第1章 優しくない門出
「!?」
目を覚まし起き上がる。
見回すとあたりは一面草原で
天気は気持ちの良い陽気だった。
「本当だったのか…」
もう一度ごろりと寝転び直す。
俺がお願いしたのは遠くへ行きたいというもので
何処に行くとは指定しなかった。
運悪く、スマホも財布も持っていない。
丸裸の状態で知らない場所に
放り出されてしまったのだ。
「……。」
思わぬピンチに血の気が引くのがわかる。全く何処の世界も厳しく親切じゃない。
ぼうっと惚けている訳にもいかないので、
俺は立ち上がりあたりを散策することにした。
しばらく歩いていると村があった。
小規模な村で住民はせいぜい100人程度だろう。
村の入り口の門らしき所を通り抜けようとした時
「ピビッー!」
甲高い警告音が辺りにこだました。
「な、なんなんだ!?」
瞬く間に村人らしき人々が周りに集まり、取り囲まれる。
「☆♪→¥$€」
なんだか勢いよく話しかけられているのだが、
未知の言語で全く理解できない。
「俺は怪しいものじゃない!」
「?」
言葉が通じ合わないようで、
万事休すと頭を抱えていると、
村人の1人がレコーダーのような物を
取り出して起動させた。
「俺たちの言葉がわかるか?」
「おお!わかるよ!」
「お前はどこから来たんだ?」
そう問いかけてくる村長的な人の顔は険しい。
「俺にもわからないんだ、ここはなんていうところなんだ?」
「なんだと?」
村人たちが集まってガヤガヤと話し合い始めた。不穏な雰囲気である。
不安な気持ちを誤魔化すように周囲を見回してみる。
さっきの機械もそうだが、どうやらこの村は日本のように近代化しているようで、所々に機械のようなものが見える。生活水準は高そうだ。
そろそろ終わったかなと村人たちの方を見やると
「………。」
一様に敵意の眼差しである。身の危険を感じて後ろににじり寄るが、退路に回られ、囲まれた。
「''ルーラー''はルーク様に差し出す事になっているんだ。悪く思うな」
抵抗しようにも相手が多い。俺は観念して両手を差し出した。
連れて来られたのは簡易の牢屋のようだ。案外清潔でトイレも付いている。
「変に近代化してるな」
フッと笑う。ルーク様が何かは知らないが、おそらく王様か領主みたいなものだろう。
「飯だよ」
日本では中学生ぐらいであろう少年が
美味そうな飯を持って来た。
「ありがとう」
牢の隙間から飯を入れてもらうと勢いよく食べ始めた。
「なんも食ってなかったのか?」
「ああ。腹ペコなんだ」
少年は俺のがっつきように少し呆れたよう顔をしている。
メニューは肉じゃがのようなものと、
米に似ている穀物と味噌汁風のスープである。
全部日本の料理のようだが、味付けは少しずつ違う。
小皿に入った蟹の様な物を蒸した物を恐る恐る剥いて食べる。
「!?」
高級な牛肉の様な味だ!はたまた勢いよくがっついていく。そうして一通り食べ終わった頃を見定めて少年が話しかけてきた。
「あんた何処から来たんだ?」
「日本だよ」
「ニホン?」
日本が何かわからないらしい。
どうやらここは全く知らない世界の様だ。
それにしては元の世界に似たものがたくさんあるが。
「名前は?」
「橘 岳だ」
「タチバナ ガクか 俺はカミルだ」
「カミルというのか よろしく。ところで、この村では外から来た人にこんなひどい対応をするのか?」
少しばかりの非難のニュアンスを込めて言うと、
カミルはバツが悪そうに眉をひそめ苦笑した。
「大人の考えてることはわからないよ。
それに、ルーラーは特別なんだよ」
用事を思い出した様にカミルは去っていった。
夜だ。外から差し込む光は暖かくこんな状況でも落ち着きを与えてくれる。
全く新しい世界は全く受難ばっかりで夢もへったくりもない。でも、このいう状況の方が慣れている。
ごろりとふて寝していると、外の光がふっと消える。
「なんだ!?」
暗闇の中で身構えていると誰かの手が俺を掴み、どこかに引っ張られて行くような感覚とともに気を失った。
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