2―2

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 僕たちは、一緒にお風呂に入っていた――。


 僕は、湯船の中で考えていたことをフェリアに打ち明けてみる。


「そろそろここを出て他のモンスターと戦ってみたいんだけど、どうかな?」

「ええ、今度は、コボルトと戦ってみましょうか?」

「でも、コボルトは数が多いから危険じゃないの?」

「今のあなたなら大丈夫だと思うわ」

「分かった。じゃあ明日コボルト狩りに行こう」

「じゃあ、そうしましょう」


 僕は、湯船の中で体育座りをしている。

 その正面にフェリアが横座りで湯船に座っていた。

 フェリアの大きくて形の良い乳房が湯船から半分くらい出ている。


『あのおっぱいを吸って、母乳を飲んでたんだ……』


 そう考えたら、顔から火が出そうになった。


【戦闘モード】


 フェリアの胸から視線を逸らして、【戦闘モード】を起動する。

 一瞬で冷静になった。【戦闘モード】を解除する。


「どうしたの?」

「いや、何でもない……」


 ――ザバッ


 フェリアが立ち上がった。


「わっ!?」


 僕は、慌てて視線を逸らした。


「ふふっ……何をいまさら恥ずかしがっているのよ?」


 ――ザバ、ザバ、ザバ、ザバ……


 フェリアが湯船を移動して僕の背後に来た。


 ――ザバッ


 腰を下ろして、僕を背後から抱き寄せた。

 ムニュとした感触が背中に当たり、僕はドギマギする。


「まずいよ……」

「どうして?」

「夫婦でも恋人でもない男女がこんな……」

「ふふっ、可愛い……」


 ギュっと力を入れて背後から抱かれた。


「…………」


 僕は、目を閉じた。


【戦闘モード】


 そして、再び【戦闘モード】を起動して誘惑に耐える。

 彼女がどういうつもりなのか知らないが、なし崩しに彼女とそういう関係にはなりたくない。


 ――僕は、フェリアの事が好きなのだろうか?


 自分に問いかけてみる。


『フェリアは、僕には不釣り合い過ぎる……』


 信じられないくらいの美人だし、僕好みの容姿でもあった。

 容姿の好みは、人それぞれなので、美人の定義にもいろいろあると思う。

 長い髪の女性が好きな人も居るだろうし、ショートカットの女性が好きな人もいるだろう。

 更に背丈やプロポーションなども好みには個人差がある。

 そんな中でフェリアの容姿は、僕にとってはストライクゾーンのド真ん中だった。


 ――僕は、水谷のことが好きだったんじゃないのか?


 ショートカットで快活な水谷とロングヘアで冷静なフェリアでは、タイプが全く違っているように思う。

 どちらにも共通しているのは、世話焼きお姉さんタイプという点だろう。


 ――僕は、そんなに気の多い奴だったのだろうか……?


 いや、普通の男ならフェリアの誘惑に耐えられるはずがない。


「ねぇ? 何を考えているの?」


 フェリアが僕の耳元で囁いた。


「どうして、フェリアはこんなことをするのかなって……」

「どうしてだと思う?」

「僕をからかって、反応を楽しんでいるんでしょ?」

「ふふっ、そうかしら……?」


 フェリアは、彼女の身体に背後から抱かれている僕の体を回転させて、僕の顔を自分の胸に押しつけた。


「うぷっ……」

「さぁ、もっと強くなりなさい……」


 僕は、フェリアから再び授乳された――。


 ◇ ◇ ◇


『装備1換装』


 湯船から上がった僕は、洗い場で装備を換装した。

 そして、引き戸を開けて浴室から出る。


 脱衣所の中央に移動する。

 そして腰に帯びた『ミスリルの打刀』を居合い斬りのように振ってみようと思った。

 刀の柄を掴んだ瞬間にどう身体を動かしたらいいのかが分かる。おそらく【武器】の刻印による【知識魔法】のおかげだろう。


 ――ビュッ、ドドンッ!


 振った瞬間、風切り音の後に爆発音がした。

 どうやら剣先が音速を超えたためにソニックブームが発生したようだ。

 前方の壁には亀裂が入っている。


『こわっ……』


 もし、人が近くに居るときにやっていたら殺人事件が起きるところだった。

 壁を傷つけてしまったので、刀を収めてフェリアのほうを向いて謝った。


「ご、ごめん」

「…………? 何が?」

「壁を壊しちゃって……」

「問題ないわ。この家は、【工房】のスキルで作られたマジックアイテムのようなものだから。ほら、もう修復されているわ」


 もう一度、壁を見てみると、壁の亀裂は跡形もなく消えていた。


「凄いね」

「あなたも【工房】のスキルを持っているのだから、いつでも作れるわよ」

「そうなんだ、今度、暇なときにでも作ってみるよ……でも、家を造っても持ち歩けないしなぁ……」

「持ち歩くことができるものも造れるわよ、ほらっ」


 フェリアが腕を軽く振った先に今まで脱衣所の中には存在しなかった扉が現れる。

 彼女は、その扉のドアを開けて僕に入るようにうながした。

 入ってみると中は広い物置のような空間になっていた。床はフローリングのような木製で壁や天井も木でできている。天井の4箇所に魔法の照明が設置されていて、柔らかい光が室内を照らしている。

 床には、何かが入った袋がいくつもあり、他にも布団や毛布などが畳まれて置いてある。


「ここは?」

「あたしの『倉庫』よ」

「ここに荷物を入れて、何処かに運んだりできるの?」

「その通りよ」

「へー、便利そうだね……あの、そろそろ服を着てくれないかな?」


 ずっと裸だったフェリアに服を着るよう促す。


「ふふっ、分かったわ」


 フェリアの身体が一瞬白い光に包まれて、出会った時の服装になった。

 彼女の装備は、最初に出会った時と同じもののようだが、馬に乗っていたときとは違うみたいだ。大きな違いは、マントを装備しているのと胸当てが革製ではなく白い金属製なのと、黒っぽい色のスカートも丈が膝下くらいまであってスリットは右足側にしか入っていない。馬に乗る時には軽装で短いスカートのほうが適しているのだろう。


 僕たちは、彼女の倉庫から出て、玄関近くの広い部屋へ移動した――。


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