ、ユーイチ。お帰りなさい」

「お帰りなさい、ユーイチ」

「ユーイチくん、お帰りなさいですわ」

「おっ、やっと帰ってきたな」

「ユーイチ、おはよう」

「おはよう、ユーイチ」

「お帰りなさいませ。ご主人様」

「ご主人様、おはよ」

「おはようございます。ご主人様」


『ロッジ』の中には、クリスティーナのパーティメンバーとレヴィアたち使い魔しか居なかった。

 クリスティーナのパーティメンバーは、寝間着姿だ。カーラだけは下着姿だが。


「マリエルさんたちは?」

「まだ、ヤってるよ」

わたくしたちは、時間になったからここへ来たのよ」


 どうやら、マリエルのパーティメンバーとアンジェラのパーティメンバーたちは、女性同士でマットプレイにいそしんでいるらしい。


「ユーイチくん、女同士では満足できませんでしたわ。何でもいたしますから、あたくしを満足させてくださいな……」

「じゃあ、【戦闘モード】を起動して」

「あーん、ユーイチくんのイケズ!」


 僕は、寝間着姿で身体をくねらせるグレースを無視して、他のパーティメンバーに話し掛ける。


「今日中に『ローマの街』へ戻りましょう」

「そうね。もう木曜だもの」

「結局、週末まで掛かっちまったな」

「急がないと休日を返上することになるわよ」

「だが、慌ててミスをすることは避けねばならない」

「レリアの言う通りですわ」


 僕は、クリスティーナに質問してみる。


「クリス、ここから『ローマの街』までは、どれくらい掛かると思う?」

「そうね……夕方までには着くと思うわ」

「森の中を抜けるのに?」

「ええ、このパーティならゴブリン程度は障害にもならないでしょ?」

「でも、森には道が無いんだよね?」

「草むらだから少し歩きにくいかもしれないけれど、問題はないわ」


 刻印体の体力や冒険者の装備なら余裕で踏破できると言っているようだ。

 確かに彼女の言う通りかもしれない。

 軽装戦士なら、木から木へ飛んで行くこともできそうだ。

 魔力系の魔術が使える者は、森の上を飛行して移動することができるが、このパーティでそれができるのは、僕とカチューシャとアリシアの3人だけだ。


「じゃあ、食事をして出よう」


 僕は、そう言って『ロッジ』に居る女性たちに朝食を配った――。


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