純と慚愧 ─光の檻・過去編─

黒須カナエ


この私の

汚れた血を受け継ぐものを

ここに近づけぬよう

その他の何者にも侵されぬよう


どうか お護りください



これで 金輪際聖域と石は守られた



この身の罪を この血で贖うことができた

それだけが

せめてもの私にとって小さな救いだ


こうして薄れる意識のなかで

心残りといえば

壊すばかりの人生で

何一つ有益な物を産み出すことのなかったことか


あれだけ大事にした最愛の弟すら

今ではバラバラになって

一部はこの私の体内にある


それでも

その身体の大半は

誰の手にも触れることのない、

どんな穢れも侵さぬ場所に今は静かに横たわっている


もちろん


私も二度と触れることなどできない場所だ




ひどいことをした


ひどいこと などでは到底すまないことだ


そんな事はずいぶん前からわかっている





こうなることとは、思わなかった

一体何から歯車が狂った


私が弟の兄として生まれた時から狂っていたのか



分不相応を欲したから 叶わなかったのか

それでもすくなくとも平穏でいられたあの頃が

思い出せばすぐ手に触れることができそうなほどに


今目の前に去来している





美しくキラキラと輝いては

永遠に終わらぬ回り灯籠のように

何度も何度でも繰り返す



一体何が私を狂わせた

ああ


ああ


今更


悔いたとして嘆いて暴れても



もう、身体ももつまい

この川を枯れぬ毒で染めて

最期の仕上げだ



誰より美しい心をもった私の弟と、

弟の愛した 眩しいほど純潔な姫の為に




私は


この世の誰も切り得ぬ

堅牢な 結界となろう

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