10―25

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 右斜め前方で向こう向きに座ったレリアがボディスーツの前をずり下げている。

 こちらからは見えないが、乳房を出したのだろう。

 レリアの前に移動したレティシアが跪いた。


「くっ……」


 レリアが呻くような声を小さく上げた。

 そして、こちらを振り返った。


「ユ、ユーイチ! こっちを見るな!?」

「ご、ごめんなさい……」


 僕は、慌てて俯いた。

 クリスティーナが口を挟む。


「いいじゃないの。ユーイチが言っていたように授乳は神聖な行為でしょ」

「しかし、女同士でこんなこと……恥ずかしいだろう……」

「はぁ……美味しいですわ……」


 レティシアが母乳の味の感想を言った。


「強い女性ほど母乳の味は、美味しいですよ」

「ユーイチは、どうしてそんなことを知ってるのかしら?」


 クリスティーナが僕をジト目で見た。


「え……? いや、それは……」


 僕は、すっかり冷めたコーヒーを飲んで誤魔化した。


「ユーイチ、レリアの母乳を飲んで、あなたが今まで飲んできた母乳と比較してみたら?」

「な、何を馬鹿なことを言っているのだ!?」

「ふふっ、冗談よ」

「ユーイチ、これはいつまで続ける必要があるのだ?」

「数時間程度では効果がないと思いますよ」

「な、なんだと……!?」


 レティシアは、夢中で吸い付いているようだ。

 僕がそうだったから気持ちは分かる。


『この世界に来たばかりの頃、フェリアの乳房に夢中で吸い付いてたんだよな……』


 そのときのことを回想して、顔が熱くなった。


「そんなに美味しいのかしら……?」

「クリス、こっちが空いてるわよ。一緒に飲みましょ」

「オ、オイ!? 何を言っているのだ!」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「私は了承していないぞ!」

「一人も二人も同じでしょ」

「し、しかしだな……」


 クリスティーナが僕の隣の席から立ち上がって、レリアの前に移動した。

 跪いて顔をレリアの胸に近づける。


「んっ……。あぁ……両方の乳房から母乳を吸われるとは……」

「聞いた話では、気持ちいいらしいですね」

「き、貴様!? 何を言っているのだ!」

「え? 子供に授乳するような幸せな気分になると聞いたのですが……?」

「ち、違う……これは、そんなものではない……恥ずかしくてもどかしいだけだ……」


 人によって感じ方が違うのだろうか?

 授乳する相手との関係にもよるのかもしれない。


「じゃあ、僕は寝ますね」

「待て!? 私は、一晩中このままなのか?」

「僕なんて半月くらいの間、大半の時間をそうやって授乳されましたよ」

「そんな……」


 テーブルに突っ伏して腕を枕にして目を閉じる。


『【06:00】まで睡眠』


 僕は、眠りに落ちた――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 眠った瞬間に目が覚めた。


 ――今日は、7月11日(日)だ。


 顔を上げて視線を右のほうに移すとクリスティーナとレティシアに授乳しているレリアが見えた。

 一晩中、母乳を吸われていたようだ。


「おはよう」

「んっ……起きたか……」

「おはよう、ユーイチ」

「おはようございますわ」

「レティシアさん、どうですか? 魔法は使えるようになりましたか?」

「いえ……。まだ駄目なようですわ。わたくしのことはレティとお呼びください」

「分かりました。レティ。そう簡単に魔法が使えるようにはならないと思います」

「はい、毎日続けますね」

「オ、オイ……。本気なのか……?」

「レリア、わたくしが魔法を使えるようになるまで、お願いしますわ」

「仕方がないな……。どれか一つの系統が使えるようになるまでだぞ」


 クリスティーナが質問してきた。


「ねぇ、ユーイチ? わたくしにも他の系統の魔術が使えるようになる可能性があるのかしら?」

「それは、素質次第ですね。原理的には、時間を掛ければ全ての系統の魔術を使えるようになると思いますが……」

「全ての系統の魔術を使えるようになることは、あり得ないだろう」

「いえ、そうでもないですよ。確かに刻印を刻んだ段階では、回復系と魔力系の魔術が同時に使える人は居ないと思いますが、凄く強い冒険者の母乳を吸い続けていれば、全ての系統の魔術が使えるようになる可能性はあります」

「まさか……そのようなことが……?」


 僕の言葉に受けた衝撃から立ち直ったレリアがクリスティーナとレティシアに言う。


「ユーイチも起きたことだし、そろそろ解放してくれ」

「まだ、時間はありますわ」

「カーラとグレースが戻ってくるまでいいでしょ」

「くっ……仕方がない……」


 クリスティーナとレティシアがまた、レリアの胸に顔を埋めたようだ。


『僕は、何をして過ごそうかな……?』


 もう一度寝るというのもいいが、その間にカーラが戻ってきたら悪戯されてしまうかもしれない。

 流石に貞操を奪われるまで起きないということはないと思うが、どれくらいの刺激で目を覚ますか分からないのだ。

 睡眠状態は、攻撃や起こそうとする行為以外では、簡単に起きないような気がする。


『本でも読むか?』


 そう言えば、忙しくてあまり本を読む機会が無かった。

 そんな気分にならなかったということもあるが。


【商取引】→『アイテム購入』→『書籍』


 僕は、目を閉じて【商取引】のスキルを起動する。

 書籍の購入まで進めると『キーワードで絞り込んでください』というメッセージが表示された。


『ゾンビに関する書籍でも検索してみようかな……』


「ゾンビ」をキーワードに検索してみた。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・ゾンビ襲来!【書籍】・・・・・・・・・・・・・・・1.35ゴールド [購入する]

 ・ゾンビの発生【書籍】・・・・・・・・・・・・・・・1.55ゴールド [購入する]

 ・ゾンビの倒し方、知らないでしょ?【書籍】・・・・・1.29ゴールド [購入する]


―――――――――――――――――――――――――――――


 すると、タイトルに「ゾンビ」の文字が入った3冊の書籍がヒットした。

 とりあえず、全部買っておくことにする。

 そして、『アイテムストレージ』から、一番興味深いタイトルの『ゾンビの発生』を実体化した。


 僕は、目を開けて書籍『ゾンビの発生』を読み始めた――。


 ◇ ◇ ◇


 ――ガガッ、ゴゴゴゴゴゴゴ……


 背後で石が擦れるような音が聞こえた。

 振り返ると頭の上に【ライト】を載せたカーラとグレースが入り口の扉を開いて中に入ってくるところだった。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……


 扉が自動的に閉じる。


「ただいまー、って真っ暗じゃねーか。まだ、寝てやがるのか?」

「ただいまですわ」

「おかえりなさい」

「おお、ユーイチ。何やってんだ?」

「本を読んでました」

「こんな真っ暗な部屋でか?」


 僕は、【ナイトサイト】の魔術を使っているので、この部屋の中が暗いとは感じていなかった。

 クリスティーナは、明かりを設置していなかったようだ。

【ライト】の効果時間は、2時間程度なので、就寝時間に設置する必要はない。


「ああ、【ナイトサイト】という魔術を使っていますので、暗闇でも見えるんですよ」

「魔術師は、便利だねぇ……。で、おまえら女同士で何やってるんだ?」

「ご、誤解するな!? これには訳があるのだ!」

「そうですわ。こうやって強い女性冒険者の母乳を飲んでいると魔法が使えるようになるのです」

「そんな話は聞いたことがねーぞ?」

「ユーイチがそう言っていたのよ」

「おまえら、ユーイチにかつがれたんじゃねーの?」

「いえ、本当の話ですよ」

「ホントかよ! じゃあ、オレも魔法が使えるようになるってことか?」

「そんなに簡単には無理だと思いますが、根気よくレリアさんの母乳を飲めばいつかは……」

「レリアの母乳じゃないと駄目なのか?」

「強い女性冒険者なら誰でもいいのですが、このパーティの中ではレリアさんがダントツにレベルが高いので」


 このパーティの中だと、カーラが魔法が使えるようになるのが一番戦力アップではないだろうか?

 彼女は、軽装戦士でロングスピアを武器にアタッカーの役割を担当しているようだ。

 もし、精霊系の魔術が使えれば、【ストレングス】で攻撃力を上げることもできるし、魔法で攻撃することもできる。

 回復系なら、3人目のヒーラーとして活躍できるだろう。

 魔力系だと、【マジックアロー】で攻撃したり、【スリープ】で支援することができるが、ある程度レベルが高くならないと有効ではないかもしれない。【スリープ】は、レベル差がないと効きにくいからだ。

 カーラは、軽装戦士なので、装備との相性は精霊系の魔術が良いと思われる。


「カーラさん、【魔術刻印】をしますので、こちらに来てください」

「おお……。オレのことはカーラと呼び捨ててくれていいぜ」

「分かりました」


 カーラの外見は、僕よりも5歳くらい年上に見えるが、海外では年上にも呼び捨てということが多いようだ。そんな感じで敬称に違和感があるのかもしれない。

 僕がテーブルに背を向けて座り直すとカーラが目の前に立った。

 カーラは、露出が多い装備なので、脱がなくても刻印することができそうだ。


 改めてカーラの装備を確認してみる。

 彼女は、ペリーヌが装備していたものに似たハイレグ水着のようなデザインのソフトレザーアーマーを装備していて、更にハードレザー製とおぼしき胸当ても装備している。スカートのようなものを身に着けていないので、太ももは丸見えだ。昨日の昼間に見たお尻の部分は、Tバックのように食い込んでいた。

 足には、膝下までの革製のブーツを履いていて、膝の部分には、革のサポーターのようなものを装備している。

 戦闘中は、革製の籠手を装備していたようだが、現在は装備していない。


【刻印付与】


 まずは、本命の【ライター】と【ウォーター】を刻むことにする。


 ――何処に刻もう?


 今は、篭手を身に着けていないので、指先から肩の近くまでは地肌が露出している。

 カーラは、キャラ的に日焼けした小麦色の肌をしていそうなイメージだが、実際には刻印を刻んだ女性らしい白く綺麗な肌をしている。

 身体つきもクリスティーナやレティシアよりも華奢で女性らしい。


【ライター】と【ウォーター】を左右の手の甲に刻んだ。

 ついでに【ヒール】を右手首に刻む。


「何だかテレるな……」

「…………?」


 そして、最後に左右の二の腕付近に【マジックアロー】と【フレイムアロー】を刻んだ。


「はい、終了です」

「ありがとよ。お礼にスッキリさせてやろうか?」

「結構です」

「何だよ。つまんない奴だな」


 何処まで本気で言っているのか分からないが、カーラは貞操観念が低いこの世界の女性の中でも特に奔放なタイプに見える。

 刻印を刻むと妊娠や病気などのリスクが無くなるということもあるだろうが、普通の人間だった頃の感情に引っ張られるので、そうそう奔放に行動することはできないはずだ。

 つまり、元々、こういう性格だったのだろう。


 僕は、立ち上がって、普通の向きにテーブルに座り直した。


「オイ!? 怒ったのかよ?」


 そう言って、カーラは僕の背後から抱き着いてきた。

 カーラは、汗の匂いがした。

 刻印を刻んだ人間の身体は、基本的に汗をかかないが、異性と肌を合わせたりしていると汗ばんでくるのだ。つまり、カーラは、汗をかくようなことをしてきたのだろう……。


「呆れているだけです」

「ふふっ、何だよ。可愛い反応するじゃねーか……」


 むにゅっとした感触が後頭部に当たった。

 カーラは、革の胸当てを装備していたはずなので、胸の柔らかさを感じることはできないはずだ。


「ちょっと、カーラ。何をやっていますの!」


 レティシアがカーラに注意した。


「んだよ。別にいいじゃねーか」

「よくありません。殿方もおられるのに何を裸になっているのです!?」

「お前らだって似たような格好じゃん」

わたくしは、ちゃんと着ておりますわ」

「それ、下着だろ」


 見るとレティシアは、スリップというのだろうか? 薄いブルーのネグリジェのようなものを身に着けていた。

 クリスティーナが着ているものに比べると裾が長く、膝上まで丈があるようだ。

 そのため、下着は見えないが、そもそも彼女は下着を身に着けていない可能性が高い。


「ユーイチ、こちらを見てはいけませんわ!」

「ご、ごめんなさい……」


 僕は、慌てて下を向いた。


「女の裸が見たいならオレが見せてやるぜ……?」


 耳元でカーラが囁いた。


「結構です」

「ちぇっ、冗談の通じない奴」


 そう言ってカーラが僕の体から離れた。

 左側から僕の対面の席へ移動する。

 いつもの革装備だったのでホッとする。


 時刻を確認すると、朝の8時半くらいだった。

 確か9時にここを出る予定のはずだ。

 2時間くらい本を読んで過ごしたことになる。


『ゾンビの発生』は、なかなか興味深い内容だった。

 ゾンビが発生する原因は、ヴァンパイアにあると書かれていた。

 ヴァンパイアには、普通の人間に噛みついてヴァンパイア・サーバントという従僕に変えてしまう能力があるようだ。

 おそらく、ゾンビのように犬歯から刻印を刻む魔法のポーションのような液体を注射して、人間を従僕に変えてしまうということだろう。

 そして、そのヴァンパイア・サーバントが人間に噛みつくと、噛まれた人間はゾンビになるらしい。また、ゾンビが噛みついた人間もゾンビとなる。

 ヴァンパイア・サーバントがどのような存在なのか分からないが、もしかすると、ゾンビと違って知性を持ち合わせているかもしれない。その場合、生前の記憶が残っている可能性もある。


 この本の内容が真実なら、この世界の何処かにヴァンパイアが居るということだ。

 ヴァンパイアと言えば、ゲームなどでは最上級モンスターのひとつとされている。

 何処に住んでいるのかは分からないが、出会ったら注意が必要だろう。


 クリスティーナとレティシアが装備を纏って、長椅子の僕の隣に並んで座った。


「さぁ、朝ご飯を食べてから闘技場コロシアムへ行きましょう。ユーイチ、頼めるかしら?」

「ええ」


『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』


 僕は、それぞれの席に【料理】スキルで『サンドイッチセット』を出した――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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