10―17

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 メイド喫茶『プリティ・キャット』の入り口の扉は、『夢魔の館』とは違い外側に開く構造だ。

 180度近く開き、扉が勝手に閉じないようにチェーンで留めることができるようになっている。

 そう言えば、入り口の扉に鍵を付けていなかったが、パペットに門番をさせればいいだろう。


 中に入って周囲を見渡すと店内もイメージ通りに作られていた。

 僕とフェリア、ルート・ドライアードに続いてソフィアが中に入ってきた。


「まぁ、素敵なお店ね」

「喫茶店です。良かったら、お茶を飲んで行かれませんか?」

「ええ、是非」


『ロッジ』


 僕は、店内に『ロッジ』の扉を召喚した。

 扉を開けて、メイド服姿の元村人たちを店内に呼んだ。


「ご主人様?」

「ここは?」


 8人の元村人たちが店内に出た。

 僕は、『ロッジ』の扉を閉めてから帰還させる。


「ここは、皆さんが働く店です」

「「――――!?」」


 僕は、入り口から入って左斜め前にあるテーブルにソフィアを誘った。


「組合長、このテーブルに座ってください」

「分かりましたわ」


 そして、元村人たちにもテーブルの近くへ来るよう指示する。


「アデリーナさん、こちらの組合長をお客様だと思って、『いちごのショートケーキ』と『ダージリンティー』をお出しして」

「畏まりました。ユーイチ様、あたしのことは呼び捨ててください。丁寧な言葉遣いも必要ありませんよ」

「分かった。じゃあ、接客してみて」

「はいっ!」


 アデリーナは、ソフィアの斜め後ろに移動した。

 そして、テーブルの上に『いちごのショートケーキ』と『ダージリンティー』を【料理】スキルで召喚する。


「お客様。ご注文は、こちらの商品となります」

「ありがとうございますわ」

「では、何か御用がおありでしたら、お呼び下さいませ」


 そう言って、アデリーナはソフィアの側から離れた。

 なかなか様になっている。

 店員の経験があるのだろうか?


「アデリーナは、どこかの店で働いたことがあるの?」

「ええ、あたしは村の雑貨屋で働いてました」


 飲食店の経験ではないが、接客に関しては慣れているのだろう。


「おいくらかしら?」

「ああ、今回は結構ですよ」

「しかし、これは【料理】の【基本魔法】で作成したものですから、費用が掛かっておりますわ」

「お気になさらず」

「……分かりました。では、お言葉に甘えさせていただきますわ」


 そう言って、ソフィアは、ケーキを一切れ食べた。


「美味しいですわ」

「ありがとうございます」


『確かに商品の価格を決める必要があるな……』


 僕は、ソフィアの対面に座った。

 そして、目を閉じて【工房】を起動する。


【工房】


 喫茶店にあるようなメニューをイメージする。

 商品の価格は、1割増しに設定した。


『営業時間はどうしよう?』


 8時間だと短い気がする。

 朝7時から夜の7時までの12時間にしようか。

 普通の人間だと12時間も働くのは大変だが、彼女たちは刻印を刻んでいるので体力的には問題ないだろう。

 それに喫茶店だし、立地的に大して繁盛しない可能性も高い。のんびりと働けるなら12時間労働でもいいのではないだろうか。


 メニューに載せた商品は、以下の8点だ。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ◆喫茶


 ・いちごのショートケーキ・・・0.53ゴールド

 ・ダージリンティー・・・・・・0.39ゴールド

 ・エスプレッソコーヒー・・・・0.42ゴールド

 ・サンドイッチセット・・・・・0.70ゴールド


 ――――――――――――――――――――――


 ◆テイクアウト


 ・スポーツドリンク・・・・・・0.15ゴールド

 ・お好み焼き・・・・・・・・・0.53ゴールド

 ・たこ焼き・・・・・・・・・・0.43ゴールド

 ・焼き芋・・・・・・・・・・・0.61ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 メニューを普通のアイテムとして[作成]した。

 アイテム名は、『喫茶店のメニュー』にする。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・喫茶店のメニュー×1【アイテム】・・・0.01ゴールド


―――――――――――――――――――――――――――――


 僕は、目を開けてメニューを一つテーブルに召喚する。


『喫茶店のメニュー』


 メニューを手に取って観察する。

 それほど豪華なものにはしなかった。

 茶色のボール紙のような材質だ。


 表には、


 メイド喫茶「プリティ・キャット」


 というタイトルが入っていた。

 表紙の一番下には、「営業時間 : 7~19時」と書いてある。


 メニューを開くと右に喫茶メニュー、左にテイクアウトメニューが書かれている。

 シンプルなメニューにしたのは、毎日交換することができるからだ。

 必要なら、何度も【工房】で作ることが出来る。


「アデリーナ、このメニューのレシピを渡すから、みんなに配っておいて」

「はい、分かりました」


『トレード』


 僕は、『喫茶店のメニュー』のレシピをアデリーナに渡した。


「そのメニューに書かれた商品を書かれている価格で提供して」

「はい」


 次に元村人たちが働くシフトを決めないといけないだろう。

 メイド喫茶の店員となる元村人の数は8人、2人ずつ休みにすれば4日で全員が休めることになる。

 刻印を刻んでいるので、休日は、週に一度でいいと思う。娼婦のような大変な仕事でもないし。

 客が多そうな日曜日は、全員が出る日にすればいいだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――


 休日


 月 : アデリーナ/ナディア

 火 : ナターシャ/ニーナ

 水 : イアンナ/ロリサ

 木 : ジャンナ/ターニャ


―――――――――――――――――――――――――――――


 とりあえず、このようなシフトに決めた。

 休日の組合せは、3組は母娘おやこで最後の1組は残りの2人だ。


 今日は、水曜日だから、明後日の日曜日から営業開始することにしよう。


 ――明日は、学園の近くでビラ配りをさせたらどうだろう?


 また、料金の徴収だが、基本は『トレード』で受け取ることにして、刻印を刻んでいない人からは現金で受け取るように指示しよう。その場合、マジックアイテムの小銭入れを【商取引】で購入して各自管理することにする。


 僕は、シフトの件も含めて元村人たちに指示した――。


 ◇ ◇ ◇


「ご主人サマ、終わりましたわ」


 フェリスが店に入ってきた。

 店の敷地に石畳を敷き終えたようだ。


「ご苦労様」

「いいえ、わたくしは、ご主人サマの奴隷。好きにお使いくださいませ」


 あとは、『野外テーブルセット』と『ゴミ袋』のレシピを渡しておこう。

『野外テーブルセット』は、店の前の敷地に設置してオープンカフェにするためだ。

『ゴミ袋』は、ゴミを掃除する時などに便利だろう。


『トレード』


 僕は、アデリーナに『野外テーブルセット』と『ゴミ袋』のレシピと80万ゴールドを渡す。


「ユーイチ様、これは!?」

「『野外テーブルセット』は、営業開始前に店の外に設置して営業時間が終わったら帰還させて。『ゴミ袋』は、何かゴミが出たら、中に入れて帰還させると中のゴミが消えるから使って。それらのレシピは、みんなにも配っておいて。あと、お金は、10万ゴールドずつ配って。魔法石を買わないといけないと思うし、何にお金が必要になるか分からないから、念のため渡しとくね」

「わ、分かりました……」


 基本的に平日は、6人が店に出て、2人が休みになる。6人のうち、3人は店内で仕事をして、3人が外のオープンカフェで仕事をする。


「店長は、アデリーナにお願いするね」

「……はい、精一杯頑張ります!」


 この店の店長には、最年長のアデリーナを指名した。

 何か対応しきれない問題があれば、【テレフォン】で僕に連絡するようにとも伝えておく。


「じゃあ、この建物を案内するね」


 僕は、席を立った。


『ドライ1』


 そして、入り口付近にパペットのドライ1を設置した。


『ドライ2』


 店の奥には、ドライ2を設置した。


「このパペットは、この店の護衛だから。パペットたちは、僕の使い魔たちの言うことを聞いてね」


 パペットたちは、無言でコクリと頷いた。

 パペットは喋ることができないのだ。

 憑依してシンクロすれば、ルート・ドライアードの声でロボットのような返答をする。

 ルート・ドライアードの声なのは、ルート・ドライアードを見ながらイメージして造ったからだろう。


「客が暴れたりしたらパペットに命じて無力化するように。基本的に【スリープ】で眠らせてから敷地外に放り出せばいいから」

「「はいっ」」

「セクハラが酷い客も放り出していいよ」

「ご主人様、セクハラとはなんでしょう?」


 ナターシャがそう聞いた。


「身体に触ったり、スカートを捲ったりする嫌がらせのことだよ」

「そうでしたか……。しかし、こういったお店では仕方がないのでは?」

「この店は、風俗店じゃないから、基本的にお触り禁止で。悪意のない、ちょっとしたものならいいけど、不快に感じるようなら放り出して」

「「はいっ」」


 僕は、ドライ1に命じる。


「ドライ1、命令するまで店には誰も入れないように」


 ――コクリ……


「じゃあ、みんなついてきて」

「「はいっ」」


 店の奥に移動する。


「その右奥にある2つの扉は、かわやだから。右が男性用、左が女性用だよ」

「「はいっ」」


 そして、左の奥にある扉を開けて中に入る。

 元村人たちに続いてソフィアと使い魔たちが中に入ってきた。


「ここは、昇降場だよ。この建物は、地上2階・地下1階建てで、1階は店舗、2階はプライベートルーム、地下には食堂と浴場があるんだ。地下の施設は、『夢魔の館』ほど広くはないけどね」

「「はいっ」」


 僕は、2階に移動しようとした。


 ――ソフィアさんは、上れないよな?


「ソフィアさん、飛行魔法は使えますか?」

「ええ、使えますわよ」


 どうやら、ソフィアは、魔力系の魔術師だったようだ。白っぽいローブを着ているので、回復系の魔術師かと思っていた。


「では、まず2階に移動します」


【フライ】


 僕は、【フライ】を起動して、天井に空いた穴から2階へ移動した。


 邪魔にならないよう奥へ移動する。

 幅が約2メートルの廊下が奥に続いていて、その左右には扉が片側5箇所ずつに設置されている。

 元村人、ソフィア、使い魔たちが次々に柵を越えて2階の廊下に降り立った。


「この店の店員のための個室です。好きな部屋を使ってください」

「ああ……。命を助けて頂いた上にこのようなお部屋までいただけるなんて……」

「嬉しい……」

「お母さん、お部屋が貰えるの?」

「そうよ。良かったわね」


 個室は好評のようだ。

 僕は、近くの扉を開けた。


「『夢魔の館』の個室と似た造りだけど、少しだけ広いんだ」


 個室内や廊下の照明などは、基本的に『夢魔の館』に合わせてあるので、部屋のなかは薄暗かった。

 そういえば、部屋には窓も設置していなかった。

 廊下の突き当りには、明り取りにめ殺しの窓が設置してある。


「じゃあ、地下に移動するからついてきて」

「「はいっ」」


 僕は、部屋の扉を閉めてから、昇降場へ続く穴から降りた。

 そのまま地下へと続く穴へ入って地下に移動する。


 昇降場から降りた所は、食堂の隅だった。

 近くに6人掛けのテーブルと奥に8人掛けのテーブルがある。

 6人掛けのテーブルは、『ロッジ』に設置してあるものと同じで、両側の床に固定された長椅子がセットになったものだ。8人掛けのテーブルは、その6人掛けのテーブルセットを延長しただけのものだった。


 僕は、部屋の奥に移動した。

 使い魔たちとソフィアが後に続く。


「ここは、食堂です」

「「はいっ」」

「そして、この扉の向こうが浴場です」

「ユーイチ様、一緒にお風呂に入りませんか?」


 ソフィアがそんなことを言い出した。


「え? こんなことをしていてもいいのですか?」

「組合長は、暇なのですわ」


 組合長というのは、意外と暇な仕事のようだ。

 名誉職的なポジションなのかもしれない。


 それにしても初対面の男と一緒に風呂に入ろうと言い出すとは、この世界の女性は、貞操観念がおかしい。

 ベルティーナに何か吹き込まれているという可能性もあるし、単に僕のことを男として見ていない可能性もある。

 ソフィアは、見た目は若いが、僕よりもずっと年上の可能性が高い。

 外見は、僕よりも少し年上のお姉さんという感じなのだが……。


「……じゃあ、お風呂に入りましょうか」

「「はいっ」」


 僕は、浴場へ続く扉を開けて中に入った。


『装備8換装』


 裸になって、湯船へ移動して腰を下ろす。


 ――ザバッ、ザバザバザバザバ……


 使い魔たちが入ってきて僕の周囲に並んだ。

 ソフィアも僕の正面で立ったままだ。


「座って」


 ――ザバーッ!


 使い魔たちとソフィアが一斉に腰を下ろした。


「ねぇ、ユーイチ様。わたくしの母乳も飲んで貰えませんか?」


 ソフィアが僕に近づいてそう言った。

 やはり、ベルティーナに何か吹き込まれているのだろう。


「それは、構いませんが、僕の使い魔になってしまってもいいのですか?」

「ええ……。でも、わたくしがユーイチ様の使い魔になるのは、もう少し先の話ですわ……」


 ――『組織』とかいう犯罪者集団を駆逐してからということだろうか?


「さぁ、吸ってください」


 そう言って、ソフィアは小ぶりな乳房を差し出してきた。


 僕は、ソフィアから授乳された――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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