4―20
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僕は、裸でプールの
そして、裸のフェリアが背後から僕の身体を抱くように座っている。
『そろそろ、ここを立とう……』
僕は、目の前に立つニンフの乳房から口を離した。
「あんっ」
ニンフを下がらせて、プールの中に入った。
これが、お湯だったら風呂になるが、水なのでプールのような感じだ。
――冷たくて気持ちがいい……。
ドライアードの大浴場の風呂の湯船に比べると少し深いが、プールとしてみるとかなり浅い。
腰より少し低いので、深さは1メートルも無さそうだ。
泉では泳がずに【エアプロテクション】を使っていたので、久しぶりに泳いだ感じだ。僕は、泳げないということはないが、泳ぎが得意というわけでもない。というより、あまり経験が無いといったほうがいいだろう。子供の頃は、海水浴場やプールへ行って泳いだこともあるが、僕の通っている高校にはプールの授業が無い。プールはあるけど、水泳部などの部活で使っているだけだった。
この身体は、息を止めていれば息継ぎをせずにいつまでも泳げるし、体力も無限に近いものがあるので、その気になれば、太平洋を泳いで横断することもできるだろう。
使い魔たちも僕に続いて、プールの中に入ってきた。僕が泳いでいるのを邪魔しないように立っている。
【レビテート】
裸の女性たちに注目されながら泳ぐのも恥ずかしくなってきたので、僕は【レビテート】を使ってプールの外に出た。
使い魔たちも僕の後について来る。
『装備2換装』
僕は、魔術師スタイルの装備に換装する。
「じゃあ、全員、服を着て」
「「「はいっ」」」
部屋の壁を見ていると、装備を変更するエフェクトで何度も光った。
「ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、使い魔を全て帰還させて」
「御意!」
「分かったわ」
500人以上の使い魔たちが白い光に包まれて消え去る。
部屋の中には、先日と同じく、僕、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、フェアリー、ピクシーの7名が残されている。
フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフは、メイド服姿だ。フェアリーは、白いワンピース。ピクシーは、いつもの緑のビキニのような衣装だ。
「今日は、『レプラコーン』と『ケット・シー』の住んでいるところへ行ってみようと思う。その後、フェリア達の家に帰るつもりだけど、何か問題はあるかな?」
「
「問題ないですわ」
「
「いいと思うわよ」
「じゃあ、あたしが道案内してあげる」
「あー、ずるーい! 私も道案内する!」
僕の直接の使い魔たちが答えた後、フェアリーとピクシーが道案内を買って出てくれた。
「じゃあ、道案内は2人に頼むよ」
「任せて」
「はーい!」
僕たちは、ニンフの住処のプールのある部屋から、泉の底に
【エアプロテクション】【トゥルーサイト】【フライ】【グレーターダメージスキン】【グレート・リアクティブヒール】
外に出るので、念のためバフをしておく。回復系のバフは、後でトロールと戦うときにも有効だろう。
『レプラコーン』と『ケット・シー』には、あまり時間をかけるつもりはないので、持つと思う。
このとき僕は、観光地を簡単に巡るような軽い気持ちで訪問するつもりだった。
【フライ】で飛行して、ゆっくりと水の中に入る。
フェアリーとピクシーの後について、水中を移動する。
フェアリーのワンピースがヒラヒラして目に毒だ。
下着を着けていないようだし……。
『妖精は、下着を嫌うのかなぁ……フェリスもそうだが……エルフも本来なら人間の近親種というよりも妖精だからな……』
――フェアリーの揺れるワンピースを見ながらそんなことを考える……。
◇ ◇ ◇
泉を出て【エアプロテクション】を解除し、森のほうへ飛行していく。
森の小道を移動していくと、ピクシーが言った。
「ここら辺でユーイチと会ったんだよねーっ!」
「そうだね」
「ユーイチと逢えてラッキーだったわぁ!」
『それはどうなのかなぁ……まぁ、『妖精の国』で延々と同じような日常が続くのもある意味地獄かもしれないが……』
「ユーイチもあたしと逢えて幸せだよね?」
「うん、そうだね」
『マスコットキャラは、重要だよね……』
少し進んだら、フェアリーに会った十字路に着いた。
「フフフ……あたしは、ここでユーイチ様と出会ったのよ」
「そうだったね」
「ユーイチ様と出会えて本当に良かったわ」
「そうなの?」
「ええ、ユーイチ様はどうです? あたしに逢えて良かったですか?」
「勿論」
『マスコットキャラは、重要だからね……ロリバ……ゲフンゲフン……でも……』
二人は、その十字路を左に曲がった。
ドライアードの集落の方から見ると右方向だ。フェアリーが向かっていた方向でもある。
『確かこの先にレプラコーンの集落があるんだよな……』
それから、
「トレントと会ったのもこの近くだよね?」
「うんっ! そーよっ!」
ピクシーが嬉しそうに答える。
更に10分ほど進んだところにレプラコーンの集落はあった。
草原の小道のすぐ右側に開けた場所があって、そこに小人の家という印象がぴったりの小さな平屋住宅が不規則に並んでいる。
そのうち、一軒の家の前に髭面の小人が居た。
「お主らは?」
「お久しぶりね、レプラコーン」
「おお、フェアリー」
髭面の小人は、緑色のシルクハットを被っている。その分を引いても、並んだフェアリーより少し身長が高いように見える。推定90センチメートルといったところだろう。ずんぐりしているので、パッと見はフェアリーのほうが長身に見えるが。
髪の毛と髭の色は、茶色だ。
服装は、緑色のシルクハットの他、白いシャツに緑色のベスト、モーニングみたいな緑色のジャケットを羽織り、緑色の短いズボンを黒のベルトで留め、白の靴下と黒い靴を履いている。
「こちらユーイチ様っていうんだけど、この人が『レプラコーン』に会いたいというから案内してきたの」
「なにぃ!? 人間がワシらに会いたいだと?」
『警戒されてるなぁ……』
「ただ、観光気分で会ってみたかっただけなんですよ。不愉快でしたらすぐに帰ります」
「ほぅ、ワシらの黄金が目当てではなかったか……」
「黄金?」
「いや、こっちの話じゃて」
『気になるなぁ……』
「あなた達、『レプラコーン』は、ここでどんな仕事をしているのですか?」
「ワシらは、隠居した身じゃから、特に何をしているわけでもないな。たまに草原を散歩するくらいじゃ」
「この集落には、あなた達を模した石像はありますか?」
「なにっ!? 何故それを知っておる?」
「いや、ドライアードとニンフの集落にもありましたから」
「確かに石像はある。しかし、お主のような
『大男って……』
小人のレプラコーンから見たら大男なのだろうけど……。
「いえ、別に見たいわけではないので、単なる興味本位の確認です。で、その石像について何かご存じではありませんか?」
「……いや、何も知らん……」
『何か知ってそうな反応だな……』
秘密にしようとしていることを無理に聞き出すのは止めておいたほうがいいだろう。
「では、お邪魔しました」
「おう、達者でな」
僕たちは、レプラコーンの集落を離れ、また草原の小道を進んでいく。次は、『ケット・シー』の住む処だ。
確か、『ケット・シー』達は、国を作ってるという話だ。この狭い『妖精の国』でどんな国を作っているのだろうか?
「ケット・シーの国ってどんなところ?」
「お城があるわ。ほら、見えてきた」
視線を上げると上空から見下ろしたように城が見える。昔のアニメに出てくるような小さめの西洋的な城だ。
色は、アニメのような赤とか青といった奇抜な色は使っていないようだ。石造りのグレーっぽい配色だ。
15分ほど進むと――僕たちは【フライ】を使っているので歩くよりは速い――城の前の広場に出た。
城は、近くで見るとかなり小さく、1/2スケールの城を見ているようだ。
城門には、両側に門番の『ケット・シー』が居る。
『ケット・シー』は、二足歩行の猫のような妖精で、猫を直立させて、足を長くしたような印象だ。
服装は、赤いつば広の帽子に赤いマント、赤いブーツを履いている。ベルトには、レイピアと言うのだろうか、細い剣が装備されている。あまり、強そうには見えないが、敵対行動は避けるべきだろう。
「こんにちわ、ケット・シー」
「ねこちゃん、ちわーっ!」
「むっ、フェアリーにピクシー、それにドライアードとニンフか。あとは、たまに見るエルフと見たことがない人間が二人居るようだにゃ?」
『取って付けたような猫語だな……』
猫が人語を喋っているのが不思議だ。トレントのような樹木が喋るのに比べたらマシかもしれないが……。
「初めまして、ユーイチと言います」
「ユーイチ様の使い魔フェリアでございます」
「お前達は、『ケット・シーの王』との謁見を望むのかにゃ?」
「特に用が無くても会ってくださるのですか?」
「王は、寛大な方にゃん」
「貢ぎ物などは必要でしょうか?」
「何かあれば、献上するがよいにゃん」
「では、謁見を希望いたしますので、お取り次ぎください」
「分かったにゃん」
そういって、僕と話していた門番は、通用門を開けて中へ入っていく。
通用門は、ケット・シーに合わせたサイズなので僕には通れないだろう。
ケット・シーと会話している間、フェアリーと比べてみたが、フェアリーよりも身長が10センチメートルほど小さく感じた。そもそも、足が長いだけで普通の猫くらいの体格なのだ。おそらく、体重も5キログラムくらいしかないだろう。
暫く待っていると、おそらく先ほどのケット・シー――同じ容姿なので定かではない――が戻ってきた。
「お待たせしましたにゃん」
ケット・シーがそう言ったと、同時に門が開かれる。門の高さは3メートルくらいあるので人間でも余裕で入ることができる大きさだ。
僕たちは、ケット・シーに案内されて、城の中へ入っていく。
階段を上ると、建物への入り口の扉があり、こちらは、2メートルくらいの高さだった。
中に入ると、左右にケット・シーが並んでおり、30メートルくらい奥にある一段上がった玉座に王冠を被り
僕たちは、ケット・シーの王の前まで案内された。
「一同、控えるにゃん」
『猫語だと緊張感が……』
僕は、膝をついて頭を垂れた姿勢を取る。
こんな格好をするのは初めてだが、フェリアがよくしているので、それを見倣った。
僕が姿勢を低くしたのを見て、使い魔たちもそれに倣う。
「一同、
顔を上げてケット・シーの王を見る。
見たところ身に着けているもの以外は、他のケット・シーと変わらないように見える。
『普通は一回り大きかったりするもんなんだけどなぁ……』
「余がケット・シーの王だにゃん」
『王様も猫語かよ!』
僕は、心の中でツッコミを入れた後、気を取り直して、貢ぎ物をプレゼントすることにした。
『牛ヒレ肉のステーキ』
両手でトレイを持つように『牛ヒレ肉のステーキ』を召喚した。
「こちらの料理を献上いたします」
「ほぅ、こちらに持って来るにゃん」
ケット・シーの王は、側近に指示をだした。
『牛ヒレ肉のステーキ』は、トレイに載った2つの皿とナイフとフォークがセットになっている。一つの皿には、ステーキと付け合わせが載っている。もう一つの皿には主食のライスだ。
『そう言えば、僕もまだ食べてないんだよな……』
トロールと再戦する前の余った時間に作ったので、それからは、落ち着いて食事をする機会がなかったのだ。
王の側近は、僕が差し出したトレイを受け取り、王の前へ持って行く。
『食べられるといいけど……』
「これは美味しそうだにゃん」
どうやら、ケット・シーには、食欲があるようだ。
ケット・シーの王は、器用にナイフとフォークを使って、肉を切り分けて一口食べた。
「んーーーっ! これは美味いにゃん!」
どうやら、好評のようだ。
高級な肉を焼いただけの料理なので
王は、夢中になって平らげた。猫舌なのかもしれないが、このステーキは15分寝かせてあるので、あまり熱くないはずだ。
「お客人、結構な献上品であったにゃん」
「ありがとうございます」
ここは、「ありがたき幸せ」と返す場面かもしれないが、使い慣れない言葉を使っても噛むだけだろう。
「この者に褒美を与えるにゃん」
王は、僕に何か褒美をくれるようだ。
「王様、どんな褒美がよいですかにゃん?」
側近が王にそう尋ねた。
「ふむ、では余がお客人に付いていくにゃん。どうやら、お客人は多くのペットを飼っている様子だにゃ。余もお客人のペットとして旅をするにゃん」
『え? どういうこと?』
「王様、それでは次の王様をご指名くださいにゃ」
「では、お前が次の王にゃ」
ケット・シーの王は、側近の一人を指名した。
そして、王の装備が普通のケット・シーと同じになる。
その側近が王の側に来る。装備をトレードで渡しているようだ。
側近が、王の格好になった。
「それでは、お客人、出発するにゃん」
僕は呆然としていたが、ケット・シーの元王の言葉で我に返る。
「いいの? 王様をほっぽり出して?」
「大丈夫にゃ、たまにこうやって交代してるのにゃん」
どうやら、ケット・シーの王様職は回り持ちのようだ……。
「どうして、付いてくる気に?」
「さっきの食べ物が凄く美味しかったにゃん。また、食べさせて欲しいにゃん」
「それくらいならいいけど……」
そこにフェリアが割り込んでくる。
「あなたは、ご主人様の使い魔になりたいの?」
「あのお肉を食べさせてもらえるなら、なりたいにゃん」
「ご主人様、ここは
「いいよ」
「では、ケット・シー、ご主人様のペットになりたいと願いなさい」
「了解にゃん」
次の瞬間、ケット・シーの元王は、白く光って消え去った。
「ご主人様、ケット・シーを召喚してもよろしいでしょうか?」
「勿論、いいよ」
「畏まりました」
白い光に包まれてケット・シーが召喚された。
「じゃあ、トロールを倒して、フェリア達の家に帰ろう」
「ハッ!」
「はいですわ」
「御意!」
「いいわよ」
「行きましょ」
「行こう、行こう!」
「行くにゃん」
こうして、僕たちのパーティにケット・シーが加入した――。
―――――――――――――――――――――――――――――
第四章 ―妖精の国― 【完】
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