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僕は、この世界のお金についてフェリアに聞いてみる。
「この世界の硬貨って、冒険者がモンスターを倒して入手した『魔法通貨』を実体化したものだよね?」
「はい、そうです」
「何故、モンスターを倒すとお金が手に入るかはひとまず置いておくとして、そうやって冒険者たちが硬貨を実体化しつづけていけば、この世界に流通するお金が増えすぎてインフレを起こすんじゃないかと思うんだけど……?」
「ご主人様、無知な
僕は、政治経済の授業で習った単語の意味を説明する。
「ああ、こっちの世界には存在しない用語なのか……。僕が居た世界にあった経済用語で市場に流通するお金が増えすぎると物価が上がる現象を差す言葉なんだよ」
「……それは、ここでは物価の変動が起きないからだと思われます」
少し考えてからフェリアが答える。
彼女の言った言葉の意味を考えてみる。
『物価が変動しない世界……そんなものが存在するのだろうか?』
もしかしたら、先物取引のような相場が存在しないから物価変動が起きないのかもしれない。
「農作物が何らかの要因で不作の年にも価格が上がらないってこと?」
「はい、
「どうして、物価が変動しないのかな?」
「おそらく、【商取引】や【工房】があるからではないでしょうか?」
例えば、リンゴを一個【商取引】で購入する場合、銀貨1枚と同じ価格なので、普通の農作物として採れたリンゴが銀貨1枚よりも高くなることはないということだろう。
しかし、十分の一の価格で流通していることに理由はあるのだろうか?
【商取引】の半分の価格でも十分に安いはずだ。
「でも、農作物なんかは、【商取引】で買うよりもずっと安い価格で取引されているよね?」
「それは、庶民の収入と関係があるのではないでしょうか?」
「つまり、食料の価格が上がると餓死する人が出るということ?」
「その通りでございます」
「もしかして、ある職業で得られる給料もずっと変わらないのかな?」
「いえ、お給金に関しては経験や能力によって上がっていくようです」
「ああ、ごめん。そういう話じゃなくて、初任給というか、最初にその仕事に
「それは、あまり変わらないと思いますが、人手不足などで働き手が集まらないときには上がることもございます」
「フェリアって、この家に引き
「
「本って何処に売ってるの?」
「
この世界には、絵本もあるようだ。
【商取引】→『アイテム購入』→『書籍』
そう順に念じてみたところ、『キーワードで絞り込んでください』というメッセージが表示された。どうやら、『書籍』というキーワードだけではヒットするアイテムの数が多すぎたようだ。
『エドの街』と追加でキーワードを入れてみると
―――――――――――――――――――――――――――――
・エドの街ガイドブック【書籍】・・・・・・・・・・・1.57ゴールド [購入する]
・エドの街の発祥~マレビトは実在した~【書籍】・・・1.80ゴールド [購入する]
・エドの街の歴史【書籍】・・・・・・・・・・・・・・2.30ゴールド [購入する]
・地図「エドの街」【書籍】・・・・・・・・・・・・・1.30ゴールド [購入する]
―――――――――――――――――――――――――――――
4冊の書籍がヒットする。
そんなに高くないので、全部買ってみた。
『アイテムストレージ』から、『エドの街ガイドブック』を実体化する。
思ったよりもちゃんとした本だった。日本語の本なので普通に読むことができる。パラパラとめくって見た感じ、『エドの街』の店などが紹介されているようだ。某タイヤメーカーが発行しているガイドブックを
随所に写真が印刷されているのにはビックリした。
その本をフェリアに見せながら、
「ねぇ、こういう写真ってどうやって撮ってるの?」
「そういった本は、【工房】の『アイテム作成』から作れます。それらの写真は、その本の制作者が見た景色を【工房】のイメージで再現したものです」
どうやら、【工房】のスキルで視界スクショのようなことができるようだ。
そういえば、僕がメイド服などの装備を作ったときも記憶から映像が再現されていた。
フェリアの裸体を思い出して本にすることもできるんじゃないだろうか?
この世界のエロ本はそういったものなのかもしれない。
◇ ◇ ◇
『現在時刻』
時刻を確認すると【13:48】になっていた。
いつの間にか、お昼を大きく過ぎている。
「じゃあ、フェリア。外にでて『ゴブリンの巣穴』まで案内してくれる?」
「畏まりました」
僕たちは、『ロッジ』と『倉庫』の『扉』をアイテムストレージに戻して――これは召喚魔法の帰還と同じようなもので、『ロッジ戻す』とか適当に念じれば扉が消えるのだ――玄関へ向かう。
外に出てから、戦闘用の『装備1』に着替える。
フェリアは、家を出る前に軽装の戦闘用装備に換装したようだ。
そして、フェリアが家に施錠するのを待った。
【インビジブル】【トゥルーサイト】【レビテート】【ウインドブーツ】
4つの自己強化型魔術を起動して森の上空へ上昇する。
フェリアの方を見ると、彼女は僕を見て
「では、ご主人様。参ります」
そう言って走り出した。
僕も後に続いて走り出す。
針路は、『コボルトの巣穴』の方角よりも西寄りの方角のようだ。おそらく南西方向だろう。
『コボルトの巣穴』へ行くときもそうだったが、【戦闘モード】を起動していなくても付いて行けているので、彼女も起動していないのだろう。
【マニューバ】
着くまで時間がかかるので、新呪文を試してみる。
【ウインドブーツ】で走るのを止めて、【マニューバ】で飛行し、【ウインドブーツ】をオフにする。【レビテート】は、念のためオンにしたままにしておく。【マニューバ】は、MP消費が激しいので、どれくらい使えるか見ておいたほうがいいだろう。現地に着いてあまりMPが少ないのも問題かと思ったが、今回はフェリアも一緒に戦うので、僕のほうはMPが少なくても問題は無いだろう。今回は、できたら魔法より近接戦闘をいろいろ試してみたいと思っている。
呪文を切り替えるときに速度を
あっという間にフェリアの真後ろまで移動する。危うくぶつかりそうになったので、【戦闘モード】を起動して速度をコントロールする。気配を感じたのか、フェリアが僕を振り返り、少し上昇した。フェリアのスカートが
僕は、彼女の下着をチラ見しながら【マニューバ】で彼女の後を飛行していく。
それから、二十分ほどが経過したところで彼女は急減速をする。
「ぶっ……っごめん……」
「あぁ~ん」
フェリアに近すぎたので、僕は止まれずに彼女のお尻に顔から突っ込んでしまった。
彼女のお尻は柔らかく、僕は痛い思いをせずにすんだ。
僕は立ち上がって謝る。
「ごめんね」
「ご主人様は、謝る必要なんてございません。
フェリアは、
「いきなりぶつかられたら声を上げても仕方がないよ」
「しかし、周囲に敵がいる状況でしたら、致命的な行為です」
「流石にそんな状況なら、二人とももっと慎重に行動してたと思うよ」
僕は、ゴブリン討伐に備えることにした――。
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