ワールドSNSへの認証に失敗しました。

ちびまるフォイ

カクヨムのログインに失敗しました

"パスワードがちがいます"


「……あれ?」


「お客様、SNSログインをお願いします。

 SNSログインしてないお客様にはいくらコンビニといえど

 犯罪防止のため販売することはできません」


「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいね」


"パスワードがちがいます"

"パスワードがちがいます"

"パスワードがちがいます"

"パスワードがちがいます"

"パスワードがちがいます"


"もうあきらめろよ"


「あれ!? なんでログインできないんだ!?」


「お客様、後ろをご覧ください」


レジの店員に促されて振り返ると俺の後ろに長蛇の列ができていた。

これ以上モタつけば命はない、と言うほどに凶悪な顔つきで。


買い物を諦めて公園に向かった。


世界の犯罪防止用にワールドSNSへの登録がはじまってから

1週間ごとにパスワードの変更が求められていた。


"公園に入るにはSNSへのログインが必要です。

 認証できない不審者を公園に入れることはできません"


「ここもかよ!!」


ゆっくりパスワード解読作業を進めようと思ったがここじゃダメ。

しかたなく自宅に帰ってパスワードの総当たりすることに。


今じゃどこもワールドSNS認証で鍵管理もしている。

幸いだったのは俺の自宅が昔ながらのボロアパートなので、

危うく認証できず締め出されることはなかった。アナログ鍵ばんざい。


「さて……パスワードなんだったっけなぁ。

 あ、そうだ! 再発行しよう!


ワールドSNS管理局に連絡する。解決策は簡単だった。


『かしこまりました。再発行用のアドレスをメールで送りました』


「いや、メール開くにもSNS認証が必要なので確認できないんですよ」


『あなただけの秘密のヒントがあります』


「おお! 助かります! ナイス、過去の自分!」


『こめこめこめこめこめ……、です』


「はあああああああ!? ぜんっぜんわからん!!」


どんだけお米食いたかったんだよ俺。

ヒントにするならもっと直接的なものにしておけよバカ。


『パスワードはわかりましたか?』


「いえ、まったく……どうしたらいいでしょうか?」


『自己責任です。じゃ』


連絡はそこで途切れた。

しょうがないので思いつく限りのパスワードを入れていると電話が鳴った。



『ちょっと! どうして私のメッセージ無視するの!!

 既読すらしないなんて信じられない! 恋人じゃなかったの!?』


「え、ええ!? いや実はSNS認証できなくって……」


『そんなウソ通じるわけないでしょ! もう別れる!!』


ヒステリックに別れを告げられてしまった。

キャッチで次の電話が入る。


『どうも、上司です。君ね、仕事の連絡に返信よこさないなんてどういうつもりかね?』


「ちがうんです、SNS認証ができなくて……」


『SNSパスワードひとつ管理できない人間は社会に必要ないよ。

 君、明日から来なくていいから』


会社からは唐突に戦力外通告されてしまう。

こっちから弁解の電話をするにはSNSログイン必須なので、謝ることもできない。


一度電話を切られたら最後、こちらから連絡する手段はない。


「ま、まずい……まずいぞ……このままじゃ本当に生きていけない!

 買い物もできないし、連絡もできないし、お金もおろせない!!」


パスワードひとつでここまでピンチになるなんて。

ヒントもまるで役に立たないし。


とにかく自分の記憶をたどるしかない。


うんうんうなりながら記憶をさかのぼっていると、

つけっぱなしのテレビからは最新の研究所が特集されていた。


『この、ハイスペック研究所ではタイムマシンがついに開発されたそうです!

 さっそく見に行ってみましょう!』


「これだ!!!! これを使おう!!」


持っている全財産を手にテレビで見たタイムマシン研究所へやってきた。


「お願します! 過去に戻らせてください!」


「まぁ、これだけお金をもらえれば断る理由はないけど……。

 過去に戻ってなにをするのかにもよるよ」


「自分の入力したパスワードを確認するんです!!」


「……想像以上にバカバカしい理由だった。許可しよう」


研究所のお墨付きを手に入れるために全財産を費やした。

タイムマシンを起動して1週間前の自分が入力したパスワードを確認しにいく。


タイムパラドックス防止用に、自分がいる場所では俺の体は透明化していた。


「ここが1週間前の俺の部屋か……」


過去の俺を待っていると、通知を受け取った自分が部屋にやってきた。


"パスワードの更新をお願いします"


「あ、そうだった。パスワード更新しなくちゃ」



過去の俺はパソコンの前に座ってパスワードの新登録をし始めた。

やっとパスワードが確認できる。入力画面を覗き見た。



パス:********



「って、マスクされてて見えねぇぇぇ!!!!」


叫んだ瞬間に現代へと強制的に戻された。


「必要以上に過去の改変が起きそうな場合は、

 セーフティとして強制的に戻す装置が組み込んでいました。

 あんた、過去でいったい何をしたんですか?」


「いや……思わず叫んじゃいました……」


全財産使い尽くしたあげくに収穫ゼロ。完全に終わった。


パスワードが見えなくっても過去のヒントの入力理由とか

メモしているのがあったりとかを過去で確認しておけばよかった。

今となってはなにかも遅い。


「なにが"こめ"だよ……こっちはお米も食えやしないのに……」



家に戻ると、大家さんがカギを新しくしていた。


「ああ、ちょうどよかった。うちも防犯対策のために

 ワールドSNS認証のオートロックにしたよ!」


「えええええ!? このタイミングで!?」


ついに家にも入れなくなってしまった。

SNSにログインできないばかりにホームレスだなんて。


「ああ……空がきれいだな……ははははは……」


人生が終わる音が聞こえた。

最後にいい加減なパスワードを入力した。




"認証に成功しました"




「うそぉぉぉ!?」


あれだけしらみつぶしに試してダメだったのに成功した。

自分でも信じられなかった。



「こめこめって……パスワードは"********"そのままだったんかぃ!!!」

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ワールドSNSへの認証に失敗しました。 ちびまるフォイ @firestorage

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