56話 異世界人たちの情報②
俺が出会った三人の説明はしていたが、そう言えば、残りの二人はまだ話していなかったか。
戦があったり、他の異世界人がいることを知ったりと、ここ最近は忙しかったもんな。
「えっとですね、二人いるうちの一人は、同僚です」
池井さんと同じく、俺と同じ年に入社した男――良木(らぎ) 竜哉(りゅうや)。
良木の特徴は言うなれば――DQNだ。高校時代にイケイケのグループに所属していたからか、兎に角、口が上手いし、ゴマをする。
しかも、部活は野球部だったようで上下関係も完璧だ。先輩や上司に時折ため口で話すも注意されない。
……いや、そこまでいくと、もはや上下関係はない気がするのだけれど、先輩も含めて文句を言う人間は職場にいない。
先輩と一緒になって俺を連れまわした男。
だが――何でだろうか。俺は良木に対して、先輩ほど感謝を抱かない。それは同僚ということで、俺が勝手にライバル視しているだけなのかも知れないが、とにかく、俺は良木を苦手としていた。
でも、まあ、少なくとも社会人になってから、俺の変化に多少関わっていることは事実だな。
そして俺達がキャンプをした時に、一緒に行動していた最後の一人。
それは、俺達の職場の上司――諏訪(すわ) 光太郎(こうたろう)だった。
ハッキリ言って、俺はこの人を何故、先輩たちが同行を許可したのか不思議で仕方がない。
年齢も先輩から見ても10歳以上離れているし、部署も違う。俺も何回か話題に上がっているのを聞いただけで、諏訪さんと直接話したことはこれまで、一度もなかった。
38歳。
年中日に焼けたような朝黒い肌と、渋い顔つきは年下の女子から人気が高いようだ。だが、少しでも彼の素性を知っているモノならば、彼に近づくことはしないだろう。
何故ならば、諏訪さんはとにかく『女好き』なのだ。
月に一度は違う女性を連れて歩いていると噂されるほどのモテ男でありプレイボーイだ。短く切りそろえた髭を触りながら、人を値踏みするような目で見るのが印象的だ。
諏訪さんがどこで、俺達がキャンプをすると聞きつけたのか。
いや、当初は全く興味を示していなかったと言うことなのだが、『池井さんが来ること』と『土通さんの写真』によって、興味が出たのだろうか。
強引に先輩と良木に頼み込んで、同行してきた。
まあ、同行するのは、嫌だけれども他の人が同意しているなら何も言わないさ。でもさ、当日になるまで連絡がないってどういうことよ。
しかも、俺を一番に迎えに来るってさ。
モテる男は良い車に乗る。
そんな持論を持っているようで、俺ならば購入することすら検討しない、外車に乗って颯爽と現れた。
それから、他の4人と合流する間、ひたすら土通さんと池井さんの好きなモノや、タイプなどを聞かれた。
俺はあくまでも情報源。
それ以外の何物でもないと突きつけられている気がした。
そっか。
その人も、今はこの世界にいるのか。
自分から進んで会いたいとは思わないけど、でも、この世界では同じ異世界人として協力しなければ行けないだろう。
「うーん。やっぱり、それだけじゃ分からないよね」
まだ見ぬ二人の力を想像していたのだろうか。アイリさんは「ムムム」と唸りながらイメージを膨らませていたが、直ぐに諦めた。
〈
無から有を生み出す時点で、選択肢が広すぎる。
俺達の力と性格に関係性があれば、力の解析に繋がったのだろうが、少なくとも俺を含めた4人に与えられた力に、統一性はなかった。
先輩は、大好きなヒーローと同じ属性だと喜んでいたけれど、それは恐らく偶然だろう。
だって、俺、別に経験値が好きでもないし、ゲームだってそんなに好きではない。
それに、池井さんの『武器を生み出す力』も、池井さんよりもサバゲーなどを好む土通さんの方が相応しい気がするしね。
「でもさ、リョータも大変だよね」
無理矢理にでも一貫性を作り上げようと、頭を捻って考えていた俺に言う。
今回の〈統一杯〉で一番大変なのは、案外、俺なのではないのかと。
アイリさんの言っている意味が分からず、
「ほぇ?」
と、気の抜けた声を返してしまった。
そんな俺の返事が可笑しかったのだろうか。
アイリさんは「へへへ」っと微笑む。
「だってさー、仲間と戦わなきゃいけないんでしょ? それって、私が大将とかケインと戦わなきゃいけないってことだもんね」
私には絶対できないよ。
アイリさんはそう言った。
自分の仲間達とは戦えないと。
「……いや、俺も別に戦う気はないですよ」
そしてそれは、なにも俺だけじゃないだろう。
皆、そう思っているはずだ。
「……土通さんに殺されかけたけど」
あれは、結局冗談だったんだっけ?
何でも斬れる剣で真っ二つにされるところだったのだ。土通さんからすれば冗談だったのかも知れないが、俺からしたらマジで命の危機だった。
「でもさ、もしも、リョータを殺しに来る仲間がいたら、その時はどうするの? リョータは信じているかも知れないけど、今度は冗談ではなく殺そうとするのかも知れない。その時、黙って殺される?」
「それは……」
考えてもみなかった。
日本という平和な国で育った俺達が殺し合うなんて、そんなことある訳ない。しかも、まだ、この世界に来て三か月だ。
そう簡単に人を殺す決意が出来るわけがない。俺はアイリさんの言葉を否定しようとするが、それが出来なかった。
異世界人が殺し殺される世界を知ってしまっているから。
「うん。戦場に出たいと思うのはいいことだけど――ちょっと、意識が甘い気がしたからねー」
「……」
なるほど。
アイリさんが俺に異世界人の話をさせたのは、なにも、本気で力を特定しようとしたわけじゃないのか。
異世界人同士なら戦わない。
手を取り合える。
その考えを持ったまま、戦場に出るのは危険だと俺に伝えるためだったのか。
覚悟もなく戦場に出ようとする俺への忠告だった。
「大将もケインもサキヒデも、その辺のことは深く考えていないみたいだから、私が代表して言っておくね!」
「ありがとうございます」
「うんー。だからー、クロタカと訓練するのは良いかも知れないね。何か得る者があると思うな」
だから、怖がらずに頑張ってと励まされた。
忠告と励ましを受けた俺は――もう少しの間、優しい狂人の訓練を受けなければいけなくなったようだ。
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