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僕は、トロール達が全て消え去るのを確認してから、【戦闘モード】を解いた。不要な自己強化型魔術もオフにする。
『さて、これからどうしよう? ぶっちゃけ、このまま外に出て『エドの街』へ向かってもいいんだけど……。でも、『妖精の国』にもまだ見どころはありそうだし……』
元々、僕は『妖精の国』へ観光気分で来たはずだったのだ。それが、トロールにこてんぱんにやられてしまって、少し主旨が変わってしまった感がある。
『『レプラコーン』と『ケット・シー』にも会ってみたいなぁ……』
『妖精の国』には、『ドライアード』・『ニンフ』・『トレント』・『フェアリー』・『ピクシー』・『レプラコーン』・『ケット・シー』の7種族が住んでいるという話だ。
その中で『レプラコーン』と『ケット・シー』には、まだお目にかかっていない。
彼らは、ワンダリング妖精ではないため、フェアリーやピクシー、トレントのように偶然出会うことはない。こちらから、彼らの集落へ出向くしかないのだ。
とりあえず、当面の指示を使い魔たちに出しておくことにした。
「まだ、刻印を全て刻まれていない使い魔に刻印を刻んであげて」
「「はいっ」」
ドライアード達が返事をした。
「フェリア、フェアリーとピクシーにも刻印を刻んであげて。彼女たちは体が小さいから、優先順位の高いものだけでいいけど」
「【基本魔法】はどうされますか?」
「不要だと思う。しかし、『装備』だけは2つ刻んでおいて」
「畏まりました」
「フェリス」
「何ですか? ご主人サマ」
そして、今後のことを相談をするためにフェリスを呼んだ。
「実は、この後、どうしようか迷っているんだ。このまま外へ出て、『エドの街』へ向かうか、それとも、もう少し『妖精の国』を見学するか……」
「実は、ご主人サマに見てほしいものがありますの」
「何を?」
「ドライアードの集落で見つけたものなのですが、ニンフの泉にも似たものがありましたわ」
「それは、どんなものなの?」
「おそらく、魔法装置です」
「へぇ、それは興味あるな……」
「ええ、そう言われると思ってましたわ」
「じゃあ、後で案内して」
「はいですわ」
マジックアイテムは【工房】で作ったこともあるが、『魔法装置』と呼ばれるものは見たことがない。一体、どんなものなのだろうか?
「あと、ニンフ達の数を数えて来て」
「256人ですわ」
「仕事が早いね」
「後で必要になると思い、刻印を刻むときに数えておいたのですわ」
「なるほど」
すると今度はフェリスの方から、質問してきた。
「ご主人サマ、余った『回復の指輪』はどうしますか?」
「そのまま、フェリスが持っていて。実は、ニンフも含めると全員分は調達できないんだよね。お金が足りないから……」
「分かりましたわ」
ニンフの装備を何とかしたほうがいいだろう。流石に全裸では問題があるだろうし……。
――『ドライアードのドレス』の色違いの『ニンフのドレス』を作ろう。
【工房】→『装備作成』
目を閉じて、装備の作成を開始する。もう、この作業にも慣れた。
素材を追加せずに作ってみると、『マジックリンネル』が4つ必要だった。
サンダルも作ってみたが、こちらは、『ドラゴンスキン』が1個必要だった。
255個作ったとすると、230万ゴールドくらいのお金が必要になりそうだ。
僕は素材を購入して以下の装備を作成した。『回復の指輪』は、フェアリーとピクシー用だ。ルート・ニンフには、ドレスの代わりにメイド服を作り、サンダルだけは作った。
・ニンフのドレス ×255
・ニンフのサンダル ×256
・フェリアのメイド服
・メイドカチューシャ
・黒のチョーカー
・フェリアの腕輪
・黒のストッキング&ガーターベルト
・回復の指輪 ×2
僕は目を開けて、周囲のニンフに話しかける。
「僕の直接の使い魔のニンフは何処?」
「あたしがそうですよ」
近くに居た裸のニンフが僕のほうを向く。
『トレード』
『ニンフのドレス』と『ニンフのサンダル』を255個渡す。ついでに100万ゴールドも渡した。
「その装備を他のニンフ達に配ってくれ。お金は、ニンフ達で必要なときに融通し合うように」
「分かったわ」
「配り終わったら、装備させて、報告に来て」
「了解よ、旦那さま」
フェリアを見ると、刻印を付与するためにメイド服に着替えているが、もう刻印付与の作業は終わっているようだ。
僕の視線を受けて近づいてきた。
僕の足下に片足をついて、頭を垂れる。
「御用ですか? ご主人様」
「フェアリーに何か着る物を作ってあげて」
『トレード』
僕は、『回復の指輪』を2個と10万ゴールドをフェリアに渡す。
「ご主人様、お金なら
「フェリア、これは命令だよ。このお金を使って」
「……畏まりました」
◇ ◇ ◇
「旦那さま、終わりましたよ」
見ると、他のニンフ達は僕が作った装備に着替えている。
『ドライアードのドレス』と色違いの『ニンフのドレス』だ。ちなみに『ドライアードのドレス』は緑色で、『ニンフのドレス』は青色をしている。どちらも、濃くもなく薄くもない色合いだ。
「ありがと。ああ、そうだ、君のことは、他のニンフと区別するために『ルート・ニンフ』と呼ぶね」
「分かったわ」
「他のニンフ達を帰還させて」
「ええ」
255人のニンフが光と共に消え去る。
『ルート・ニンフの装備6』
―――――――――――――――――――――――――――――
頭:メイドカチューシャ
首:黒のチョーカー
服:フェリアのメイド服
腕輪:フェリアの腕輪
脚:黒のストッキング&ガーターベルト
足:ニンフのサンダル
指輪:回復の指輪
―――――――――――――――――――――――――――――
『ルート・ニンフの装備6換装』
「わっ」
突然、装備が変更されたのでルート・ニンフは驚いたようだ。
「フェリアのために作ったメイド服なんだけどね」
「これを、あたしに?」
「とりあえず、外の世界に裸で行くのは不味いから、普段着用として着てて」
「分かったわ、旦那さま」
――そういえば、またパンツを装備するのを忘れている……。
『さて、ルート・ニンフの戦闘用装備はどうするかな? マジックキャスターとして育てるなら、メイド服でもいいんだけど、人前で戦う機会があるかもしれないし……』
【工房】→『装備作成』
とりあえず、適当に魔術師装備でも作って装備させようと、僕は目を閉じ装備作成に取りかかった。
そして、以下の装備を作成した。
・魔布のローブ+100
・魔布のクローク+10
僕が『装備2』で使っているものと同じものだ。レシピがあったので、そのまま作成した。
『ルート・ニンフの装備1』
―――――――――――――――――――――――――――――
首:黒のチョーカー
服:魔布のローブ+100
腕輪:フェリアの腕輪
脚:黒のストッキング&ガーターベルト
足:ニンフのサンダル
背中:魔布のクローク+10
指輪:回復の指輪
―――――――――――――――――――――――――――――
『ルート・ニンフの装備1』にセットしておく。
『魔布のクローク+10』は、フード付きの外套なので、フードを被れば髪や耳を隠せるだろう。街へ行くときなどには、重宝しそうだ。フェリアとルート・ドライアードは、全身鎧を着ていればいい。あの装備は、暑苦しそうなので、ちょっと可哀想だが……。
フェアリーを見ると、白いワンピースを着ていた。他には何も装備していないようで、足も素足だ。
清純な少女のような印象を受ける。
『ロリバ……いや何でもない……』
何年くらい生きているか聞いても有効な回答は得られないだろう。『妖精の国』では、日にちの感覚がないのだ。
『所持金』
―――――――――――――――――――――――――――――
所持金 …………… 6406743.61ゴールド
―――――――――――――――――――――――――――――
ここで所持金を確認してみると、約640万ゴールドだった。まだ、全員分の『回復の指輪』を作ることはできない。
もう一度、トロールを殲滅させたら、ギリギリ貯まるかどうかってところだろう。
『回復の指輪』を256個作るためには、約1561万ゴールドもかかるのだ。
ちなみにこういった計算は、普通の人間だった頃には、計算機を使わないとすぐには計算できなかったが、この身体になってから暗算がかなり早くなったように思う。計算しているような感じではなく、『61000×256』と念じれば、『15616000』と答えが返ってくるイメージで、まるで頭の中にAIのエージェントプログラムが入っているかのようだ。
「ルート・ドライアード」
甲冑を着たまま佇んでいるドライアードを呼んだ。刻印付与の手が十分に足りているから着替えなかったようだ。
『ハッ! 御用でしょうか?
ルート・ドライアードは、いつもより丁寧な口調で返事をした。
「ドライアード達を帰還させてくれ」
「御意!」
255人のドライアード達が白い光に包まれて消える。
『ルート・ドライアードの装備6換装』
「むっ」
甲冑姿だと暑苦しいので、メイド服に変更する。
「じゃあ、フェリス、さっき言ってたところに案内してくれる?」
「はいですわ~」
間延びした返事をしたフェリスは、いまだに全裸だった……。
『フェリスの装備6換装』
「いやぁん」
目に毒なのでメイド服を強制的に着せた。
この場には、僕、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフ、フェアリー、ピクシーの7名が居る。
「ご主人様、フェアリーとピクシーは、帰還させなくてもよろしいですか?」
フェリアが指示を仰いできた。
「ああ、彼女たちはマスコット的な存在だから、『妖精の国』では召喚したままにしておいて」
「畏まりました」
「フフフ……あたしたちは、ユーイチ様のマスコットらしいわよ」
「へへへ、嬉しいなぁ」
『マスコットの意味が分かってるのかな?』
僕たちは、『妖精の国』へ通じる洞窟に入った――。
◇ ◇ ◇
それから、僕たちは、フェリスの先導でドライアードの集落に戻った。
いつものように大浴場のある迎賓館に入る。
「ご主人サマ、こちらですわ」
フェリアが今まで行ったことのない建物の奥へと案内していく。
突き当たりの階段を降りて辿り着いた場所は、この建物内の最奥部だった。
広く薄暗い部屋の中央に女性の石像が設置してある。
「これは……?」
「ドライアードの石像ですわ」
「フフフ……まるでドライアードが石化したみたいね」
「すごぉ~い!」
フェアリーとピクシーが感想を述べる。他の使い魔たちは、僕とフェリスの会話を邪魔しないように黙っているみたいだ。
本当にドライアードが石化したような石像だった。
服装は、いつもドライアードが着ていたドレス姿で、腕を上げたりはしておらず、自然体で立っているような姿勢で造られている。
「どうして、この石像が魔法装置だと思ったの?」
「それは、ドライアードが復活するときにこの石像が光るからですわ」
「復活する瞬間を見たんだ?」
「はい、トロール討伐のときに死んだドライアード達は、この部屋で復活しましたの。その時にこの石像が光って、直後にドライアードが部屋の中に召喚されるところを見ましたわ」
「つまり、この石像がドライアード達を召喚していたってことか……」
「そう考えるのが自然ですわね」
にわかには信じられないような話だが、これでリスポーンの原理は説明できる。
コボルトやゴブリンの巣穴にも何処かにこういった魔法装置があるのではないだろうか?
「ニンフの泉にも同じものがあるって言ってたよね?」
「ええ、そうですわ」
「それは、ニンフの姿をしているわけだ?」
「ええ、その通りですわ」
「モンスターの巣穴にも、モンスターの姿をした石像があると思う?」
「可能性は高いと思いますわ」
「でも、『コボルトの巣穴』や『ゴブリンの巣穴』、『オークの砦』の中を調べてみたけど、こういった石像は無かったけどな……トロールの巣穴でも見かけなかったし……」
「見えるところに置いてあるとは限りませんわ」
「それはそうなんだけどね。法則性が……」
「人間に友好的なモンスターは、こうやって見える位置にあると考えたらどうです?」
「ふむ、それにどんな意味が?」
「ご主人サマは、この石像がゴブリンを模したものでしたら、叩き壊したくなりませんかしら?」
「流石にそんなに暴力的な衝動は起きないと思うけどね……」
「でも、冒険者の中にはそういう暴力的な人間もいますわ」
「なるほど、壊されないために隠してあると……つまり、壊されたらモンスターが復活しなくなるってことだよね?」
「それは分かりませんわ」
しかし、その石像を壊したら、異空間に影響を与えて巣穴から出られなくなったりする可能性もある。それにマジックアイテムなら壊しても翌日には復活するだろう。
『見つけても壊さないほうがいいだろうな……』
「じゃあ、こういった石像を『リスポーン・ストーン』と名付けることにするね」
「分かりましたわ」
念のため、ニンフの『リスポーン・ストーン』も確認しておいたほうがいいだろう。
「じゃあ、ニンフの泉の『リスポーン・ストーン』も見てみようか。見たからと言って何が変わるわけでもないけど」
「案内しますわ~」
僕たちは、ドライアードの迎賓館を出る――。
◇ ◇ ◇
「【マニューバ】で一気に移動しよう」
僕は、そう提案した。
「分かりましたわ」
僕たち7人は、【マニューバ】で直接泉に向かった。『妖精の国』では、球の内側を移動するため、ショートカットが可能だ。
【エアプロテクション】
そのまま、【エアプロテクション】をかけて泉に飛び込んだ。
サバーンッ!
【エアプロテクション】の効果で泉に飛び込む音は聞こえなかったが、飛び込む瞬間に僕は心のなかで擬音を発した。
そして、泉の底の洞窟から、ニンフの住処へと移動する。
水から上がって、扉を開けた廊下の突き当たりの扉の向こうに地下への階段があった。
その階段を降りるとドライアードで見た部屋とほぼ同じと言ってもいい最奥部の広間に出た。
広間の中央にニンフの石像――『リスポーン・ストーン』――が設置してある。
「あたしたちの石像もどっかにあるのかなぁ?」
ピクシーが疑問を発する。
「君は何処で生まれたの?」
「んー、覚えてない」
「あたしも覚えてませんわ」
フェアリーも覚えていないようだ。
フェリアによると、召喚されるときは、刻印を刻んだ身体で睡眠状態から起きるようなものだという話だ。
そんな些細な記憶だと、前後が曖昧になってしまうのかもしれない。
「フェリス、この『リスポーン・ストーン』は、何かに利用できると思う?」
「それは……難しいと思いますわ」
「だよね……」
これは、おそらく誰かが【工房】で作ったマジックアイテムの可能性がある。
どうやって、妖精を作成してマジックアイテムに封じ込めたのか分からないけど、とにかく、そういう妖精を自動的に召喚するマジックアイテムを作って、設置した。いや、この『妖精の国』も同時に作ったのかもしれない。この石像は、『妖精の国』の付属品という可能性もあるが……いや、それだったら、石像として分ける必要がないか……。
考えても答えが出るとは思えないので、石像を調べるのを止めて、この場所を去ることにした。
「じゃあ、行こうか」
それを聞いて、使い魔たちが口々に返事をする。
「ハッ!」
「分かりましたわ」
「御意!」
「いいわよ」
「行きましょうか」
「うん、行こう!」
僕たちは、プールのある部屋へ向かった。
「ルート・ドライアード、ルート・ニンフは、使い魔を全部召喚して」
「御意のままに」
「分かったわ」
500人以上の使い魔たちが白い光に包まれて次々と召喚される。
それから僕は、使い魔たちの母乳を約5日間も吸い続けた――。
―――――――――――――――――――――――――――――
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