10―16

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 あれから、僕は『夢魔の館』に来ていた娼婦希望者や『エドの街』と『ウラジオストクの街』の教団関係者など、合計48人の女性から授乳された。

 その後、女性たちは、それぞれ使い魔となった。


 また、トロールが復活する時間には、フェリアたちにトロール討伐へ行って貰った。

 ここのところ、パペットを2体作成したりして出費が嵩んでいたものの、ホムンクルスを2体作って1000万ゴールドを切ったときに比べれば、所持金は順調に増えている。

 現在の所持金は、4000万ゴールド弱だ。


 それから、ドライアードたちに『ローマの街』の上空を飛行してもらい『マップの指輪』に記録しておいた。同時に『組合』などの主要施設には、注釈を入れておく。


『疲れた……』


 肉体的な疲労を感じているわけではないが、気疲れした気分だ。

 何人もの初対面の女性たちに囲まれていたため、緊張してしまったのだと思う。

 千人を超える女性を使い魔にしているというのに、いつまで経っても女性に慣れることができない。

 女性経験が無いことも原因かもしれないが、基本的に僕はそういう性分なのではないだろうか。

 あれだけ長い間、一緒に過ごしたフェリアに対しても緊張することがあるのだ。


「ご主人さまぁ……」


 僕が湯船の中で黄昏れていると、リリアが抱きついてきた。

 彼女は、無事に『紅梅亭』に送り届けられ、現在は『夢魔の館』で働いているとのことだった。

 彼女も含め、既に使い魔となっている『夢魔の館』に住む者たちからも授乳させてくれとせがまれて母乳を吸っていた。


「リリア、そろそろ離して」

「そんなぁ……。どうして、ご主人様は、あたしを抱いてくださらないのですか?」

「それは、リリアだけじゃないよ」


 僕たちの会話を聞いていた、レイコとイリーナが会話に参加する。


主様ぬしさま、そろそろ我々を主様のものにしてくだされ……」

「そうです。主殿、それがしは、もう我慢ができないのでござる」

「どうして?」

「ふっ……んんっ……ハァハァハァ……主様は、これだから……」

「その冷たい返しが興奮するでござるよ……ハァハァハァハァ……」


 二人が興奮して荒い息を吐いている。


『意味が分からない……』


「何が問題なのか教えて欲しいんだけど?」

「我々は、主様のご命令で男に身体を売っております」

「…………」


 僕の命令というのは、ちょっと突っ込みたい部分ではあったが、話の腰を折るのも気が引けるので、先を促した。


「それについては、不満はありませんが、何度も同じ男に抱かれていると、主様に書き換えて欲しいと願うようになるのです」

「書き換えるって記憶を?」

「この身体を主様のものにして欲しいのだ」

「その通りでござるよ」

「……ごめん。もう少し待ってくれる? まだ、その時期じゃないと思ってるんだ……」

「分かりました……」

「仕方がないでござる……」


 僕は、自分に自信がない。

 強くなったと言っても、フェリアに与えられた力を行使しているに過ぎないのだから……。

 そもそも、僕がこの世界に来てから、まだ半年も経っていないのだ。

 そんな、一朝一夕に自信がつくわけがない。

 まずは、学園で冒険者について学び、経験を積む必要があるだろう。


 今日は、7月9日(水)だ。

 現地時間ではお昼をとっくに過ぎているので、そろそろ『ローマの街』の『組合』に行かなければいけない。


 ――ザバッ!


 ――ザバーッ!


 僕が立ち上がると使い魔たちが一斉に立ち上がった。


 僕は、『ロッジ』に戻るため、湯船を後にした――。


 ◇ ◇ ◇


『装備2』に換装して『ロッジ』に戻った。

 使い魔たちにも『装備』を装着させる。


『ロッジ』


 僕は、『ロッジ』の扉を召喚した。

 すると、僕の体が回復系魔術のエフェクトに包まれる。


「フェリア」

「ハッ!」


 僕が先に出るよう促すと、フェリアが『ロッジ』の扉を開けて外に出た。

 今日は、学園に行く予定はないので、使い魔たちも『組合』に連れて行くことにする。

 時刻は、昼の2時を過ぎていた。

 ここから、『組合』までは、20分くらいかかるだろう。


 僕は、【フライ】を使わず歩いて移動した――。


 ◇ ◇ ◇


『組合』の建物に入り、昨日と同じ窓口へ行く。

 その窓口には、昨日と同じ受付嬢が居た。


「お待ちしておりました」

「すいません、遅くなりました」

「いえ、問題ありませんよ」

「それで、土地は見つかりましたか?」

「はい。学園から歩いて12~3分の距離に土地がございました」

「結構、近いですね。土地の大きさは?」

「幅15メートル、奥行き20メートルですが、如何なさいますか?」

「それで結構です。おいくらですか?」

「一年分の税金を合わせると、303ゴールドになります」


 土地の価格は、思ったよりも安かった。

 土地の大きさは、15×20メートルの300平米なので、平米当たり1ゴールドしか掛かっていない。

 もしかすると、商業エリアから外れた場所なのだろうか?

 しかし、店を大繁盛させる必要はないので、住宅街の中とかでも特に問題はないだろう。


「税金は、10年分を前納したいのですが?」

「畏まりました。では、10年分の税金を合わせますと、330ゴールドになります」

「貴方にお支払いすればいいですか?」

「はい」


『トレード』


 僕は、『トレード』で330ゴールドを受付の女性に渡した。

『エドの街』で土地を購入したときとは違い、受付嬢が刻印を刻んでいるため、直接、受付嬢に『トレード』で渡すことが可能だった。『エドの街』で土地を購入したときは、ユウコに代金を渡したのだ。

 330ゴールド程度とはいえ、実体化させたら、結構な量になってしまっただろう。

 イメージとしては、500円玉を330枚テーブルの上に積んだような感じだ。


 ――土地を見ずに買ってしまったが、大丈夫だろうか?


『夢魔の館』の土地も見る前に料金を支払ったので、この世界ではこのやり方が普通なのだろう。

 土地を見て問題があれば、別の場所に変えてもらうことができるのかもしれない。


「確かに頂戴いたしました」

「では、詳しい場所を教えていただけますか?」

「分かりました。では、そちらでお待ち下さい」

「了解です」


 受付嬢は、奥に引っ込んだ。

 僕は、彼女が来るまで、窓口で待った――。


 ◇ ◇ ◇


「お待たせいたしましたわ」

「はい」


 僕は、振り返った。

 そこに居たのは、先ほどの受付嬢ではなかった。

 10代後半くらいの金髪セミロングの女性だ。

 白っぽいローブを着ているので『女神教』の教団員かもしれない。

 身長は、165センチメートルくらいで細身の体型だ。胸も小ぶりだった。

 この女性も刻印を刻んでいるようだ。若く見えるが、実年齢は不明だ。


「あの……あなたは?」

わたくしは、組合長のソフィアですわ」

「え? 『ローマの街』の組合長の方ですか?」

「ええ。あなたがユーイチ様ですね?」

「はい。そうですが……どうしてそれを……?」

「そっ、それは……」

「もしかして、ベルティーナさんから、お聞きになりましたか?」

「そっ、そうなの!? ベルティーナからの手紙で知ったのですわ」


 何だか慌てているようだ。


 ――ベルティーナさんからの手紙には、何が書いてあったのだろうか?


 組合長自ら挨拶に来るなんて、普通は考えられないと思う。

 何処かの街へ旅行に行ったら、市長が挨拶に来たようなものだ。

 ベルティーナが手紙で僕のことを過剰に評価していたのかもしれない。

 そういえば、彼女は、僕に『ローマの街』に巣食う悪の組織を壊滅させて欲しいようだった。


 ――この『ローマの街』の組合長も僕にそれを期待しているのだろうか?


「僕に何か御用ですか?」

「ええ、ユーイチ様がご購入された土地へご案内いたしますわ」

「組合長自らですか?」

わたくし、ユーイチ様に興味がありますの」

「ベルティーナさんに何か吹き込まれたのですか?」

「えっ? ええ……そうね……」


『ベルティーナさんと何かあるのかなぁ……? 彼女は、ユウコさんとも関係を持っていたみたいだし……』


『ローマの街』の組合長ソフィアは、ベルティーナの話が出る度にキョドっているようだ。

 あまりつついて変なことになっても困るので、僕はスルーすることにした。


「では、案内してもらえますか?」

「はい。こちらへどうぞ」


 僕たちは、ソフィアの後について『ローマの街』の『組合』を出た――。


 ◇ ◇ ◇


 僕が購入した土地までは、『組合』から歩いて1時間くらい掛かった。


「ここですわ」


 ソフィアに案内された場所は、随分と昔に焼け落ちたとおぼしき屋敷跡だった。

 交差点の角という絶好の場所だが、人通りの少ない寂れた通りのため放置されていたのだろう。

 この土地の周囲には、民家が無いようだ。

 昨日の話では、土地はあまり余っていないようなことを言っていたが、この周囲には、空き地が多いように見える。


『もしかして、この辺りは、治安が悪い土地柄なのだろうか?』


 この焼け落ちた屋敷跡も放火されたものなのかもしれない。

 屋敷跡は、崩れた塀で囲われている。

 おそらく、この塀で囲われた範囲が僕の買った土地なのだろう。


「この塀で囲われた敷地全部が僕が買った土地なのですか?」

「その通りですわ」

「この建物は、火事で焼け落ちたように見えますが、何か事件でもあったのですか?」


 ソフィアが俯いた。


「ええ、この家に住んでいた一家は皆殺しにされ、家には火を掛けられたのです……」

「…………」

「しかし、15年も前の話ですわ」

「この辺りは、治安が悪いのですか?」

「この街には、『組合』でも手を出すことができない『組織』がありますの……」


 一呼吸置いてからソフィアは、話を続ける。


「この場所は、『組合』の影響が届くギリギリの場所です。普通の人には、この場所の物件は売りませんわ」

「僕は、ここに店を出すつもりなのですが、それでは客が来ないのでは?」

「それについては、わたくしどもが協力いたします」

「いや、別に大繁盛する必要はないので、そこまでして貰わなくてもいいですよ」

「まあっ、流石ですわね」


『ベルティーナさんは、一体何を吹き込んだんだ……?』


 この土地は、治安が悪い地域に近く、とても普通の人には売れないが、ベルティーナから強大な力を持っていると聞かされていた組合長は、僕たちに抑止力としてここに住んで貰おうという魂胆なのかもしれない。


 それはともかく、この土地をまず更地にしよう。


【レーダー】


 僕は、【レーダー】の魔術を起動して屋敷跡に誰か居ないか確認をした。

 緑の光点が3つあった。


「ルート・ドライアード、屋敷に何か居るみたいなんだけど、見てきてくれる?」

「御意のままに」

「必要なら建物は壊していいよ。でも、【レーダー】に映ってる生物は殺さないで」

「ハッ!」


 ルート・ドライアードが【マニューバ】で飛行して塀を越えて敷地へ入って行った。

 僕が【レーダー】を確認していると、3つの緑の光点は、ルート・ドライアードの気配を感じて逃げ出したようだ。

 左の空き地へ向かって移動している。

 そちらの方を見ると、崩れた塀から3匹の猫が空き地に飛び出して逃げて行った。

 屋敷は、猫たちが住んでいたか、猫たちの散歩コースだったようだ。


 ルート・ドライアードが戻ってきた。


「猫でした」

「うん、見てたよ。悪いことしちゃったかな……」


 結果的に猫たちを追い出してしまったのだ。


【キューボイド・エクスプロージョン】【キューボイド・エクスプロージョン】


 僕は、塀に囲まれた敷地の塀を含む部分に【キューボイド・エクスプロージョン】の魔術を2回連続で発動させた。

 地表に少し埋まるくらいの高さに指定して発動する。

 2つの白く光る直方体が現れて塀や建物を消滅させた。

 光の方から風が吹いてくる。


 ――ガラガラガラ……


【キューボイド・エクスプロージョン】の効果範囲から外れた部分の建物が崩れ落ちた。


「ユーイチ様の開発した魔術ですね。素晴らしいですわ」

「昨日、作ったばかりなんですけどね」


【キューボイド・エクスプロージョン】【キューボイド・エクスプロージョン】


 リキャストタイムが回復していたので、更に2発を撃ち込んだ。

 それにより、15×20メートルの土地は、完全な更地となった。


【フライ】


 僕は、【フライ】を起動して敷地内へ移動した。

 敷地の部分は、少し陥没しているが、真っ平らな地面が見えている。


【キューボイド・エクスプロージョン】


 中央の一番奥に喫茶店を設置するための穴を掘った。

 この魔術は、そのために作ったのだ。

 ちなみに穴の縁は、敷地ギリギリの奥ではなく、50センチメートルほど手前の位置にした。


『プリティ・キャット』


 次にその穴にピッタリと収まるようにメイド喫茶『プリティ・キャット』を『アイテムストレージ』から召喚する。この魔法建築物は、一度出したら『アイテムストレージ』に戻すことはできないので慎重に設置した。


 眼前に【工房】で作成したものと同じ建物が実体化して現れた。


「――――!?」


 それを見たソフィアが目を見開いて息を飲んだ。


「フェリス」

「はいですわ」

「敷地に街道と同じような石畳の床を敷き詰めてくれる?」

「分かりましたわ」

「魔法建築物として設置して」

「ええ、そういたしますわ」

「じゃ、よろしく」


 僕は、メイド喫茶『プリティ・キャット』の入り口の扉を開けて中に入った――。


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