11.4「alice in rainyland」#6




部屋にはバスタブがあった。大きな窓が夕闇

の雨を映していた。本を書いた人はその国に

行ったわけではない。別の国があるのか本当

はわからない。この島に住む人は誰も向こう

岸を見た事がないと宿屋は言った。向こう岸

を探しに行って戻ってきた人もいないのだと

。バスタブの中で静かな雨音を聴いていた。





リネンのベッドで目覚め、朝食を頼む。キッ

チンに座って、宿屋の茶色いしっぽが揺れて

いるのを目で追っていた。私が焼いたパンが

フレンチトーストになって出てきた。宿屋の

体は柔らかそうな毛で覆われ、耳は頭の上に

生えている。父と同じくらいの背をしている

けれど、姿は服を纏った猫そのものだった。




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