60話 異世界ハーレム

「ここが『カイタイの岩山』か」


 岩山というので、クガン領のような場所をイメージしていたのだけれど、山というほど高くはない。精々、10メートルほどの段差があるだけだ。

 俺的には採掘場って言われた方がピンとくる。


「で、大将。今日に向けて、なにかいい作戦は思い付いたのか?」


 これから始まる戦――『旗取り』に向けて、待ちきれないとケインが体を伸ばしながらカナツさんに聞いた。

 俺が〈戦柱モノリス〉の前でカナツさんと話してから三日。今日がメイル領との戦を行う日であった。

 この三日間。

 やっぱり、カナツさんは何をしているのか、日中はおろか、夜中も天守閣に戻ってくることはなかった。それだけ、今回の戦に気合を入れていると、俺や部下たちも各々で出来ることをやってきた。


 俺も自分の訓練を頑張った。

 といいたいけれど、どれだけ俺が戦に向けて身体や技術を鍛えようとも、たかが知れている。

 だがら、『経験値』としての業務を全うした。

 サキヒデさんもカナツさんと同様に、姿を見せなかったので、自分の意思でカラマリ領の『経験値』になり続けた。

 結果、俺の分身は現在は4人しかいないのだけど。


「まあ、そうだね。取りあえず、私達がそれぞれ隊を組んで動こうかと思ってるよ? ね、サキヒデ!」


「はい。今回は各領16人による『旗取り』です。なので、アイリさんを除く、我々主力が隊長となり、4人一組の隊を組んで動こうかと思います」


「おお! フォーマンセル!!」


 小隊とか、憧れているけど、現実では組むことがないからな。

 その響きだけで興奮するけど、まあ、俺がそこに入ることはないだろう。訓練していても、こんな限られた人数に、俺が入る余裕はない。


 サキヒデさんが名前を呼んで行く。

 まずは、カナツさんの元に3人の兵士が付く。

 サキヒデさん、ケインと振り分けられていく中――俺の想像もしていなかったことが起こった。


「そして、クロタカさんの隊には――リョータさん。あなたに入って貰います」


「……」


 そっかー。

 俺、クロタカさんと同じチームか。

 出来れば、ケインかカナツさんが良かったなー。


「って、俺ですか!?」


「はい。あなたです。これから戦なのですから、話くらいは聞いていてくださいよ」


「あ、その、聞いてたんだけど、理解できないと言いますか……」


 そう言うことは事前に通達して貰っていていいかな?

 いや、まあ、カラマリからでた兵士たちは俺を除くと15人しかいないから、「おかしいなー」と思っていたんだけど。

 でも、そこは俺がカウントされているとは思っていなかった。

 後で、アイリさんが助けに入るための枠だと勝手に考えていた。

 まさか、自分が入ることになるとは。


 これ、俺が戦を見たいってついてこなければ、どうするつもりだったんだろう?


「おお! リョータも戦に出るのか! 初めてだから緊張すると思うけど、頑張れよ! いやー、一緒に戦出れるなんて、嬉しいな!」


「あ、ありがとう」


 ケインが頑張ろうぜと俺の背中を叩く。

 一緒の戦とは言え、俺が選ばれたのはクロタカさんの隊だ。4人のうち、残りの二人は名前を呼ばれていなくても、自分がクロタカさんと同じチームだと理解しているのだろう。

 二人で地面に蹲って震えていた。

 うん。

 気持ちは分からなくもない。


「よろしくね、リョータ」


「はい。不甲斐ないとは思いますが、出来る限りのことは……、やらせて貰います」


 こんな俺でもいないよりはマシだろうと、クロタカさんに挨拶を済ませる。

 人数の振り分けは終わった。

ここからが作戦の伝達だった。

 4組に分かれてどうするのか。

 それをカナツさんが話し始める。


「一組が『旗』を持って戦ってもらうことになるんだ。一番狙われることになる、重要な役割だよね」


 だろうな。

 4人でメイル領の攻撃を防がなければならないのか。

 一人が旗を持って戦うのではなく、人数を増やして防御性を高めたというわけか。その分、相手を攻める人員が少なくなるが、守りも大事か。


 そうなると、この一番の重要な役割はカナツさんかサキヒデさんが担うだろう。

 元より、ケインとクロタカさんは、前線で切り込んでいく性分だ。

 何かを守るなんて、明らかに向いていない。


「その仕事を――クロタカ隊にやってもらいたいんだ」


 向いていないのに――大将は俺達チームを任命した。

 百歩譲って、俺がいなければまだわかる。

 でも、この隊には俺がいるんだぜ?

 いくら何でも無謀ではなかろうか。


「うん、僕に任せてよ」


 しかし、俺が抗議をするよりも早く、クロタカさんが受け入れてしまった。

 4人で守って12人で攻める。


 その作戦が決まり、後は各隊でどうするか各自が相談していると――、


「やぁ、待たせたね。って、女性は一人だけか。まあ、戦う身としては、美しい花は少ない方がいいんだけど」


 そんなキザな台詞と共に、対戦相手であるメイル領が現れた。


「……」


 一人の男を中心に、女性たちが群がっている。

 両腕に華。

 腕どころか背中にも、肩にも体の全てを女性が触れていた。

 なにこれ?

 ハーレムか?

 メイル領の『女性だけ』ってこういうことなの?

 俺はイメージと違った相手に呆気に取られる。

 ……ん?

 この男の人――どこかで……?


 中心にいる男。

 遊び歩いているからか、浅黒く焼けた肌。

 女性に好かれそうな渋い顔立ち。

 いい年をした男性であるのだが、黒いロングスカートに白いジャケット。

 髪も薄めの金色だ。


「……あれ、そこのお前。俺と会ったことないか?」


 会ったことがあると、相手も思ったのか、女性がカナツさんしかいないと見渡していた目を俺で止めた。

 この声と顔。

 俺は思い当たる人物を一人知っている。

 でも、こんな派手な格好していなかったんだけどな。


「ひょっとして――諏訪さんですか?」


「おお。俺の名前を知っているってことは、お前は俺と一緒にキャンプに来ていた奴じゃないか!!」


 異世界の女性陣に囲まれた男こそ、俺と同じ異世界人――諏訪(すわ) 光太郎(こうたろう)さんだった。

 でも、俺が最後に見た時と、その格好は大きく変わっていた。

 38歳の大人だ。

 しかも、そこそこの役職についている。

 故に神の色を金色にはしていなかったし、ロングスカートを履いてもいなかった。元々、深く付き合っていなかった俺は、髪色と服装だけで、誰か判断できなくなってしまった。

 だが。

 だが、しかしだ。

 俺はこの世界に来て、髪の色を染めたりもしないし、服装も分身が常に、この世界に来た時と同じ服装で生み出されるので、現実と同じ格好をしている。

 それなのに、諏訪さんは俺を判別できていなかったぞ?

つまりは、その程度の付き合いしか、俺達にはないのだった。


「あ、えーと。お疲れ様です」


 中途半端な顔見知りにどう挨拶すべきか。

 大体、俺、キャンプ地で初めてプライベートであった位の関係だもんな。職場で挨拶をするように、俺は深く頭を下げた。

 そんな俺に向かって、


「ここは職場が違うんだ。職場どころか世界が違う。だから、畏まるなよ。それに、そんな風に挨拶されると、俺が現実でも慕われたことがバレちゃうじゃないか」


 諏訪さんはわざとらしく、謙虚に頭を書く。

 だが、その視線は「俺は凄いだろ」と周囲にいる女性たちにアピールしていた。照れたような諏訪さんの態度に、周りの女性たちが「キャー」と黄色い声を上げる。

 アイドルのような扱いに、俺はどうすべきか悩むが、それ以上に困ってるのはカラマリ領の面々だった。


「どうなってんだ、これ?」


 変わり果てたメイル領の状況に、ケインの表情が固まっていた。

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