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フェリアにゴブリンとの戦闘について相談する。
「今回は、近接戦闘をメインで試してみたいと思うんだよね」
「はい」
「一度に相手をする数を減らすために【ストーンウォール】を使ってみようと思うんだけど、どうかな?」
「上策だと思います」
「巣穴の近くに【ストーンウォール】を設置するのに適した場所はある?」
「はい、巣穴から100メートルほど離れた場所に起伏のない開けた場所があります」
「じゃあ、まずそこに僕とフェリアでV字型に【ストーンウォール】を設置しよう。そしてゴブリンを呼び込んだら、正面を塞ぐように【フレイムウォール】を二重に設置したらどうかな?」
「突っ込んでくるゴブリンに火炎ダメージを与えるわけですね? 感服いたしました。流石、ご主人様です」
「いや、それほどでも……」
「本当に尊敬いたしているのですわ」
彼女は、目をキラキラさせて僕を見る。
『うっ……この信頼が失望に変わったら怖いな……』
そんなことを考えながら、僕は戦闘準備をする。
「ポーションは飲んでおいたほうがいいよね?」
「はい、必要経費と考えるべきです」
『魔力回復薬』と『体力回復薬』を『アイテムストレージ』から取り出して飲む。
ちなみに、これらは最初にフェリアが装備一式と一緒に渡してくれたものだ。これで手持ちのポーションは無くなったので、後でいくつか補充しておいたほうがいいだろう。
そして、フェリアをターゲットにして、
【リアクティブヒール】【グレーターダメージスキン】
と回復系魔術が使えないフェリアに回復系のバフをかける。
「ありがとうございます、ご主人様」
「礼を言う必要はないよ。これは必要なことなんだから。これからは、こういったことに対して礼を言わないでね」
「畏まりました、ご主人様」
【リアクティブヒール】【グレーターダメージスキン】
自分自身にも念のためにかけておく。
【グレート・シールド】【グレート・ダメージシールド】【グレート・マジックシールド】【ウインドバリア】【グレート・ストレングス】【グレート・アジリティ】【マニューバ】
複数の自己強化型魔術を起動する。そして【戦闘モード】も起動する。
ふと、フェリアを見ると、彼女の頭の上に【体力/魔力ゲージ】が見える。
「フェリア、君の頭の上に【体力/魔力ゲージ】が見えるんだけど?」
「はい、使い魔の体力や魔力は確認できますわ」
今まで気付かなかったけど、【戦闘モード】だと、使い魔の【体力/魔力ゲージ】が頭上に小さく見える仕様のようだ。
彼女が使い魔になってから、何度か【戦闘モード】は起動したけど、全然気付いていなかった……。
自分の【体力/魔力ゲージ】を見ると、MPが半分近く減っていた。
――急いだ方がいいだろう。
「じゃあ、案内して」
「畏まりました」
彼女についていくと、前方の切り立った岩肌に穴が空いていて、警備のゴブリンが穴の両側に立っている。
コボルトよりはマシな金属製の胸当てを身につけ、革製の腰巻きとブーツを装備し、頭髪の無い頭には何も被っていない。武器は、腰に短めの剣を装備しているが、盾は持っていないようだ。
僕たちは【インビジブル】で姿を消しているのでまだ気付かれていない。
「フェリア、【ストーンウォール】を設置して。僕もそれに合わせて設置するから」
「はいっ」
『ゴブリンの巣穴』から100メートルほどの距離に大きな石の壁が光と共に現れた。フェリアが【ストーンウォール】の魔術で設置したのだ。
【ストーンウォール】
僕もそれに合わせて【ストーンウォール】のスペルを起動する。
視界に設置位置を示すガイドが見える。
彼女が設置した【ストーンウォール】に『ゴブリンの巣穴』の方に向かってVの字になるように【ストーンウォール】を設置する。
すると、【ストーンウォール】の魔術で作成された石の壁を見たゴブリンたちが騒ぎ始めた。
僕はVの字の真ん中あたりに着地し、【インビジブル】を解除する。彼女も隣に降りて来て、【インビジブル】を解除したようだ。
「今度は、僕が先に【フレイムウォール】を設置するから、フェリアも適当なタイミングで設置して」
「畏まりました、ご主人様」
僕たちを視認したゴブリンたちがこっちに向かって走ってくる。
例によって【戦闘モード】を起動した僕にはその光景がスローモーションのように感じる。
【フレイムウォール】
【フレイムウォール】の魔術を起動し、V字型の空いた部分に
ゴブリンの先頭集団が炎に包まれる。
「ギャッ」
悲鳴を上げるゴブリンも居るが、そのまま突き抜けてくる。
ゴブリンのHPを確認する方法が無いので、どれくらいのダメージを与えられたかは分からない。
小型種同士で比較した場合、ゴブリンは、コボルトよりも横幅があるので一回り大きいように見える。青銅色の肌に少し尖った耳、潰れたような醜悪な顔をしていて、ゲームなどに出てくるゴブリンのイメージに近い。
更に接近してくるが、ゴブリンの動きはスローモーションのように見えるので焦れて、こちらから【マニューバ】で接近して抜刀斬りを行う。コボルトの時と同じように、刀の剣先に軽い感触を感じたと思ったら、斬られたゴブリンが白く光って消滅する。
そのまま、飛行しながら、ゴブリンたちを斬っていく。【マニューバ】と近接戦闘の組合せは上々で、高速で飛行しながら、敵を
突然、【フレイムウォール】の炎の向こうが見えなくなる。フェリアが僕の【フレイムウォール】の更に向こう側に【フレイムウォール】を設置したようだ。【フレイムウォール】一枚なら、ぼんやりと炎の向こう側が見えたが、二枚並べるとその向こう側は
【レーダー】
僕は、【レーダー】のスペルを起動して、どの位置から敵が出てくるか確認する。
まるでモグラ叩きのような要領で炎の壁から出てくるゴブリンを【マニューバ】で左右に高速移動しながら斬り捨てていく。フェリアは、後方からそんな僕を見ているようだ。おそらく、手出しする必要がないと感じているのかもしれない。どちらかと言えば、回復系魔術を使える僕が後衛を務めたほうが
それから、十分以上が経過した。その間に倒したゴブリンは、二百体を軽く超えたと思う。
それは、レーダーを見て次のゴブリンが出てくるポイントへ加速した瞬間だった。
――突然、僕の視界が真っ暗になる。
転倒して地面を転がる感触があったと思ったら、そのまま壁に激突した。
何故か痛みがない。あまりにも大きな怪我を負った場合には痛みを感じないという話も聞くが、その状態なのだろうか……?
「ご主人さまぁーっ!!」
フェリアの叫ぶ声が聞こえる。
僕は、地面に倒れたままの状態で視界の左上に表示されている【体力/魔力ゲージ】を確認する。
HPは、全く減っている様子がない。しかし、MPはほぼゼロで1ドットだけ表示されたような状態だった。見ているとほんの少しずつ魔力ゲージが回復しているのが分かる。現在起動している自己強化型スペルを確認すると【リジェネレーション】と【メディテーション】だけになっている。他のスペルは、僕のMPがゼロになった時に解除されてしまったようだ。いつの間にか武器の刀も手放してしまっている。
僕が起き上がろうとしていると、近くに居た大型のゴブリン――おそらく、ホブゴブリンだろう――が金棒――『鬼に金棒』で有名な武器だが、正確には『
――ガキンッ!
と音がして兜をかぶった頭に軽い衝撃を感じた。体力ゲージを見ると、HPは全く減っていない。
僕を攻撃したホブゴブリンを見ると既に攻撃できる間合いまで接近していたフェリアが刀を振って斬ったところだった。白い光につつまれて、ゴブリンの大型種が消え去る。
「ありがとう」
僕は、彼女に礼を言って立ち上がる。
「心臓が止まるかと思いましたわ」
「ごめん、魔力消費のことを忘れていたよ。でも、全くダメージを受けていないようなんだけど?」
「おそらく、ダメージスキンで吸収されたのでしょう」
「戦闘中にMPが切れるとは思わなかったよ……」
「
「いや、フェリアは関係ないよ」
「いいえ、使い魔からも主人の体力や魔力は確認できるのです……
「気にしないで。何ともなかったんだし」
「申し訳ございませんでした」
「謝らないでよ……」
「……はい」
僕は、フェリアと自分に【グレーターダメージスキン】と【リアクティブヒール】をかけていた。そのため、転倒して地面を転がり、【ストーンウォール】に激突したときのダメージとホブゴブリンに攻撃されたときのダメージを吸収してくれたようだ。こういうバフ型のスペルの確認もできるのではないかと心の中で『バフ確認』と念じてみる。
【リアクティブヒール】と【グレーターダメージスキン】がかかっているのが分かる。まだ、【グレーターダメージスキン】は切れていないようだ。
この世界で『バフ』という用語が通用するとは思えないので、念じるときは自分勝手なイメージで良いようだ。
『どれくらい耐えられるか見ておいたほうがいいかな?』
僕は、落とした武器を装備し直すために『装備1換装』と念じてから、ゴブリンの集団へ向かい歩いていく。
「ご主人様?」
僕の行動を不自然に感じたのだろう、フェリアが僕に問いかけてくる。
「【グレーターダメージスキン】がどれくらい持つか試してみる」
そう言って、ゴブリンたちに近づいていく。
フェリアも僕の後に付いてくる。僕の背後に近づくゴブリンを警戒するつもりのようだ。
ゴブリンたちは、僕に近づいてきて攻撃してくる。僕の目には、ゴブリンたちがスローモーションで近づいて来て、スローモーションで攻撃してくるように見える。目を閉じ、体力ゲージに注目する。ちなみに【体力/魔力ゲージ】も【工房】などの表示と同様に目を閉じていても確認が可能だ。刻印関係の表示は、目を閉じていても見える仕様らしい。
頭や胸などに軽く叩かれるような衝撃をいくつも感じる。何十発か攻撃を喰らったときにHPに変化が起きる。ほんの少し短くなった後にすぐ回復しているようだ。『バフ確認』と念じてみると、【リアクティブヒール】のみになっている。
【リジェネレーション】の効果と被っているようなので、【リジェネレーション】を強制的にオフにする。すると、HPの減り方に変化が起きる。先ほどは、即座に回復していたように見えたが、今はHPが5パーセントほど減ってから断続的に回復するようになった。そんなことを八回繰り返した後に5パーセントを超えてHPが減っても回復しなくなった。『バフ確認』と念じてみると、今現在、僕には何のバフもかかっていないことが分かる。
【リジェネレーション】【グレート・シールド】【グレート・ダメージシールド】
僕は、三つの自己強化型スペルを起動した。
体力ゲージを確認するとHPが9割を切っていたので、精霊系の回復魔法を発動して回復を行う。
【エレメンタルヒール】
回復系魔術の回復魔法と違って、一瞬で回復しない代わりにHPがMAXになると自動的に切れるため、マナ効率が良いと思う。
僕のHPは、ゴブリンたちの攻撃を受けながらでも急速に回復していく。30秒もしないうちにHPが満タンになる。
そして、僕を攻撃していたゴブリンたちが勝手に消滅していく。【グレート・ダメージシールド】の効果で僕を攻撃をしたときにダメージを受けてその累積ダメージで死んでいるようだ。元々、【フレイムウォール】の二段重ねである程度HPが減っているはずなので、【グレート・ダメージシールド】の効果だけで死んでいるわけではない。
振り返ってフェリアをみると、僕の後ろで接近してくるゴブリンたちを斬り捨てている。彼女の刀がゴブリンに触れた瞬間にゴブリンは白く光って消滅する。彼女の刀の動きは、ゴブリンの攻撃ほどスローには見えない。これがレベルの高い冒険者と格下のモンスターの戦いということだろう。
そうこうしているうちに、僕たちの周りのゴブリンは、ホブゴブリンの比率が高くなってきた。また、装備の違うゴブリンも出てくる。弓を持ったタイプと杖を持ったタイプのゴブリンだ。
【グレート・マジックシールド】【ウインドバリア】
念のため対抗魔法をオンにしておく。MPを見ると10パーセントちょっと回復しているようだ。これからは確認を
その直後に僕に向かって細長い炎が飛んでくる。飛んできたほうを見ると杖を持ったゴブリンが居る。ゴブリン・シャーマンだろうか。【フレイムアロー】で攻撃してきたようだ。【戦闘モード】を起動した僕にも魔法は結構なスピードに見える。しかし、避けようと思えば避けられる速度だ。試しに喰らってみる。【フレイムアロー】は、僕に当たる前に消滅したように見えた。レベル1の【フレイムアロー】では、【グレート・マジックシールド】を突破する威力が無いようだ。
弓に射られた矢も飛んでくるが、僕の体に当たる前に方向を変えて
ゴブリンの攻撃が全く脅威にならないことを確認した僕は、フェリアのほうを向いて座る。
地面に座り込んだ僕を見たフェリアが目を見開いて驚く。
「ご主人さまっ! 何をなさっているのですか!?」
「いや、ダメージを全く受けないから、フェリアの戦いぶりを観戦しようかと思って……」
「そんなことが……」
彼女は、僕のほうをマジマジと見る。
僕の【体力/魔力ゲージ】を確認しているのだろう。僕が彼女の【体力/魔力ゲージ】を確認できるように彼女もまた僕の【体力/魔力ゲージ】を確認することができるのだ。
「じゃあ、フェリア。残りのゴブリンどもを
「ハッ!」
主人らしく命令してみると、彼女は軍人のような短い返事を返した。
僕は、フェリアとゴブリンの戦いを観戦する。
彼女がステップを踏む度に短いスカートが
僕より強い彼女にとっては、ゴブリンなんて雑魚以下だろう。ゴブリンは、次々に数を減らしていく。
フェリアは武器だけではなく、蹴りも使って戦っている。ゴブリンを刀で斬り伏せた後などに背後の敵に蹴りを見舞っているのだ。蹴られたゴブリンは、吹き飛んで他のゴブリンにぶつかったりしている。中には、蹴られた瞬間に白く光って消滅するゴブリンまで居る。【フレイムウォール】でダメージを受けているとはいえ、ゴブリンを蹴り殺すことができるほどの威力があるようだ。
フェリアは、10分とかからず残りのゴブリンを掃討してしまった――。
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