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 眠ったと思った瞬間に目が覚めた――。


 いつもながら、このタイムスリップしたような感覚には慣れない。正直、普通に眠りたい。

 目が覚めると、身体の回りが温かい。しかも、手足がぬるぬるしているような感触がある。

 見ると使い魔たちが寝ている僕の手足に絡みついていた……。


「な、何してるの……?」

「んんっ……ぁああ……しっ、失礼いたしましたぁ!」

「はへ? もう朝? まだし足りないのにぃ……」

「ふっ……んっ……ああ、起きたのか主殿あるじどの……」

「もっとぉ、旦那さまぁ……もっとしましょぉ~」


『…………』


「寝てないの?」

「はい」

「勿体ないですわ」

「寝ている主殿を護るのは我が役目」

「フフフ……」


『この身体は寝る必要が無いようだけど……』


 僕は何となく、人間だった頃の習性で時間が空くと寝ているけど、その時間を利用して本でも読んだほうが有意義かもしれない。


『そろそろ、出発の時刻だ』


 僕は、立ち上がった。


【エアプロテクション】


 身体を綺麗にする。


『装備2換装』


 そして、魔術師ルックな装備に換装した。

 街では、基本的にマジックキャスターということで通すことにしよう。

 僕の体格で戦士というのは、ちょっと無理があると思う。軽戦士なら、僕くらいの体格の冒険者も居るのかもしれないが。

 その辺りも『エドの街』を見て回ることでいろいろ知ることができるだろう。


 フェリアの『倉庫』から出て、テーブルのある広い部屋のテーブルの上に金貨10枚、銀貨20枚、銅貨10枚を実体化させる。『エドの街』では、現金を持っておいたほうがいいらしいので、硬貨として実体化させて別に持っておいたほうがいいだろう。


【商取引】→『アイテム購入』


『通常アイテム、財布、袋』をキーワードに検索すると、下記のアイテムが見つかった。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・革製の硬貨袋【アイテム】・・・0.14ゴールド [購入する]


―――――――――――――――――――――――――――――


 それを購入してから実体化し、硬貨を中に入れた。

 硬貨袋は、ベルトの右側に括り付ける。左側には刀を帯びているので邪魔になるのだ。


 玄関から外に出る。使い魔たちもすぐ後に続いて出てきた。

 フェリアとルート・ドライアードは全身鎧の甲冑姿だ。

 ルート・ニンフは、僕と似たような魔術師スタイルだ。黒っぽいローブの上に同じく黒っぽいフード付の外套を着ていて、黒魔術師のような装いで、女性らしいラインが出ていて悪の魔女っぽい見た目だ。ちなみに黒っぽいのは、『マジックリンネル』のデフォルトカラーだ。


 フェリスは、フェリアの軽装とほぼ同じ構成の装備で、この姿のフェリスを見たのは初めてだ。黒っぽいインナーの上に黒っぽい革の胸当てと、黒のミニスカート、黒いニーソックス。太ももは素肌が見えている。腰のベルトには、細身の剣が吊してある。三銃士とかに出てくるようなレイピアだ。ブーツと篭手とマントも黒っぽい革製と全体的に黒っぽい装いだ。黒髪のフェリアと違いフェリスは明るい金髪なので、同じような服装でも印象が違う。


 フェリアが玄関扉に施錠したのを確認してから、使い魔たちに話しかける。


「じゃあ、これから『エドの街』へ向かうよ。近くまで【マニューバ】で飛行していくつもり。ただし、【インビジブル】で空を飛んでいる姿を見られないようにするから、【マニューバ】の他にも【インビジブル】と【トゥルーサイト】を併用しておいて」

「ハッ!」

「分かりましたわ」

「御意!」

「了解」


「『エドの街』へは、フェリスが先導して。北門にほど近く人気ひとけのないところに着地して、【マニューバ】と【インビジブル】を解除した後、徒歩で北門へ向かおうと思う。何か問題はあるかな?」

「ご主人様、『エドの街』よりも東側に降りて移動することを提案いたします」

「なるほど、西から来たら警戒されてしまうだろうしね。僕たちについて何か尋ねられたらどう答えたらいいと思う?」

「エルフの集落から来たとでも答えれば宜しいのではないでしょうか?」

「じゃあ、基本的に僕が対応するから、できるだけ目立たないように行動するように」

「畏まりました」


 それにフェリスが異を唱える。


「フフフ、目立たないようにというのは難しいと思いますわ」

「まぁ、よそ者というだけで耳目は集めるだろうし、ある程度は仕方がないけどね」

「ご主人サマの出自を決めておかれたほうがよろしいかと思いますわ」

「そんなこと聞かれるの?」

「ええ、珍しい人間なら、何処で生まれ育ったかなど聞かれると思いますわよ。答えないとかえって怪しまれてしまいます」

「マレビトだと知られないほうがいいよね?」

「目立ちたくないのでしたら、隠しておかれることをお勧めいたしますわ」

「じゃあ、どうしようか? 中央大陸の生まれにしておく?」

「ご主人サマは、この辺りを訪れる中央大陸出身者には見えませんわね」

「外国人には見えないよなぁ……」

「では、幼いときに拾われてエルフの集落で育てられた人間ということにしておかれては?」

「それ、他のエルフからバレない?」

「人間とエルフは、殆ど親交がありませんから大丈夫だと思いますわ」

「『エドの街』のエルフにもバレない?」

「『エドの街』にエルフが居たとしてもエルフの里とは交流が途絶えていると思いますわ。旅に出たエルフは、人間で言うところの勘当と同じで縁が切れますの」

「じゃあ、そういう設定にしておこうか。フェリアたちも?」

「そうですわね。フェリアたちもゾンビが襲来したときに壊滅した村で拾われた赤子ということにしておきましょう」

「では、フェリス先導を頼むよ」

「任されましたわ」


 僕はフードを脱いで頭を出しておく。顔を隠した人間は怪しまれるだろうと思ったからだ。ルート・ニンフは青い髪と尖った耳をしているため、フードをしたままで居てもらうしかない。しかし、2人も顔を隠した人間が居たら怪しいことこの上ない。


【インビジブル】【トゥルーサイト】【マニューバ】


『エドの街』まで移動するための自己強化型魔術を起動する。


「じゃあ、行きますわよ」

「よろしく」


 フェリスが森の上空へ舞い上がる。

 僕たちもそれを追って、飛び立った。


『エドの街』の城壁までの距離は、――肉眼で見えるくらいなので――そう遠くはない。

 僕の予想では、10キロメートル以上、20キロメートル未満というところだ。

【マニューバ】で加速すると、みるみるうちに城壁が接近してくる。

 門の近くの街道には、多くの人の姿が見える。

 10分もしないうちにフェリスは速度を落として、降りるところを探している。

 どうやら、北門の近くに適当な場所を見つけたようだ。


 僕たちは、街道から少し外れた森の中に降り立った。

【マニューバ】と【インビジブル】をオフにする。

 北門からは、500メートルくらいは離れていそうだ。

 あまり近いと、森の中から出てきた集団として警戒されてしまうかもしれないので、この判断に間違いはないだろう。


 街道に出ると、3台の荷馬車を中心にした商隊に出くわした。警備の冒険者たちが、僕たちを見て警戒の色を見せたが、すぐに警戒を解く。小柄な魔術師と鎧を着た女2人にエルフと女魔術師の5人組だから、敵ではないと判断したのかもしれない。

 商隊に雇われていると思しき冒険者は、ざっと見たところ13人居るようだ。全身鎧の冒険者も2人居るが、他は胸当てのみ金属製の戦士風冒険者が多い。数人、革鎧の軽装戦士が居るのが見えた。

 商隊は、僕たちとすれ違う。特にトラブルもなく通りすぎた。


 街道は、自然石の石畳が敷かれた道路で幅は結構広い。5メートルくらいありそうだ。

 それでも、商隊がすれ違うのには、ギリギリの幅だろう。

 また、街道は、馬が通るため馬糞などが落ちていて、あまり綺麗とは言い難い。正直、【レビテート】か【フライ】を使って移動したい気分だ。注目されたくないので、止めておくが。


 僕たちは門のほうへ歩いていく。人通りは結構多く、朝だからか門から出てくる人が多いようだ。

 冒険者風の集団や村人風の人間。馬に乗った人間ともすれ違う。

 皆、僕たちに好奇の目を向けてくる。おそらく、エルフのフェリスが注目されているのだろう。フェリス以外は、冒険者パーティで通るはずだ。

 そうして、10分ほど歩いたところで北門の前に着いた。


 城壁の高さは、30メートルくらいあるように見える。そして門は、高さが10メートルくらいある両開きの門で、幅も5メートル以上はありそうだ。見た目は木製に見えるが、この建築物は魔法でできているので、たぶん壊しても約24時間後に復活するだろう。

 門の左側に出っ張った建物があり、正面には、ひさしとカウンターがあり、窓口になっている。窓口の中には、女性が居るようだ。胸の谷間が壁に空いた穴から見える。

 おそらく、あそこが通行税を払う窓口だろう。

 窓口は、石の壁に小さな穴が空いていて、その窓からやり取りをするようだ。窓が小さくて受付嬢がよく見えない。これは、防犯対策の為かも知れない。

 僕は、窓口に近づいて、カウンターの向こうに居る女性に話しかけた。


「すいません、この5人で『エドの街』に入りたいのですが?」

「では、通行税がお一人様銀貨1枚となっておりますので、5名様で銀貨5枚をお支払いください」


 僕は、硬貨袋から銀貨を5枚を取り出し、受付の女性に渡した。


「はい、銀貨5枚、確かにお預かりいたしました」


 それを見ていた、軽装戦士風の男が、門の左側を指して入るように促した。


「こっちから入れ」

「分かりました」


 僕たちは、『エドの街』に入った――。


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