軽い気持ちで新世界

君谷 潤

プロローグ はじまりは突然に

皆さんは自分が社会の中で必要とされていないと

感じる瞬間はあるだろうか?

 

例えばそれは飲み会の時である。

普段仲良かったはずの人に置き去りにされ

騒がしい場において自分が浮き上がってしまう感覚。


他には、多数人で会話する時。

他の人に会話を譲り気を使い

次第にその輪から外れてしまう。


恥ずかしながら俺の体験だ。

 

こういう時において

自分は自分の立ち位置を勘違いしていた事を自覚し

思い上がりを訂正するのだ。


そして、ありもしないタラレバを夢想し遠くへ行きたくなるのだ。

 

と、飲み会帰りの電車の中、酔いもすっかり冷めた 俺は考え込んでいた。

 

車内は終電に近い時間帯で人は多く

恐らく飲み過ぎたであろう社会人たちが寄り固まって盛んにしゃべっている。


俺は電車の窓に頭を押し付けながら

憂鬱な気分を抑えきれないでいた。


必要とされていないなら、遠くへ行ってしまいたいというのはおかしいのだろうか?


自分自身が1番力を発揮できる所にいたいと思うのは俺だけだろうか?

 

もっともこの世界では、放浪に出てしまおうものなら社会から脱落してしまう。


周りと同じ様に働き、価値観を共有する事が求められるのだ。


そんな世界クソくらえだと思いながらも

自分1人の力では解決はできないのだ。


そう諦念を抱きながら

俺は電車を出て家まで身近な帰宅の途についた。

 

俺の家は少し古びたマンションの三階にある。

大家が良い人で、俺みたいな貧乏学生には

良心的な家賃で住まわしてもらっている。

 

エントランスに備え付けられた

自分の部屋のポストをチラと見やると

何か変なチラシが挟まっているのに気づく。

 

「また宗教の勧誘か?」

 

ちょっと苦笑交じりにチラシを引っ張り出す。

 

「?」


俺はそのチラシの内容を見て思わず眉をひそめた。


表面には『今の人生に不満はございませんか?

あなたのお悩み解決します。』と書いてある。


宗教臭えとゲンナリしながら裏を見ると

これまた怪しげな図形が書いてある。


下には決心がついたら手を当てて目を瞑ってくださいという注意書きが書かれていた。


うさんくささにちょっと引きつつも、表面のフレーズが気にかかり、俺は思わずチラシをカバンの中にカバンにしまいこんでしまった。


 

 

俺はマンションの自分の部屋で例のチラシとにらめっこしている。


裏の図形は手の込んだ作りで

ミステリアスな雰囲気だ。

さらに、そこの図形に添えられた文字が

この世のものとは思えない禍々しさを放っている。

 

試しに紙を机に置き、両手を図形に重ねる。

そして、ただ一つ願ってみる。

 

《誰も自分を知る人がいない遠くへ、そして自分が必要とされる世界へ行きたい》

 

しばらく目をつむってみたが、何も起こらない。


「やっぱりな」


そしてちょっとばかり落胆しながらその紙を丸めてゴミ箱に捨てようとしたその時……


「なんだ!?」


そのチラシがおもむろに光りだす。

思わず拾い直し、裏の図形を急いで確認する。


今や図形は全体が光り出し文字がともすれば空中に浮き出しているの様な幻覚を覚えた。

 

俺疲れてるのかな、と首をかしげた瞬間、吸い込まれる様な感覚と共に俺の意識は遠のいて行った。

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