遺失物係
@Simon4444
プロローグ
ヘッドホンを首にかけた青年が、白く四角の布に包まれた箱を持って立っている。
拓真はやれやれと思った。骨壷の忘れ物は結構多い。すぐ連絡がついて、取りに来られることもあるが、中にはわざと置いて行ったと思われるものもある。拓真には忘れ物を手にした時に、景色が見えることがある。あるいは空気感を感じることがある。
そのものに残っている、想いが伝わるのだ。だからこそ、拓真は遺失物係を天職だと思う。
「東京から乗って来た、30代くらいの人が忘れ行ったんですよ。骨壷のなんて、身内のものでしょうにねぇ。探していると思うのでお願いします。」とその青年は見かけによらず丁寧にその箱を差し出した。
「ありがとうございます。ここにお名前お願いします。ではこちらで確かにおあずかりいたします。」拓真は事務的にその忘れ物を受け取った。その瞬間、優しく笑う男性と、真っ赤な富士山が見えた。それはとても暖かく、それでいて頑なな意思を持っているように思った。
「多分、どなたも取りに来られないでしょうね。」拓真は箱に向かって心の中で話しかけた。
「わかりました。ここで一緒に過ごしましょう。」そう言って拓真はその忘れ物を奥のロッカーに運んだ。この忘れ物とは長い付き合いになりそうだと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます