遺失物係

@Simon4444

プロローグ

ヘッドホンを首にかけた青年が、白く四角の布に包まれた箱を持って立っている。

拓真はやれやれと思った。骨壷の忘れ物は結構多い。すぐ連絡がついて、取りに来られることもあるが、中にはわざと置いて行ったと思われるものもある。拓真には忘れ物を手にした時に、景色が見えることがある。あるいは空気感を感じることがある。

そのものに残っている、想いが伝わるのだ。だからこそ、拓真は遺失物係を天職だと思う。

「東京から乗って来た、30代くらいの人が忘れ行ったんですよ。骨壷のなんて、身内のものでしょうにねぇ。探していると思うのでお願いします。」とその青年は見かけによらず丁寧にその箱を差し出した。

「ありがとうございます。ここにお名前お願いします。ではこちらで確かにおあずかりいたします。」拓真は事務的にその忘れ物を受け取った。その瞬間、優しく笑う男性と、真っ赤な富士山が見えた。それはとても暖かく、それでいて頑なな意思を持っているように思った。

「多分、どなたも取りに来られないでしょうね。」拓真は箱に向かって心の中で話しかけた。

「わかりました。ここで一緒に過ごしましょう。」そう言って拓真はその忘れ物を奥のロッカーに運んだ。この忘れ物とは長い付き合いになりそうだと思った。

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