31話 完璧なる英雄に焦がれる男
「いやー。まさか、仲間のために自ら危険地帯に飛び込むなんて、上に立つ人間の鏡だ! 僕はあなたを尊敬しますよ」
「なーはっはっはっは! そういうお前も、領を追い出されたにも関わらず、人助けの旅をするなんて、普通の人間じゃないよな!」
先輩と出会ってから一時間。カナツさんと先輩の息が合い始めていた。
島の奥を目指して冒険する俺達4人。
その間にも何度が〈紫骨の亡霊〉が襲ってくるが、霧を吹き飛ばす力を持った先輩のお陰で、大した消耗もなく、進むことができた。
俺達が出会った〈紫骨の亡霊〉は二人。
一人は頭に黒い手拭いを巻いた骸骨。
もう一人は左目に眼帯をした髑髏であった。
……アサイド領は、きっと海での活動が盛んだったのだろう。
骸骨が相まってまるで海賊のような風貌だった。
「なんで大将は、あんな奴度仲良くしてるんだよ……」
ケインが前を歩く二人に聞こえない声で呟いた。
先輩が〈紫骨の亡霊〉を追い返すことに対して、ケインは不満げではある。だが、両親を殺した〈紫骨の亡霊〉には手を出さないと、先輩に懇願して、なんとか手を打って頂いた。
先輩も納得していないし、ケインも納得していない。
互いに不満を抱えたままではあるが……。
互いに納得する方法はないものかと、俺は考えていると、
「で、お前はどんな力を使えるんだ?」
カナツさんが先輩に聞いた。
いくら、距離が縮まったとはいえ、いきなり切り込み過ぎじゃないだろうか? 切り込むどころか大砲をぶち込んだ。
いくら気のいい先輩でも自分の力を教えてくれないだろう。
土通さんは隠す気はなかったようで、教えてくれたけど、普通なら隠す。
俺だったらそうするもん。
だが、先輩にしろ土通さんにしろ、俺ほど器は小さくないようだ。
はきはきと〈戦柱(モノリス)〉から与えられた力を惜しげもなく見せつける。
……教えちゃったよ。
土通さんが教えてくれたって思ったところで、「あ、なら、幼馴染の先輩も言うだろうな」とは分かっていたけども。
先輩がこの状況で嘘をつくことは――ない。
「僕は4つの属性――『火』『水』『風』『雷』を生み出し操ることが出来るんですよ」
その言葉の通りに、開いた掌から、炎が燃え上がり、水が噴き出し、風が渦巻き、雷が走る。
……かっけー!
先輩の力を見たカナツさんが感心する。
「それで『風』を操って吹き飛ばしたんだな。中々、応用力の高そうな力だね。どっかの経験値とは大違いだよ!」
「大将がそれ言ったらお終いでしょ!?」
「分かってるよー。冗談だよ、冗談」
「……」
怪しいなー。
本当は先輩がカラマリ領に来れば良かったと思っているのだろうが。だとしたら、泣いちゃうよ、俺?
まあ、先輩はその力を戦で使うことはないだろうけどな。
先輩は力を褒められたことが嬉しかったのか、
「この属性がまた、『マスター・フォー』と同じ属性でして!」
興奮した口調で語り始めた。
「ますたー・ふぉー?」
この世界で言葉は通じても、固有名詞が通じない場合が多い。中でも世界独自で生み出された創作物は特に通じない。
慣れれば不憫は感じないのだけども。
でも、やっぱり、好きな漫画とかを語れないのは寂しいよな……。
可愛らしい声で繰り返したカナツさんに、詳しく説明をする。
「〈マスターヒーローズ〉に所属している正義のチームですよ」
「????」
カナツさんは全然分かっていないようだった。
しょうがない。俺が助けて上げよう。
先輩が扮しているヒーローが、〈マスターヒーロー〉。
彼の元にいくつかのヒーローが集まり〈マスターヒーローズ〉と名乗っているらしい。実際に映画は見てないので分からないけども、多分合ってる。
……なんたらレンジャーズじゃなかった。「ズ」しか合っていないじゃん。自分の記憶力にびっくりである。
〈マスターヒーローズ〉を、この世界で分かりやすく伝えるのであれば、〈マスターヒーロー〉が大将。その下で働く〈マスター・フォー〉はケインやサキヒデさんと言うことになる。
「ああ、なるほど。要するに仲間達ってわけだな」
俺の説明で理解はしてくれたようだ。
随分簡単に纏められてしまったけど。
仲間達って……。
先輩の力が、〈マスター・フォー〉と同じ属性なのはどうでもいいけれど、やっぱり、4つの属性を操るっていいな。なんかすごい主人公っぽいし。
ヒーローに憧れている純粋無垢なイケメンだし。
少なくとも経験値として殺される役目の俺とは大違いだ。
因みに、先輩が目覚めた領は、ハンディ戦後にカラマリ領が戦った最下位の領だったらしい。カラマリ領と戦った時には、既に追い出されていたようだ。
だから、見つけることが出来なかったのか……。
しかも、領を追い出された理由も凄かった。
戦を行っていると知った先輩は、戦をやめるべきだと大将に提言したらしい。何度も何度も「争いは良くない」と言い続けたようだ。
結果、戦う気のない人間がいても邪魔なだけだと、追い出された。
……。
そこで追い出しちゃう当たりが、最下位な感じがするよね。
カラマリ領なら監禁するだろう。
ハクハ領とクガン領なら殺すはずだ。
何故なら、他の領に力を貸す可能性は零じゃないのだから。まあ、先輩なら自分が死んでも、人を殺す戦を良しとはしないだろうけどさ。
殺すことを良しとしない先輩の信条は、例えそれがヒーローだろうとも適用される。
例えば日本のヒーロー。
彼らは怪人を殺す。
『人を守るために』
『罪だと分かっているからこそ、背負うのだ』
そんな正義の良い分すらも、先輩は
それを実現している〈マスターヒーロー〉こそ、英雄だと先輩は言う。
俺はその話を、入社してすぐに、一時間かけて熱弁された。その時は、まさか、一緒にキャンプする仲になるとは思わなかったなー。
ただ、ウザかっただけだもん。
俺からすれば、どんなヒーローだろうが、戦ってもいいけど、世間には迷惑書けないでよ? 迷惑かけずに守ってよ?
と、ある意味アクション映画で言ってはいけない感想を抱く人間だ。
被害無くして守って頂ければありがたい。それが俺に取ってのヒーロだ。つまり、フィクションの中にもヒーローはいないということになるな。
でもさ、実際にヒーローがいたら、絶対、俺と同じことを考える人間の方が多いぜ?
フィクションだから楽しめているだけだ。
当たり前だけどね!
創作物にまでケチをつける俺はいいとして――、先輩に土通さんのことを告げるのは止めた方が良いだろう。
土通さんは、戦でハクハの兵士を殺した。
それを知ったら、先輩は土通さんの元に行くだろうが、まあ、間違いなく喧嘩になるだろうな。
土通さんと先輩。
付き合っているのが不思議なくらい、互いの意見が合わないのだ。
流石に殺し合いはしないだろう。
と、言い切れないのが土通さんである。
ま、俺がカラマリ領を優勝させればいいだけのこと。わざわざ、異世界で別れ話をさせる必要はない。
俺ってやっぱり優しいなー。
「お、あれって……」
先輩のお陰で、順調に島を進む俺たちの前に――黒い石碑が見えてきた。
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