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 ――まず、最初に臨時のパーティ編成をしよう。


「ドライアードとニンフたちは、適当に4~5人でパーティを組んで」

「「はいっ」」

「僕のパーティは、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2、フェアリー、ピクシー、ケット・シーの10人で行動する」

「ハッ!」

「御意!」

「はいですわ」

「「分かった」」

「いいわよ」

「はーい!」

「分かったにゃ」


 使い魔たちが返事をした。


「この作戦は、ここから西に存在するゾンビを全て倒して死体を埋めることを目的とする。具体的には、分担する地域を決めて【ワイド・レーダー】で索敵、ゾンビだった場合には、【マジックミサイル】か【マジックアロー】、【エアカッター】、【ストーンバレット】で攻撃して倒したら、死体に【グレイブピット】を使って埋める。数が多い場合は、【ブリザード】を使うように。火炎系の魔法は、火災が発生する危険があるので使わないで。また、モンスターの拠点などを発見したときには【テレフォン】の魔術を使って報告して」

「「はいっ」」

「分担する地域は、ここから北はニンフ、南はドライアードのパーティで探索して。適度な間隔でバラけて、海岸線の近くまでカバーするように。【ワイド・レーダー】の索敵範囲に全ての陸地が入るようローラー作戦を行って。飛行魔法は、【マニューバ】を使うように。高度は50メートル以上を飛んで」

「「はいっ」」

「では、作戦開始!」

「「はいっ!」」


 ドライアードとニンフたちが飛び立って行った。


「僕たちは、街道沿いに『ナゴヤの街』まで移動しよう。フェリア、『ナゴヤの街』の方角へ飛んで、街道が見えたら、街道に沿って飛んで。フェリスは、【ワイド・レーダー】で索敵。何か見つけたら教えて」

「畏まりました」

「分かりましたわ」

「【マニューバ】で飛行しよう。【インビジブル】も忘れずに」

「「はいっ」」


【インビジブル】【マニューバ】


 フェリアが僕のほうを見たのでうなずいて合図する。フェリアが飛び立った。僕たちもそれに続く。

 方角的には、富士山のやや南に向けて移動しているようだ。

 しばらく飛行していたら、使い魔から【テレフォン】の魔法で連絡が入った。


「ご主人様、聞こえますか? コボルトの巣穴を発見いたしました」


 どの使い魔から連絡が来たのか分からない。口調からドライアードだということは分かった。


【テレフォン】


 僕は、【テレフォン】の魔術を起動したあとに『連絡してきた使い魔に返信する』と念じてみる。

 問題なく発動したようだ。


「聞こえるよ。場所はどの辺りかな?」

「先ほどの地点よりも南でございます。近くに海が見えます。岩山に洞穴が空いていますわ。手前には大きなすり鉢状の窪地がございます」


 それは、僕が【ハイ・エクスプロージョン】で作ってしまったクレーターのことだろう。


【マップ】の白地図を拡大して表示する。

 すると、白い地図にいくつもの太い線が書き込まれていた。線はリアルタイムで延び続けている。使い魔たちが飛行して上空から見た風景が地図に書き込まれているのだろう。


『【テレフォン】で通話中のドライアードは、どれだろうか?』


 ふと、そう考えたら、地図上の一点がそのドライアードだと確信できた。思考制御でその一点を中心にしてズームする。まるでインターネットの地図サイトで衛星写真をズームしているようだった。拡大すると【ハイ・エクスプロージョン】によりできたクレーターが確認できる。まさしく、ここが『コボルトの巣穴』だ。

 僕は、注釈として『コボルトの巣穴』と地図に書き込んだ。


「ご主人様?」


 僕が黙ったので、心配そうにドライアードが聞いてきた。そういえば、まだ通話中だった。


「ああ、ありがとう。また、何か見つけたら連絡して」

「畏まりましたわ」


 僕は、【テレフォン】の魔法をオフにした――。


 ◇ ◇ ◇


 その後、1時間の間に『ゴブリンの巣穴』『オークのとりで』の他にゴブリンとオークの拠点が1箇所ずつ発見された。

 僕たちは、富士のふもとの『妖精の国』につながるトロールが棲息せいそくしている洞窟をチェックして『ナゴヤの街』へ向かった。

 街道は、森の中では生い茂った木が邪魔で上空からはよく見えなかったが、周囲が草原の地域では上から見ると結構目立つ。緑色をした草原の中に幅5メートルくらいの石畳の道が通っているのだ。魔法で敷設ふせつされているからか、街道にはそれほど草が生えていない。


「ご主人サマ」


 フェリスが警告を発する。


「何か見つけた?」

「ええ、一体だけなのでゾンビだと思いますわ」

「じゃあ、ルート・ニンフと一緒に行って倒してきて」

「分かりましたわ」

「いいわよ」


 二人が右斜め前の方角へ飛んでいく。

 僕たちはここで待機だ。


 5分くらいでフェリスとルート・ドライアードは戻ってきた。

【グレイブピット】で死体を埋めたので時間が掛かったのだろう。


「ゾンビでした。倒した後、埋葬いたしましたわ」

「お疲れ様」


 そして僕たちは、再び『ナゴヤの街』へ向けて移動を開始した――。


 ◇ ◇ ◇


 それから、『ナゴヤの街』へは、一時間とかからずに到着した。

 道中には、街道から近い場所に廃墟と化した村と思われる集落がいくつか上空から確認できた。


『ナゴヤの街』には、『エドの街』のような城壁が存在しなかった。

 集落や田園地帯だった荒れ地が続いた後に多くの家屋が建ち並ぶ商業地帯らしき廃墟に続いていた。


「ご主人サマ」

「ゾンビ?」

「ええ、かなりの数ですわ」


 高度を落とすとボロボロの着物を着た刻印をほどこした人間に見える集団が虚ろな目でこちらに向かって移動してくるのが見える。


「街道に穴を開けたくないから、西に抜けて何処か広いところで倒そう」

「ハッ!」

「御意!」


 僕は、フェリアに代わり先頭に立ち、高度を30メートル近くまで下げる。

 あまり低く飛ぶと【マップ】に記録されないので最低30メートル以上の高度をキープする必要がある。

 そして、ゾンビがついてこられるようにゆっくりと『ナゴヤの街』の中央を通る街道に沿って西の方向へ移動する。


「フェリアとルート・ドライアード以外は、『ナゴヤの街』周辺にゾンビが居たら、こっちへ誘導して」

「「はいっ」」


 フェリアとルート・ドライアードを除いた使い魔たちが散開していった。


「どうして、この街にはこんなにゾンビが残っているのだろう?」


 フェリアに話しかけた。


「おそらく、この街の住人だと思われます。ゾンビに噛まれても直ちにゾンビ化するわけではありません」

「なるほど、ゾンビに噛まれて逃げていた人が、後でゾンビになって街に残ったわけか……」


 おそらく、ずっと西のほうからゾンビの大群はやってきたのだろう。

 そのゾンビの大群に街は呑み込まれ、街の住民の多くがゾンビに噛まれた。感染を逃れた一部の人間は東に逃げた。それを追ってゾンビの大群は『エドの街』方面へ移動した。

 そして、街に残された感染者が数時間後にゾンビ化したという推測が成り立つ。


【テレスコープ】


 視界を拡大してゾンビたちを眺める。

 女子供のゾンビも居るので、討伐するのは心苦しいが、彼らは既に死亡しているのだ。

 少し外れたところに長い黒髪をした美人のゾンビを見つけた。


 ――試してみるかな?


「フェリア、あの長い黒髪の女性ゾンビをテイムしてみてくれる?」

「ハッ!」


 僕は、フェリアにゾンビをテイムできるか実験するよう指示を出した。

 フェリアが白い光に包まれて、メイド服姿になった。

 全身鎧では、【サモン】の刻印が発動しないからだろう。

 そして、僕が指示したゾンビに向かって移動して近くの空中で止まった。

 次の瞬間、女性のゾンビは着ていた着物を残し白く光って消え去った。


 ――成功した!?


 ダメ元で出した指示だったのだが、ゾンビを召喚魔法でテイムすることは可能だったようだ。ゾンビは通常のモンスターではないが、刻印を刻んだ存在に等しい。冒険者などでもテイムすることが可能なので、テイムできる可能性はあった。しかし、召喚魔法は成功率が低いという話だ。たまたま、運良く成功しただけだろうか? 何体もテイムしてみないと、どれくらいの確率なのかは分からない。


 ゾンビの使い魔はどうなのだろう? 役に立つ立たないはともかく、生前の記憶などを持った状態で復活できるのなら、ゾンビの使い魔を増やしてもいいと思う。しかし、自我が無い状態で暴れるような使い魔なら、本人にとっても成仏させてあげたほうがいいだろう。


 フェリアが戻ってきた。


「ご主人様。ご命令通り、ゾンビを使い魔にいたしました」

「ご苦労様」


 僕は、当初の予定どおりに街の西側へ向かった。

 町はずれには、街道の左右に雑草が生え放題で荒れ果てた広い土地があった。元は農地だったと思われる。


 街道の左側にある荒れた農地を500メートルほど進んで待機する。

 暫く待つと、フェリスたちがゾンビを誘導してきた。

 フェリス、ルート・ニンフ、ニンフ1、ニンフ2、フェアリー、ピクシー、ケット・シーが戻ってきて、全員が揃った。


【ストーンフロア】


 僕は、荒れた農地の上空に【ストーンフロア】の足場を展開した。


『ロッジ』


『ロッジ』の扉をその上に召喚した。


「フェリアとルート・ドライアードだけついてきて。他の者は、足場の上で待機」

「ハッ!」

「御意!」

「分かりましたわ」

「「ええ」」

「分かったわ」

「はーい!」

「分かったにゃん」


 僕は、『ロッジ』の扉を開けて中に入った。

 扉は出したままにしておく。


「あっ、ユーイチ様」


 カナコが声を掛けてきた。


「ただいま」

「終わったのですか?」

「いや、今まさにこの下にゾンビの大群が居るよ」


 カナコのパーティメンバーの中には、それを聞いてビクリとしたり不安そうになる者も居た。


「大丈夫、後で殲滅せんめつするから」


 僕は、いつものテーブルのいつもの席にテーブルに背を向けて反対向きに座った。


「フェリア、さっき捕まえたゾンビの女性を召喚して」

「畏まりました」


 白い光に包まれて長い黒髪の裸の女の人が僕の前に召喚された。

 20代前半くらいに見える美人タイプの女性で僕の使い魔の中では、サクラコの娘のユリに似た印象だ。

 胸も大きくプロポーションが良い。身長は、『スケールの指輪』を発動して測ってみたところ、163センチメートルだった。


 女性は、目が虚ろで無言だった。

 召喚することで、生前の状態に戻るかと期待したのだが、これではゾンビと変わらない。ゾンビと違って襲い掛かっては来ないが。


 また、女性は裸だった。

 何故か着ている服を残してテイムされたのだ。


 ――召喚魔法では、普通の衣類は一緒にテイムされないのだろうか?


「君の名前は?」

「…………」


 女性は無言だった。喋ることができないのだろうか?

 それとも、こちらの言うことが理解できないのだろうか?


「右手を挙げてみて」


 女性は、サッと右手を挙げた。

 言葉は理解しているようだ。


「下ろして」


 女性は手を下ろした。


「話はできる?」

「…………」


 やはり無言だった。


「僕の命令に従う意志があるなら頷いて」


 女性はコクリと頷いた。


「これからは、了解したときには頷いて、意味が分からないときなどには首を振って」


 また、女性はコクリと頷いた。


『魔布の白無垢しろむく』、『竜革の白草履しろぞうり』、『魔布の黒ブラジャー』、『魔布の黒Tバックパンティー』、『魔布のクローク+10』を【工房】で作成する。


『トレード』


 それらの装備をゾンビの女性に渡した。

 ゾンビといっても、見た目は刻印を刻んだ女性そのものだ。


「今渡した装備を身に着けて」

「コクリ……」


 頷いた後、白い光に包まれて全裸だった女性は、白無垢の上に黒いフード付の外套を羽織った姿になった。


『テイムすることで生前の状態に戻るならともかく、こんな意志のないロボットのような状態なら成仏させてあげたほうがいいかな……』


「じゃあ、全員ついてきて」


 僕は、立ち上がり、『ロッジ』の扉から外に出る。

【ストーンフロア】の足場の端へ行き下を覗くと物凄い数のゾンビが集まっていた。

 ざっと1万体を超えるのではないだろうか?


「うわっ、凄い数ね」

「落ちないように気をつけて」

「落ちたら死んじゃう……」

「恐い……」


 カナコのパーティメンバーが口々に感想を述べた。


「【ブリザード】を使って、ゾンビを倒そう」


【ブリザード】


 ――ヒューーッザザザザザッーーー!!


 僕は、足場から密集した地点に向けて【ブリザード】を発動した。

 ゾンビたちが着ている着物がズタズタに裂けて乱れ飛ぶ。腰の高さくらいまであった雑草も凍りついて舞い上がった。

 効果範囲内のゾンビたちは、白い光に包まれ人間の死体に戻り倒れた。【ブリザード】の効果範囲内は、円形に地面が露出している。


 ――ヒューーッザザザザザッーーー!!


 ――ヒューーッザザザザザッーーー!!


 ――ヒューーッザザザザザッーーー!!


 ――ヒューーッザザザザザッーーー!!


 ・

 ・

 ・


 使い魔たちも次々と【ブリザード】で攻撃をした。

 瞬く間にゾンビの大群は殲滅された。


「凄い……」

「あの数のゾンビをこんな短時間で……?」


 カナコたちが驚いている。

 僕は、それを無視して指示を出す。


「じゃあ、死体を【グレイブピット】で埋めよう。カナコのパーティメンバーとゾンビはここに残って」

「「はいっ」」

「コクリ……」


 そして、僕たちは死体を埋める作業を開始した――。


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